学び!とシネマ

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ママはレスリング・クイーン
2014.07.16
学び!とシネマ <Vol.99>
ママはレスリング・クイーン
二井 康雄(ふたい・やすお)

(c)2013 KARE PRODUCTIONS – LA PETITE REINE – M6 FILMS – ORANGE STUDIO – CN2 PRODUCTION

 映画のタイトル「ママはレスリング・クイーン」(コムストック・グループ配給、クロックワークス配給協力)からは、つい見るのをパスしそうな、いかにもB級、C級のキワモノ映画を連想するが、とんでもない。息子との関係を回復するために、素人の女性がプロレスに挑戦する。静かな感動がじわりと押し寄せてくる。最近では「わたしはロランス」で、ロランスの母親役を演じた大好きな女優ナタリー・バイが、主役となる4人のオバサン・レスラーの一人に扮し、4人のオバサンは、見事なレスリングを披露する。
 北フランスの田舎町、ローズ(マリルー・ベル)は、ある些細な罪で、5年の服役を終えて出所してくる。代理母に面倒をみてもらっていた実の息子ミカエルと再会するが、ミカエルはローズに懐かない。息子と暮らすためには、ともかくローズは働かなければならない。ローズはなんとかあるスーパーで雇われることになる。息子はプロレスの大ファンで、ローズは、自分がプロレスラーになれば息子が心を開いてくれるかも知れない、と考える。ローズは早速、地元で元ヒーローだったプロレスラー、リシャール(アンドレ・デュソリエ)のジムを訪ねる。リシャールは素人同然のローズに、「仲間を集めて来い」と難題をふっかけて諦めさせようとする。ところが、ローズの決心は固い。ローズは、同じスーパーのレジ仲間に声をかける。いずれも意地悪な社長の下で、日頃のストレスが溜まっていて、それぞれ訳ありの人生を送っているオバサンたちだ。
 浮気な亭主を持つ五十路のコレット(ナタリー・バイ)、セクシーな風貌で男好きのジェシカ(オドレイ・フルーロ)、大柄な容姿にコンプレックスのあるヴィヴィアン(コリンヌ・マシエロ)の3人が、ローズの許に集結する。やる気十分の4人を前に、リシャールはコーチを引き受けることになる。
 小さな町である。オバサン4人のプロレス挑戦は、大ニュースとなる。当然、4人の抱えている仕事や私生活に、さまざまな問題がのしかかってくる。それでもオバサンたちは負けない。レスリングのトレーニングが続く。
 フランス映画の滋味がたっぷり。自らの不遇な人生から、少しでも抜け出そうとする気迫に満ちたエピソードが連続する。見ているうちに、つい4人にエールを送りたくなる。
 ローズを始め、コレット、ジェシカ、ヴィヴィアンのそれぞれの人物像、人生が、過不足なく巧みに描かれる。コーチ役のリシャールに扮したアンドレ・デュソリエは名優である。「ミックマック」や、先頃亡くなったアラン・レネ監督の「風にそよぐ草」などで渋い演技を披露している。息子を思う母親の心情を、「闘う」ことで示そうとしたローズ役のマリルー・ベリは、子役の頃からのキャリアが豊富、達者である。
 フランスのプロレスラーでは、アンドレ・ザ・ジャイアントが日本では人気があったようだが、フランスでもプロレスのファン層は厚いようだ。4人のオバサン・チームは、メキシコのチームと対戦する。そのメキシコもまた、仮面のレスラー、ミル・マスカラスといった人気者を輩出するプロレスの盛んな国である。
 女性のプロレスラーを描いた映画に、ピーター・フォーク主演、ロバート・アルドリッチ監督の「カリフォルニア・ドールズ」という傑作があったが、本作も負けてはいないほどの感動作である。監督は、テレビ・ドラマ畑のジャン=マルク・ルドニツキ。本作が映画監督のデビューとなる。
 息子と母親の確執が発端だが、4人のオバサンは不遇を嘆いているだけではない。一歩踏みだし、幸せになるよう邁進する。心震えるフランス映画だ。

2014年7月19日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ico_linkほか全国ロードショー

■『ママはレスリング・クイーン』

監督:ジャン=マルク・ルドニツキ
音楽:フレッド・アヴリル
製作:トラ・ラングマン
出演:マリルー・ベリ、ナタリー・バイ、アンドレ・デュソリエ・オドレイ・フルーロ、コリンヌ・マシエロ、イザベル・ナンティ
フランス/97分/カラー/デジタル
原題:Les Reines du ring
配給:コムストック・グループ
配給協力:クロックワークス
協力:WWEスタジオ