学び!と美術

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よくある質問~「造形遊び」って何?
2015.07.10
学び!と美術 <Vol.35>
よくある質問~「造形遊び」って何?
奥村 高明(おくむら・たかあき)

Q.「造形遊び」と「絵や立体、工作」は何が違うのですか?

A.「『造形遊び』がよく分からない」という声はいまだに聞こえます。その理由を考えながら「造形遊び」について検討してみましょう。

○名称の観点
 実は学習指導要領上、「造形遊び」は正式名称ではありませんでした。「材料をもとにした造形遊び」「楽しい造形活動」など様々な呼び方をされていました。そのためか教科書でも「絵」「造形遊び」とは示されていません。でも、今回の改訂で「造形遊び」は正式な名称になりました。教科書にも用語として用いられています(※1)。一般の先生が馴染むのはこれからでしょう。

○内容の観点から
 図画工作科では、学習内容を「表現」と「鑑賞」の二つに分けています。そして「表現」を「造形遊び」と「絵や立体、工作に表す」に分けています。簡単に言えば、材料や場所あるいは行為などに出会って始まるのが「造形遊び」、明確な目的があって始まるのが「絵や立体、工作に表す」です(※2)。別の内容というわけではなく、図のように一つの内容を二つの側面からとらえるという考え方です。

○能力の観点から
 「造形遊び」も「絵」も、育てようとする能力は一緒です。問われるべきは、学習を通して「発想や構想の能力が高まったか」「創造的な技能が十全に働いたか」です。「これは造形遊びだったか、絵だったか」ではありません。授業研究会でジャンルにこだわる議論を行うのは生産的とは言えないでしょう。

○ジャンルの観点から
 一方、「これは絵」「これは彫刻」というふうに、ジャンルに分けて考えることも必要です。このとき、図画工作には、そのような一般的な言葉でうまく表せないことがあるというわけです。例えば校庭の遊具をシートで包む定番の学習活動を何と呼べばいいのでしょう(※3)。「絵」ではないし、かといって「つつむ行為から発展した何か」と言うのも変です。これを「造形遊び」と呼んでいると考えてはどうでしょうか。

○行為の観点から
 そもそも、行為だけを取り出したら、大人も子どもも、造形遊びも工作も、区別はできません。例えば、「絵」の題材に「真黒にした画用紙を消しゴムで消しながら描く」という題材があります(※4)。消すという行為そのものを楽しみ、そこから新しい発見が生まれるような活動です。あるいは作家が「風景画」で、山肌の質感を表そうと無心に絵具をキャンバスに重ね、その行為から思わぬ効果が生まれているとすれば、それはまさに「造形遊び」の状態です。行為性は「造形遊び」で最も大切な要素です。

○〔共通事項〕の観点から
 このように「造形遊び」には「絵や立体、工作と共通する部分」と「絵や立体、工作と異なる部分」があります。その二重性が「造形遊び」の分かりにくさでした。でも今回の学習指導要領で、「形や色を手掛かりにイメージを膨らませて表現する」という行為的な部分は〔共通事項〕と設定されました。「造形遊び」で重視してきた内容が〔共通事項〕として小中で一貫し、広がったという言い方もできるでしょう(※5)。〔共通事項〕には「造形遊び」の二重性の解消という側面もあるのです。

○発達の観点から
 教科書を眺めて「絵や立体、工作」と「造形遊び」の題材を比べてください。低学年ほど渾然としています。中学年から分かれはじめます。高学年では、テーマ性がはっきりしてきます。中学1年生にも、小学校との接続として「造形遊び」が想定されています(※6)。さらに中学生一人ひとりの作品の中に「造形遊び」性を探すことができるでしょう。どの教科でもそうですが、学習内容は発達に沿って分かれ、具体的になっていきます。「造形遊び」も同じです。発達に応じて、その現れ方は変化します。

○指導の観点から
 低学年ほど「造形遊び」はシンプルに提案されます。例えば「どんどん ならべて」のような定番題材では「今日はたくさんあるものを並べてみようか!」で十分でしょう(※7)。それだけで、子どもたちは次々と工夫します。でも高学年で、先生「並べてみよう!」、子どもたち「お~!」とはならないでしょう。高学年では、色、光、雰囲気、そこを通る人の気持ちなど、様々な手掛かりを与えたり、テーマを明確にして探求的に進めたりすることが考えられます。

○評価の観点から
 「造形遊び」では、プロセスで働く資質や能力が重要です。例えば、子どもたちは、大きな黒い画用紙に絵具を垂らしながら「きれい」や「いい感じ」を見つけています。そして、もっとそれを「きれい」に「いい感じ」にしようと挑戦します。それは大人的に言うと「補色の組み合わせ」「バランスの追求」などの試みです。また、子どもたちは、自分の手の動きや変化する様そのものが大事で、それ自体を飽きもせず繰り返します。それは「行為そのものへの没入」で、そこから「発見」が生まれたりします。先生はこれらの姿を肯定的に評価し、「子どもが感じてはいるけど、言葉にはできない部分を言葉にする」「活動の面白さを認め、後押しする」、時には「止めたり、複数の提案をしたりする」などの指導につなげるとよいでしょう。

 小学校図画工作には「造形遊び」という内容があります。それは、活動内容の変化の自由度や幅、活動の発展性などが子どもたち自身に開かれている学習活動です。子どもたちは、「造形遊び」の中で、材料や場所、行為などの様々な資源とかかわりながら、資質や能力を発揮しています。自ら「有能な私」を生み出し、「今」「ここ」で自分自身を更新しています。
 まずは教科書に掲載されている定番の題材を実践してみましょう。そして、直観的にチャレンジしたり、論理的に組み立てたり、体を作品から離して考え直したりする子どもを感じ、味わいましょう。それが「造形遊び」を理解する一番の近道です。

 

※1:日本文教出版『図画工作』教科書では「ぞうけいあそび」「ぞう形あそび」「ぞう形遊び」としている。
※2:文部科学省『小学校学習指導要領図画工作編』日本文教出版(2008)pp.11-12
※3:「つつんだアート」 『図画工作3・4下 見つけたよ ためしたよ』日本文教出版(2015)pp.20-21

※4:「消してかく」 『図画工作5・6上 見つめて 広げて』日本文教出版(2015)pp.14-15

※5:もちろん中学校美術科、音楽科として〔共通事項〕を設定しましたので、あくまで「言いよう」です。
※6:文部科学省『中学校学習指導要領美術科編』日本文教出版(2008)pp.36 9行目から
※7:「どんどん ならべて」『図画工作1・2上 たのしいな おもしろいな』日本文教出版(2015)pp.40-41