No.45 平成19年5月 発行

規範意識を育てる

野口 克海
園田学園中学校・高等学校校長
園田学園女子大学 教授

●見つからなければいい

本校はずっと以前から、学校に携帯電話を持ってくることを禁止している。どうしても必要な人は、事情を申し出て、朝の学級朝礼で担任に渡し、終礼時に返してもらう形で許可するシステムになっている。
 しかし、これが守られていない。ここ数年で携帯電話は中学・高校生のほとんどが持っている時代になった。どうしても必要な事情のある人だけが持っている時代ではなくなった。携帯を持つのが当たり前になった。当たり前だから特別な事情を申し出る生徒も減少した。
 学校のきまりは変わっていない。「携帯電話を持ってくることは禁止」のままである。そして、多くの生徒は当たり前のように携帯電話を持ってきている。かろうじて、「先生の目につくところでは携帯電話をさわらない」ということだけは守られている。
 先生たちも、携帯電話をさわっている生徒を目にしないから何も言わない。
「見つからなければいい」「バレなければいい」ということが暗黙の了解事項になっている。
私はこれが我慢できない。

●規範意識を低下させているのは誰だ?

先月の職員会議で提案をした。
 「今、子どもたちの規範意識が低下していることが問題となっています。やっていいことと、よくないことの区別がつかなかったり、平気できまりを守らなかったり、見つからなかったらいいという風潮が広がっていると言われています。」
 「その最たるものが“いじめ”です。」
 「陰湿ないじめも、先生たちの目につかないところで行われます。この規範意識を低下させるような指導を、私たち本校の教員はしていませんか?」
 「例えば携帯電話です。学校に持ってきてはいけないと決めているのに、現実は生徒たちが持ってきています。実態は見つからなければいい、バレなければいいという指導になっていませんか?生徒たちの生活の実態をよく見つめ直し、本当に携帯電話を禁止すべきだというのなら無断で持ってきている生徒の携帯電話を取り上げるべきです。もう携帯電話は必需品の時代で、家族や友人といつでも連絡を取り合うために必要である、というのなら、生徒会でこの問題をとりあげて、学習のさまたげやトラブルにまき込まれない正しい使い方を討論させて、持ってくることを許可すればいい。」
 「教育再生会議では、この規範意識の低下に対して、道徳教育の強化が強調されたり、毅然たる態度で指導すること、出席停止や体罰の見直しなど、管理教育を強める方向の提案がなされています。」

「しかし、それ以前にやらなければいけないことがたくさんあります。まず、私たち教師が生徒の規範意識を低下させるような指導をしていないか、総点検をする必要があると思うのです。見つからなければいいという指導になっていないか。厳しく指導する先生と黙認する先生という教師間の不一致が、子どもの規範意識を低下させることにつながっていないか等…。」

●生徒会は民主主義の学校

「私は生徒会は民主主義の学校だと考えています。規範意識は管理強化によって育つものではありません。」「生徒たちが自分たちの学校をより良く、より楽しく過ごせるようにするために、各学級で話し合い、代議員が生徒議会で討議し学校に要求すべきことは要求させる。その要求に対して私たちが真摯に受け止め、本当に実現可能かどうか、生徒にも投げ返し生徒たちを鍛えながら自治の力を育てていく。そういう生徒たちの自分たちの学級や学校を明るく楽しいものに変えていこうとする力が、“いじめ”のない学校をつくるのだと考えます。」高等学校の生徒総会が開かれた。生徒総会が終わったあと、校長として全校生徒に呼びかけた。
 「この学校をもっと楽しく、やりがいのある学校にするために、各クラスで真剣に話し合って欲しい。学級委員長がクラスのアイディアをたくさん持ちよって生徒会で話し合って欲しい。要求にはもちろん責任が伴う。先生たちも真摯に受け止める。君たちに自治の力をつけて欲しい。君たちの力でいじめのない学校をつくろう。」翌日、生徒会の顧問が、「おかげで、いっぱいこうしたいああしたい、などの要求が集まりました。」と言っていた。
 私はどちらかというと、何かをする時は、先に根回しをする方である。
 今回は違った。携帯電話のことはいきなりぶつけた。どうなるのだろう、生徒会が要求してきても厳しく突き返し、一年間ぐらいは「責任」を求めようと思う。目的は結果ではなくて、鍛えることによって自治の力を育てることにあるのだから。

著者経歴

  • 元大阪府堺市教育長
  • 元大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
  • 元文部省教育課程審議会委員