●実践事例 中学校
総合的な学習の時間における
体験を生かした道徳の時間の充実


山梨県 山梨市立山梨南中学校 教頭 内藤 理

 

はじめに

 総合的な学習の時間が創設された。単なる知識伝達型の指導から,学習活動を子どもの側から見つめ直す必要が生じ,多くの学校で実践が深められている。

 わたしが研究に深くかかわることができたS中学校も,一丸となってそうした取り組みを行っている学校の一つである。

 S中学校では,特別活動を中心にして,進路学習を積極的に推進している。第2学年では,進路学習の一環として「職場体験」を実施しており,この体験の過程で生まれた疑問を足がかりに,その疑問から総合的な学習の時間へと学習が展開し,学習過程での具体的な体験との関連の中で,生徒一人ひとりが生き方や考え方を見つめる道徳の時間の充実をも目ざしたものだ。

 

実  践

1 特別活動での取り組み

 この学年では進路学習の一環として,特別活動に位置づけて地域の「職場体験」を2日間実施している。生徒が体験学習を行う場所は,学校周辺の鉄工所,民宿,コンビニ,保育園,図書館,獣医院など十か所に及び,3名から5名程度のグループに分かれて訪問実習させていただく。

 実習先では,働く人々の姿を間近にし,生徒は働くことの意味について考えたり,自らの進路に対する関心を深めたりするなど,進路学習の成果を手にしていく。また,体験活動の過程をとおして,さまざまな疑問や課題をもつ生徒も多い。

 ある民宿で職場体験をした生徒は,経営者の老夫婦から「少し離れた国道の看板をきれいにしたり,花を植えて庭を明るくしたりしているのだが,最近は客がめっきり少なくなった」と聞かされる。老夫婦のために「どうしたら客を呼び寄せることができるのか」自分たちにできることはないか考えてみたいという思いを強くもった。

 また,市立図書館を訪問した生徒は,地下1階,地上2階の立派な館内を見学した。数万冊の蔵書のうち,大半の蔵書が地下の書庫で出番を待っていることも知った。そして「市内各地に小さな図書館を数多くつくることと,立派な図書館を一つつくることとのメリットとデメリットは何だろう」と考えるようになった。

 市営ゴミ焼却場を訪問し,ゴミ収集作業にもかかわった生徒は,1日に集められるゴミのあまりに膨大な量を目の当たりにして,ゴミ減量の必要性を痛切に感じ,「ゴミを少なくする方法や,そのために自分たちにできることはないか」考えるようになった。

2 総合的な学習の時間への発展

 教師は,こうした生徒の関心や疑問の高まりをとらえ,総合的な学習の時間をスタートさせた。

 総合的な学習の時間の課題を設定する段階では,生徒が,多種多様な関心や疑問のすべてを出し合い,取り組むにふさわしい課題かどうか,全員で吟味するよう指導した。「どのような観点から課題を吟味すればよいか」という教師の問いかけに,生徒は「みんなで共有するにふさわしい価値内容か」,「自分たちの力でなんとか結論に到達できるか」,「解明の道筋がおぼろげながらでも見えそうか」など,いくつかの視点を出し合い,これに基づいて課題選定の討論を行った。

 ペットショップを訪問した生徒が出した「犬の血液型は何種類あるのか」という課題は,「調べればすぐにわかる」,「個人的な興味でしかない」という理由で却下されていった。

 さて,ここでは,ゴミ問題に取り組んだグループの学習活動を注目してみたい。

 「ゴミを少なくする方法や,そのために自分たちにできることはないか」という課題に取り組むことになったこのグループは,自分たちが住む地域のゴミの現状や今後の見通しについて,再びゴミ焼却場を訪問したり,市環境課を訪れたりして調査を進めていった。しかし,調査を進めれば進めるほど,ゴミの増加と処理施設の建設がいたちごっこの状況を呈していることを知った。他の自治体はどうか。こうした問題に積極的にかかわってなんらかの改善の方途を見いだしている自治体はないのかと,インターネットなどを駆使して調査するうちに,我が国の環境やゴミに関する取り組みはどのようになっているのか,法律や制度といった国レベルでの取り組みにも関心が広がった。また,さらにそこから,徹底した分別を行うなど環境問題への取り組みにおいて群を抜くドイツでの取り組みを知るに至った。

 こうした学習が二十数時間に及び,調査活動が熱心に進展するのとは逆に,時間を経るにしたがって調査活動に対する消極的な雰囲気が,生徒たちの中に感じられるようになっていった。

 こうなることを予想していた教師は,ゴミ減量グループに次の提案をした。それは「こうした学習に取り組む自分たちの姿勢について話し合い,その原因を探ること」である。生徒は話し合いの結果,「ゴミ問題は,調べれば調べるほど,考えれば考えるほど,国家レベル,世界規模での取り組みが必要で,残された時間も限られている。中学生の自分たちにいったい何ができるというのか」と無力感を抱いているのだということを自覚した。

3 道徳の時間における振り返り

 このような生徒の状況を踏まえて,教師は「身近な人々が,このような問題にどのようにかかわろうとしたり,取り組みをしたりしているのか調べてみよう」と提案した。

 また,その提案の一方で,静岡県の柿田川の取り組みに携わった人々の努力を,内容項目1−(2)に基づいて道徳の時間の資料として自作構成するとともに,インターネットで公開されている動画映像もまじえて道徳の時間に紹介した。(柿田川は,かつて工場排水や生活排水,ゴミの投棄でどぶ川のようになっていたが,地域の人々の地道な努力によって生まれ変わり,今日では,きわめて透明度の高い清流に水草が茂り,川魚が泳ぐまでになった。)

 生徒は,柿田川浄化のための努力を目の当たりにし,さらに,身近な地域の人々が,それぞれの生活の中で,ささやかながらも着実な取り組みをしていることを知った。「まさに,『シンク・グローバル アクト・ローカル』だ」と,生徒は総合的な学習の時間に発見した言葉の意味をかみしめるとともに,大局を見つめながらも,小さな課題から出発することの大切さに気づき,大きな自分たちの課題を,もう一度自分たちの生活の足もとから見つめ直していこうと決意を新たにした。

 

おわりに

 このように,生徒の道徳性は,具体的な体験や課題への取り組みと道徳的価値をめぐる思考とが一体となってはじめて強化される。また,体験や経験と道徳の時間の学習とが相まって,生徒の自律的な意志によって自覚されて,はじめて確かな道徳的実践力となるともいえる。

 総合的な学習の時間にしろ,特別活動,道徳の時間にしろ,評者からの「活動あって学習なし」という言葉をときおり耳にすることがある。こうした言葉を投げかけられる実践の多くは,学習活動のねらいが不明確で,ねらいを達成するための方略の用意や検討がなされていないものが多い。

 紹介した実践は主に「総合的な学習の時間」「特別活動」「道徳の時間」にまたがるものだが,ここではそれらを安易に関連づけて扱ったのではなく,まず,それぞれの時間のねらいや特質をじゅうぶんに把握し,それぞれの時間の指導を適切に行っている。そして,その中で,すべての活動が生徒の生きる力をはぐくむことに収斂していくよう意図されている。

 実践としては,まだまだ検討の余地が残るものではあるが,総合的な学習の時間,特に生徒の体験と道徳の時間との関連を適切に図り,子どもたちの意欲を喚起しつつ学習活動に取り組むようにした一例として紹介した。

 


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