学び!とシネマ

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ジプシー・フラメンコ
2014.08.08
学び!とシネマ <Vol.100>
ジプシー・フラメンコ
二井 康雄(ふたい・やすお)

(c)2013CROMOSOMA SA/LASTERMEDIA SL/TELEVISIO DE CATALUNYA SA/EVAVILA,IDEC-UPF

 詳しくはないが、フラメンコが好きである。踊りも歌も。以前スペインのグラナダの、たぶん観光客相手と思われる場所で、フラメンコを見たことがある。魅せられてしまった。延々と踊り、唄う。マドリードには、フラメンコのライブを見せる店があった。夜の10時頃から、やはり延々と踊り、唄う。聞くと「クアトロ・メディア」、午前4時半までやっているという。さすがに終演まではつき合えなかったが、いずれも見事なフラメンコだった。
 フラメンコが華々しく踊られる映画「バルセロナ物語」を見たのもずいぶん前である。若いころのアントニオ・ガデスが出ていたが、白眉はカルメン・アマジャの踊りと歌だ。ストーリーは「ロミオとジュリエット」そのままで、格別、劇的ではなかったが、カルメン・アマジャとアントニオ・ガデスの踊りがひときわ目立つ映画だった。
 このほど公開の「ジプシー・フラメンコ」(パンドラ、ピカフィルム配給)は、不世出の天才的フラメンコ・ダンサー、歌手のカルメン・アマジャに捧げられたかのような映画だ。フラメンコが大好きな5歳の少年フアニートと、カルメン・アマジャを大叔母に持つ、やはりフラメンコの名手、カリメ・アマジャと、カルメン・アマジャの姪で、カリメ・アマジャの母親であるメルセデス・アマジャ・ラ・ウィニー、彼ら3人のフラメンコへの思いが描かれていく。ドキュメンタリー映画というより、ドラマ仕立ての展開である。

(c)2013CROMOSOMA SA/LASTERMEDIA SL/TELEVISIO DE CATALUNYA SA/EVAVILA,IDEC-UPF

 舞台はバルセロナ。カルメン・アマジャが踊り、唄う「バルセロナ物語」という映画をみんなで見ている。スクリーンを見つめるまだ5歳の少年フアニートの瞳は、カルメン・アマジャのマシンガンのような足の動きに釘付けになる。
 カリメ・アマジャに、フラメンコの舞台の話が舞い込む。大叔母のカルメン・アマジャに捧げる舞台である。若い演奏家たちは、みんなカルメン・アマジャに憧れている。カルメン・アマジャ亡き今は、この舞台にふさわしいのはカリメ・アマジャと信じている。カリメ・アマジャは、メキシコにいる母のメルセデス・アマジャ・ラ・ウィニーに電話する。「ママもいっしょに出演して」と。
 リハーサルが始まる。演奏家たちは、カリメ・アマジャのすばらしい踊りに驚嘆する。さらに、母親のメルセデス・アマジャ・ラ・ウィニーが加わることになり、リハーサルが盛り上がっていく。
 フアニートは、大好きな叔父のギターに合わせて踊る。なかなかの腕前だ。踊り用の靴を選ぶ。いろいろと迷うが、赤いエナメルを施した靴を自分の意志で選ぶ。叔父の仲間たちがフラメンコを演じている。目を輝かせて見つめるフアニート。
 カリメ・アマジャが大叔母カルメン・アマジャの話をする。カルメン・アマジャは、ある取材で「踊りとは学べるものか天性のものか」と聞かれる。カルメン・アマジャは答える。「天性のものだ。努力して身につけた高い技術は賞賛に値する。でも、心で感じないとね」と。そして、「本気で踊ろうと思ったら、情熱を注ぎ、心を込めて謙虚に向き合うべきよ」と付け加える。カリメ・アマジャは、「全身全霊を捧げて私たちが踊れば、彼女の魂も共にある」と考えている。
 リハーサルが続く。フアニートは噴水の水を浴びながら、踊る。メルセ祭で、カリメ・アマジャとメルセデス・アマジャ・ラ・ウィニーの母娘が踊る。カリメ・アマジャは、フラメンコ史上初めて女性がパンツ・スーツで踊った大叔母に敬意を込めて、パンツ・スーツで踊る。メルセデス・アマジャ・ラ・ウィニーとカリメ・アマジャの母娘、少年フアニートたちを通して、ジプシー・フラメンコの「血」は受け継がれていく。
 もう、見ていて、少しずつ、震えが込み上げてくる。映画を見て学ぶことは多い。フラメンコだけの話ではない。何事にも情熱を注ぐ、謙虚に向き合う、全身全霊を捧げる…。その通りだと思う。
 わずかの興味であることが、一本の映画がきっかけになり大いなる興味に変わる。「ジプシー・フラメンコ」を見て、ますますジプシーの歴史を、フラメンコの歴史を知りたくなった。

2014年8月9日(土)より渋谷ユーロスペースico_linkほか全国順次公開!

『ジプシー・フラメンコ』公式Webサイトico_link

脚本・監督:エヴァ・ヴィラ
出演:カリメ・アマジャ、メルセデス・アマジャ・ラ・ウィニー、フアニート・マンサーノ
原題:BAJARI
日本語版字幕:原田りえ
2012年製作/スペイン/デジタル/1:1.66/ドルビーSRD/84分
提供・配給:パンドラ+ピカフィルム