学び!とシネマ

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ハッピー・リトル・アイランド ―長寿で豊かなギリシャの島で―
2014.10.10
学び!とシネマ <Vol.103>
ハッピー・リトル・アイランド ―長寿で豊かなギリシャの島で―
二井 康雄(ふたい・やすお)

(C)ANEMON

 ギリシャでテレビのドキュメンタリーを作っているニコス・ダヤンダス監督が、ニューヨーク・タイムズの「祝福された長寿の島」と題された記事を読む。ギリシャのエーゲ海の小さな島であるイカリア島の人々は、世界のどこよりも長寿で幸せに暮らしているという。監督は、映画「ハッピー・リトル・アイランド―長寿で豊かなギリシャの島で―」(ユナイテッドピープル配給)を撮るためにイカリア島に向かう。ちょうど、アテネから島に移住しようとしているトドリスとアナというカップルを取材する。

(C)ANEMON

 ギリシャはこのところ経済が疲弊、長生きする人や幸せな人は稀といった現実がある。三人に一人は貧しく、若者の半分は無職という。アテネを抜け出そうとしても、仕事がない。トドリスは、コンピューター関係の仕事をしているが、治安が悪化したアテネを脱出しようとしている。トドリスは思う。「もはや、アテネでは幸せを見つけられない。格差が生じ、人々は助け合おうとしない」と。
 トドリスは、まずひとりでイカリア島に向かう。島には松やオークが茂り、オリーブ畑が広がっている。トドリスは土地と家屋を買う。修理や手入れが必要なボロ家だが、畑を耕し、なんとか早くアナを迎えようとしている。近くに住む、80歳になるヨルゴスがトドリスに言う。「ここの生活にも慣れるし、きっと道は見つかるさ」と。ヨルゴスは、小さいころから作物を育て、自給自足している。「お金がなくても生きていける。作物を育てる大地があるさ」とヨルゴス。
 トドリスの奮闘が始まる。農業経験は初めてである。やがてコツらしきものは掴むけれど、なかなか計画通りに事は運ばない。ヨルゴスは、毎日欠かさずに働き、「体は疲れるが、精神は疲れない」と言う。とても80歳には見えない。オリーブ油を作ったり、蜂蜜作りの仕事もある。
 長寿の調査で、フランスからロマンという医者が島にやってくる。墓地に向かい、墓碑を見る。100歳まで生きた人が多くいることを知る。元気そうな老女に長寿の秘訣を聞く。「人生は美しいものよ。うまく生きられるならね。人生を楽しめないなら、死んだほうがマシよ。互いを思いやって生きたい、助け合いでね。それが望みよ」と老女。

(C)ANEMON

 オリーブを収穫する人たちがいる。人手が足りないときは、みんなで助け合う。島では、資金集めのパーティがよく開かれる。学校を維持するための費用集めなどだ。島の伝統は、困っている人を助けること。島民には格差はない。どこかの家に問題があれば、みんなで救いの手をさしのべる。
 トドリスが島に来て数ヶ月経つ。なかなか島の人たちに馴染めない。トドリス以外にも、アテネで失業した若者が島で働いている。家賃代わりに、大家の庭の手入れをしたり、家の塗装をしたりしている。
 島の種々相が見えてくる。トドリスも、苦労しながら仲間たちと共同で農作物を作ろうと動き始める。
 いったい、人の世の「幸せ」とは何だろう。経済成長優先の国が多いなか、一見、豊かに見える世の中が、はたして本当に豊かなのか。幸せなのか。医者のロマンに話す老女の言葉がいい。「贅沢品じゃなくても必要なものは誰もが手に入れることができる。人生に必要なものがね。でも、権力者たちはそんなものに目もくれないのよ。ぶっ飛ばしてやりたいわ」
 静かに、地に足をつけて、助け合って、島の人たちは生きている。よそ者への差別もない。「幸せ」とは、「豊かさ」とはを、じっくりと考えさせてくれる映画と思う。

2014年10月11日(土)より渋谷アップリンクico_linkほかでロードショー!

『ハッピー・リトル・アイランド ―長寿で豊かなギリシャの島で―』公式Webサイトico_link

監督:ニコス・ダヤンダス
プロデューサー:レア・アポストリデス、ユーリ・アヴェロフ
製作:ANEMON
共同制作:ARTE & ERT
配給:ユナイテッドピープル
原題:LITTLE LAND
ギリシャ/2013年/ギリシャ語・英語/52分/HD/16:9/カラー/ドキュメンタリー