●実践記録
 

「キッズゲルニカ国際子ども平和壁画
プロジェクト」に取り組んで

−中学3年生の総合学習の取り組み−

 
山梨県中巨摩郡甲西町立甲西中学校
塩谷茂美

山梨県中巨摩郡田富町立田富小学校
今村照廣

 
 この報告のキッズゲルニカ国際子ども平和壁画プロジェクトは,甲西中学校の3年生184名と,学年職員中心に行われた総合的な学習の時間(以下総合学習)の取り組みです。

 関ブロ造形・山梨大会(2003/10/24・25)のシンポジウムで,「このプロジェクトで中学生の自立にとってどんな意味があったか」の発表が指導者の塩谷先生からありました。また,第19分科会で,その実践の詳細な内容が報告されました。

今村(以下I):キッズゲルニカ国際子ども平和壁画プロジェクトとはどんな活動ですか。

塩谷(以下E):世界中のさまざまな地域の子どもたちによって,パブロ・ピカソの『ゲルニカ』(1937年)と同サイズ(3.75×7.8 m)の巨大なキャンバスに平和の壁画を描くというプロジェクトです。私たちはその活動に参加したのです。

I:きっかけは何だったのですか。

E:この学年は1年生から総合学習で平和について考えてきました。3年生になって,1年からの平和の総まとめをしようとしたとき,「プロジェクトに参加したらどうだろう」という話があり,願っていたものにぴったりだったので取り組むことにしたのです。

I:同じ平和学習でも1,2年時の総合学習とずいぶん違うそうですね。

E:3年のほうがはるかに主体的な活動をしていましたね。このプロジェクトに参加しないかと提案したのは教師ですが,生徒中心の実行委員会で方向性を決めながらやってきましたし,発表までの過程でずいぶんディスカッションをしました。それが,本当のものを求めたい気持ちとして結実していったように思えます。また,カンボジアやアフガンで地雷除去の活動をしている雨宮さんやアウシュヴィッツで描かれた版画等を展示しているフィリア美術館長の中山さんの講演を聞く機会がありましたが,二人の生き方から本当の平和を求める姿勢について考えはじめましたね。

I:その後の自発的な活動もあったようですが。

E:ええ,アフガンの子どもたちに手紙を書いたり,本物が見たいとフィリア美術館に有志50名ほどがバスをチャーターして出向きました。

I:キッズゲルニカの発表会に私も立ち会いましたが,とても感銘を受けました。学年の総意として平和へのメッセージがびんびん響きました。指導者としてはいかがですか。

E:あの30分間は,仲間を感じ,聞き合い,仲間と生きているという実感を味わっているように思えました。彼らなりに「生きること」のこだわりを伝えようとしていたと思います。あの30分間ですごく成長したし,達成感と新たなスタートを得たのではないですか。

I:中心になる3枚の作品の披露と,スライド,詩の朗読,独唱,学年合唱と,まさに総合表現として発表していましたが,その辺の構想は……。

E:実行委員会で考えたものです。話し合いの中で,やはり3枚の作品がメインでビジュアルに訴えたい。スライドや詩の朗読,独唱,学年合唱などを加えることで相乗的に高められ,メッセージをより伝えることができるという発想でした。

I:大きな作品(3.75×7.8 m)を3枚も描いていますね。たいへんなエネルギーで感心します。

E:絵に込めたいメッセージを集めたら,結果として1枚の絵ではまとめられないことになりました。「平和を描く絵」「戦争を具体的に描く絵」「人間を描く絵」の3枚になりました。しかし,2枚目の絵は,話し合いや制作の過程でテーマが変更されることになります。「私たちの内部に潜む,醜さ,混沌,妬みなど戦争を引き起こす心」を描くことになりました。


発表会

I:関ブロ造形・山梨大会のシンポジウムではプロジェクトにかかわった二人の生徒の変容について語っていますね。生徒の自立とどう切り結びましたか?

E:一口には語れないんですが……。それまで仲間を拒否していた生徒が,このプロジェクトで意見を言い認められ,下絵をまかされる。シンボルになる「地雷の樹」を描いて,ますます認められ,仲間に受け入れられていくのですが,制作が進むと自分の描いたところが消されたり,修正されたりして自分が壊れていく感覚をもつんですね。その葛藤から会話が生まれ,周りの声に耳を傾け,最終的にはみんなでつくる実感を得る。まあ,協同性に気づいていくんですね。あと一人は,目立たない生徒がこのプロジェクトでリーダーシップを発揮していく過程を語りました。

I:私が3枚の作品で感心していたのは,それぞれの絵に統一性があるんですね。共同制作の場合,絵がバラバラになったり,下絵をただ拡大して写すようになるのですが,それが見当たらないのは完成までに克服してきた過程があるのですね。

 ところで今,中学校の現場では美術の必修の時間が少なくなり,自己表現が非常に貧弱になったという嘆きの声を聞きますが,一方,このような壮大な表現ができる。そのギャップにとまどうのですが……。

E:人との出会いや,本物に触れて驚いたり,話し合いを重ねたり,制作の途中で描き手のエゴがぶっつかり葛藤が生まれたりして,それがお互いの理解となり,エネルギーが生まれ,完成の喜びや成就感を共有していったように思います。また,発表会が受験期の2月26日でしたので,時間を無駄にしたくないと,より真剣になりました。うまく相互作用が働きました。

I:生徒の表現したいという強い願いを掘り起こすこと,仲間とかかわり合って表現が深まること,イメージを共有すること,人の響き合い,達成する喜び,認められる喜び,それらが積み重なって自立につながっていくことなど,これからの美術教育や美術の基礎・基本にたいへんな示唆を与えていただきました。ありがとうございました。

(詳細はYAHOO! 「キッズゲルニカ」を検索)

 


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