No.68 平成20年12月 発行

全国学力調査と情報公開

杉田 豊
静岡文化芸術大学 顧問
元静岡県教育長

■平成20年度全国学力・学習状況調査結果の公表

文部科学省は8月29日、4月に実施した「全国学力・学習状況調査」の結果を公表した。昨年より1か月余も早い発表であった。19年度は調査結果の公表が遅れ、指導に生かせないとの学校現場の声に配慮したものと思われる。
 翌日、新聞各社は一斉に「読み取る力不足」、「知識の活用依然課題」、「テレビっ子が急増」、「難易度アップ出題に疑問」等の大見出しとともに多くの紙面を割き報道した。

■平成20年度学力調査の特徴

20年度調査の特徴として、文科省は、「これまでの調査で課題の見られた内容の問題や解答に当たり、より正確な理解を必要とする問題が多く出題されている。」すなわち「全体としてみれば19年度と比べやや難しい内容となっている。」とコメントした。
 また、調査時間については解答時間が十分でなかった児童生徒の割合が増加したことも公にした。

平成20年度学力調査等の分析

文科省による「教科に関する調査」の分析は、

  1. 19年度より平均正答率は低くなっているが、過去の調査と同一の問題の正答状況等を踏まえると学力が低下しているとはいえない。
  2. 国語については、小中学校ともに知識・技能を活用する力に課題があり、算数・数学についても同様である。
  3. 地域の規模等による平均正答率、標準偏差等に大きな差は見られない。
  4. 各学校の状況については、19年度より小学校の国語Aにばらつきがやや大きくなっているが、全体としてはそれほど大きなばらつきは見られない。

などであり、教科については、「知識・技能の活用に課題がある」こと、難易度が19年度よりやや高く平均正答率はやや下がったものの、「学力については昨年の結果との間に特別な差異は認められない」というものであった。
 また、「学習に関する関心・意欲・態度」等については、

  1. 国語の勉強が好きな児童(小6)の割合がやや低くなっているが、生徒(中3)の割合には大きな変化がない。算数・数学については好きな児童生徒の割合に増加傾向がうかがえる。
  2. 国語・算数(数学)の指導として、家庭学習の課題(宿題)を与えた学校の割合がやや高くなっている。
  3. テレビやビデオ・DVDを3時間以上見たり、聞いたりする割合は19年度より高く、見たり、聞いたりする時間が短い児童生徒の方が、正答率が高い傾向にある。

などであり、従来あまり触れられることのなかった家庭学習の課題(宿題)やテレビ等の視聴時間と正答率等の相関に触れていることが目新しい。
 なお、19年度の自校の結果を分析し、具体的な教育指導に活用した学校は、小学校で約88%、中学校で約82%であり各学校の努力がうかがえるとしている。

■学力調査等の結果の公開

19年度の調査を機に全国の各学校では、授業改善に努力を重ねている姿がうかがえうれしい。このような学力調査を生かす地道な各学校の営みこそが何より大切なことだからである。マスコミは全国の各学校の優れた実践についてもう少し積極的に取り上げて欲しい気がする。学力調査に関するマスコミの関心が結果の公表時に限られ、報道も打ち上げ花火の感があるのはいささか寂しい。
 一方、学力調査の市町村や学校ごとの結果の情報公開を求める動きが紙面を賑わしている。文科省は「過度の競争や序列化を防ぐため」開示しないよう通知しているが、鳥取県では、情報公開審議会が開示を答申したこともあり、当初、県教委は「結果が独り歩きする恐れがある」ことなどから非開示を決めたが、来年度以降、市町村別、学校別の成績を開示する方針を固めたともいう。埼玉県や大阪府枚方市も情報公開が話題になっている。このような経緯の中、10月下旬、秋田県は市町村名こそ伏せたが、市町村別の平均正答率は情報公開に応じた。
 公開、非公開の問題は確かに諸々の懸念される要素を含み単純ではない。しかし、大切なことは「調査結果を児童生徒にどう還元するか」である。特に保護者には、分析結果を今後の指導にどのように生かし、どう教育改善していくか明確に語る必要がある。この視点さえ忘れなければ、情報公開に対して過度に神経質になる必要はないと思う。

■学力調査等の結果を生かす

結果の公開は地域や保護者の教育に関わる関心をいやがうえにも高めるであろう。このことは教育界にとって決して悪いことではない。これからの教育は、学校が家庭、地域とこれまで以上に連携を密にして進めていくことになる。関心が高まれば、批判も出てこよう。これにきちんと応えていくことは教育に携わる者の責務である。
 公開の程度については、基本的にはそれぞれの学校や地域の特性に合わせて責任もって行えばよい。情報を共有し、学校、家庭、地域が一体となって次代の若者を育成することこそが、私たちの使命である。