読み物プラス

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未来に輝く子どもたち
2015.03.06
読み物プラス <Vol.15>
未来に輝く子どもたち
~美術教育ができること
福島県南相馬市立鹿島中学校教諭 大越司

 家族で遠方へ出かけたときにいつも思うことがあります。それは震災から4年が経ち、震災の記憶が薄れていくのだろうと感じています。福島県では、毎日のテレビニュース番組で各地域の放射線量が報道され、仮設の住宅に多くの方が避難生活を送っています。また、本校がある場所は福島第一原子力発電所から30キロにあり、隣接する地域(居住制限区域)の4つの小学校が、本校の校庭に仮設校舎を建て同じ敷地内でともに生活を送っています。そのような中で、子どもたちは後ろを向くことなく、明るく元気に前を向いて一生懸命に頑張っています。
 美術の教員として、子どもたちの感じていることをどのように表現させればいいのか、また、頑張っている姿を保護者や地域の方にどう発信すればよいのかなど、子どもたちや地域の実態を考えて、教材の選定や題材の見直しをしてきました。そのなかで、学校全体として取り組んでいる文化祭にスポットをあてて今年度は取り組みました。
 文化祭は、体育館を会場に様々な発表があります。主に、各学級による合唱コンクールや各学年の総合的な学習の時間の学習成果の発表です。美術科では、授業で制作した作品を校舎内に展示をしますが、それ以外に各学級で文化祭のテーマにあった大きな絵を描いて体育館の壁面に展示するビッグアートコンクールを行います。

 はじめに、文化祭のテーマを生徒会が中心になり、全校生徒から募集します。募集した中から生徒会で話し合いテーマを決定します。今年度のテーマは「挑戦」、サブテーマが「限界の壁を越えるまで」でした。
 つぎに、文化祭テーマをもとに全校生徒で原画を考えました。各学級で互いの原画を見て、テーマにふさわしい原画を選びました。それをもとに各学級の6名の制作係が制作を行いました。

授業内でテーマについて考えて、一人一人が原画を描いた。

 制作は、9月中旬から昼休みの時間や放課後の時間を使いながら行いました。子どもたちに文化祭展示までの制作計画を提示して、各学級の制作委員が互いに制作内容の分担を決めたり、制作手順を確認したりするなど話し合いをしながら進めていきました。

<制作工程>
 ・パネルに、ロール紙をはる。
 ・鉛筆で原画を見ながら下書きする。
 ・ポスターカラーで着色する。

 完成した作品を文化祭前日に体育館へ展示しました。制作委員たちは、自分たちの描いた作品を見て完成させた喜びと達成感に満足していました。また、互いの作品を見て労をねぎらうとともに、同じテーマからのとらえ方の違いや表現方法など、学年の壁を越えて楽しそうに話をしていました。さらに、他の準備をしている生徒たちも足を止めて、絵を見たり、制作委員と制作内容の話している姿がありました。

<左上から1年生、右上が2年生、左下が3年生。各学年4学級の12枚の作品>

 ビッグアートコンクールとしてスタートした企画のため、先生方に審査員になっていただき、文化祭の閉会式前までに審査をしていただきました。どれも力作で先生方も審査に大変苦労されたと聞きました。また、子どもたちが制作をしている段階から、多くの先生方に声をかけていただいたことが励みとなり、今回の力作につながったと感謝しています。
 文化祭には、PTAの方々をはじめ、多くの保護者や地域の方々が来校されていました。少しでも子どもたちが元気に学校生活を送っている姿と成長した姿が伝わればと思いました。
 最後に、震災前からあった文化祭ですが、震災後に再開された文化祭のテーマ「笑顔」「CIRCLE」など、人と人との繋がりや絆をテーマに掲げていましたが、今年度のテーマが大きく変化していることに気づきました。生徒会の子どもたちに、なぜ今年度のテーマが「挑戦」なのか聞いたところ、『今まで様々な方たちに支援や応援をいただいて僕たちは頑張ってこられた。そのお礼の意味を込めて、いろいろなことに挑戦する僕たちの成長した姿を見てほしい』との思いがあったからだそうです。その思いを聞いたときに、言葉に詰まり何も言えず、ただ感動しました。前を向いて頑張ろうとする子どもたちがたくましく思えました。これからも美術教育を通しながら、未来を担う子どもたちを育てていきたいと思います。