学び!とシネマ

学び!とシネマ

サン・オブ・ゴッド
2015.01.09
学び!とシネマ <Vol.106>
サン・オブ・ゴッド
二井 康雄(ふたい・やすお)

(c)2014 LightWorkers Media Inc. and Hearst Productions Inc. All Rights Reserved.

 外国では、相変わらずイエス・キリスト関係や聖書関連の映画を作り続けている。昨年では、ノアの箱船を描いた「ノア 約束の舟」や、近く公開の、モーゼの十戒に材を得た「エクソダス 神と王」など、聖書やイエス・キリスト関連の映画は根強いテーマのひとつとなっている。また、多くの外国映画のちょっとしたセリフに聖書の一節が使われたりする。テレンス・マリック監督の「ツリー・オブ・ライフ」や「トゥ・ザ・ワンダー」などは、聖書に書かれた祈りそのものの映画である。キリスト教にそれほど縁のない向きには、理解の及ばないことも多いが、西欧では、聖書やイエス・キリストが生活や教育の場で身近にあり、映画の題材になることも多いのだろう。
 イエス・キリストが主人公となる外国映画をざっと思い出してみると、「キング・オブ・キングス」、「奇跡の丘」、「偉大な生涯の物語」、「ジーザス・クライスト・スーパースター」、「最後の誘惑」、「パッション」などが想い浮かぶ。このほど、イエス・キリストの伝記として、その誕生から死、復活までを描いた映画「サン・オブ・ゴッド」(ブロードメディア・スタジオ配給)が公開される。

(c)2014 LightWorkers Media Inc. and Hearst Productions Inc. All Rights Reserved.

 手短かに天地創造の創世記から始まり、アダムとイヴ、ノアの箱船、モーゼの十戒などのエピソードが語られる。ベツレヘムに東方の三博士を迎えて、救世主としてイエスが誕生する。預言者ヨハネから洗礼を受け、神の言葉を伝えるべくイエス(ディオゴ・モルガド)は数々の奇跡を起こしながら教えを広め、弟子を集めていく。ガリラヤの湖では、漁師のペトロ(ダーウィン・ショウ)に多くの魚を釣らせる。ユダヤ人に嫌われているローマ帝国の税吏マタイや、マグダラのマリア(アンバー・ローズ・レヴァ)らも、イエスの弟子となる。
 イエスの弟子たちや、イエスの説教に共感する人たちが増えていく。多くのユダヤ人たちは、イエスこそがローマから派遣されたピラト総督(グレッグ・ヒックス)の圧政から救ってくれる、と期待するようになる。イエスの奇跡は続く。ガリラヤの湖を歩き、ラザロを死から復活させる。この奇跡を知ったエルサレムの祭司カイアファ(エイドリアン・シラー)は、イエスに熱狂する人たちの存在に、ローマ帝国が介入するのではないかと危機感を強める。
 イエスたちはエルサレムに向かい、大衆はイエスを救世主として崇める。本来、祈りの場である神殿が、いまや商いの場となっていることにイエスは怒る。エルサレムは大騒ぎとなり、騒ぎはカイアファやピラト総督の知ることになる。ユダヤ人たちはローマの支配に不満を持っている。このままでは暴動になりかねない。やがて、イエスの弟子のユダがイエスを裏切ることになる。過ぎ越しの晩餐が始まり、イエスが弟子たちに告げたこととは…。

(c)2014 LightWorkers Media Inc. and Hearst Productions Inc. All Rights Reserved.

 聖書に基づき、イエスの多くの有名なエピソードを簡潔に網羅してイエスの生涯を描いていく。続出するエピソードに、いったいイエスはどうなるかのサスペンスが盛り込まれる。しかも、ドキュメンタリー・タッチのリアルな演出である。監督は、イギリス生まれのクリストファー・スペンサーで、テレビのドキュメンタリー作品で実績を残している。過去に、ジェフリー・ハンター、マックス・フォン・シドー、ウィレム・デフォーといった著名な俳優がイエス・キリスト役を演じたが、本作ではポルトガル生まれのディエゴ・モルガドが抜擢された。テレビ・シリーズの「ザ・バイブル」でイエスを演じた実績があり、リアリティたっぷりにイエスを力演する。
 日本におけるキリスト教は特定の学校では教育の現場で教えられるが、西欧ほど一般には根付いていない。多くの外国映画を見ると、聖書の一節や、ユダヤ教、キリスト教関係のセリフに出会うことが多い。かつて、チャールトン・ヘストンがモーゼに扮した映画「十戒」を見たあと、まっ先に旧約聖書の「出エジプト記」を読み出したことがあった。外国の映画好きなら、普段から聖書を丹念に読んだりイエスの生涯を辿ったりしていると、より映画の理解が深まるはずである。その意味で、本作は常識としてのキリスト教や、イエス・キリストの生涯を理解するにはうってつけの映画である。もちろん、イエスが復活し、永遠の命を得たかどうかは、人それぞれ信じるかどうかではあるのだが。

2015年1月10日(土)より新宿ピカデリーico_link丸の内ピカデリーico_linkほか全国ロードショー!

■『サン・オブ・ゴッド』

製作:ローマ・ダウニー、マーク・バネット
監督:クリストファー・スペンサー
脚本:クリストファー・スペンサー、コリン・スウォッシュ
音楽:ハンス・ジマー
出演:ディアゴ・モルガド、ローマ・ダウニー、グレッグ・ヒックス、エイドリアン・シラー、アンバー・ローズ・レヴァ 他
2014年/アメリカ/英語/カラー/シネマスコープ/138分
原題:SON OF GOD
字幕翻訳:松浦美奈
配給:ブロードメディア・スタジオ