学び!とシネマ

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ブレイク・ビーターズ
2016.06.22
学び!とシネマ <Vol.124>
ブレイク・ビーターズ
二井 康雄(ふたい・やすお)

 ベルリンの壁が崩壊したのは、1989年である。その結果、東西ドイツが再統一される。「ブレイク・ビーターズ」(アニモプロデュース配給)は、この少し前の1980年代、まだ東ドイツが社会主義政権だったころの実話に基づいた映画である。
 若者たちが、路上で、自由にダンスを踊る。東ドイツ政府は、西側の文化は、規制の対象と考えている。若者たちのダンス熱は、いっこうにさめない。ますます、若者たちの踊るブレイクダンスが熱気を帯びていく。政府は、どうしたか。路上で、好き勝手に踊ることを禁じ、代わりに、ダンス・チームにアーティストのライセンスを与え、テレビや舞台でのダンスを許可する。つまり、ブレイクダンスを、「社会主義化」するといった政策をとる。これは、個人個人が自由に踊るのではなく、チーム全員がおなじダンスを踊ることを意味する。

 舞台は1985年、ドイツの工業都市、デッサウ。フランクという19歳の若者は、西ドイツのテレビ番組で見た、ブレイクダンスに目が釘付けになる。そして、カリプソの大歌手、ハリー・ベラフォンテが製作した、1984年のアメリカ映画「ビート・ストリート」を見て、さらに驚く。ニューヨークのサウス・ブロンクスで、ブレイクダンスに打ち込む若者たちを描いた映画で、若者たちが、路上で、自由に、踊っている。フランクは、映画を見た仲間のアレックスともども、興奮がさめない。さらにダンス仲間が増える。元オリンピック・チームにいた体操の女子選手マティナ、やはりブレイクダンスに魅せられたミヒェル。4人は、路上でダンスを踊り続けるようになる。
 路上でのダンスが、国家警察の知るところとなり、フランクたちは拘束される。アメリカの、非社会主義的なブレイクダンスは禁止、とのこと。フランクたちは、言う。「ブレイクダンスは、もともと、アメリカの貧しい人や、虐げられた人たちの反抗から生まれたもの。反資本主義だ」と。
 なんとか釈放されたフランクだが、もともと、父親はダンスに大反対。ますます、親子の仲が悪くなる。若者たちの、ブレイクダンスの勢いがさらに増していく。とうとう、政府の「娯楽芸術委員会」が、「ブレイクダンスを社会主義化する」方針を打ち出す。フランクたちのグループ「ブレイク・ビーターズ」は、委員会のメンバーの前で、踊る。委員会は、フランクたちに、B級のライセンスを与え、テレビ出演や、東ドイツ内のダンス・ツアーを、国家予算で支援することになる。さて、どうなるか。
 崩壊寸前の東ドイツの事情が、背景にある。若者たちの自由への希求は、いろんな分野で、顕著になっていく。そのような時代の雰囲気が、うまく漂ってくる。若者は、国家の規制や縛りからも、自由であるべきと思う。自らの欲することをする自由がある。

 日本では、18歳から選挙権が与えられることになる。テレビで、若者のインタビューを見て、驚いた。まったく、無関心のようす。興味がない、誰に投票しても同じ、だから投票しない、と答える。選挙では、ぼくたちが、どのような社会を選ぶかが、問われている。勉強して、自らの生き方を選び、職に就く。そのために、どうすればいいか。どうすれば、自由でいられるか。
 映画「ブレイク・ビーターズ」は、どのような社会を選ぶかの、大きなヒントを与えてくれる。路上で、ダンスをする。他人に迷惑をかけない限り、ぼくたちは、何をしてもいいはず。
 若い、無名の俳優さんたちばかりのドイツ映画である。ダンス経験のある俳優さんたちが選ばれたらしい。何度かでてくるダンス・シーンは圧巻。ことに、ラストで踊られるダンスには、痛快な笑いと、ほろ苦い切なさがこみ上げ、心ふるえる。
 監督は、ヤン・マルティン・シャルフ。ドイツ生まれだが、アメリカで映画を学ぶ。テレビ・ドラマなどの監督作がいくつか。たぶん、日本公開の劇映画は、これがはじめてと思う。東ドイツの役人たちへの、風刺たっぷりの描写は、なかなかの力量を思わせる。

2016年6月25日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ico_linkほか全国順次ロードショー

『ブレイク・ビーターズ』公式Webサイトico_link

監督:ヤン・マルティン・シャルフ
脚本:ルート・トーマ
出演:ゴードン・ケメラー、ゾーニャ・ゲルハルト、オリバー・コニエツニー、セバスチャン・イェーガー
2014年/ドイツ/90分/ドイツ語/カラー/1:1.22/DCP/5.1ch/原題:DESSAU DANCERS/日本語字幕:金関いな/後援:ドイツ連邦共和国大使館 日本ストリートダンス協会
配給:アニモプロデュース
宣伝:アティカス
映倫:PG12