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学習課題を把握させる手だて
京都教育大学 高乘 秀明
1 はじめに
生涯学習社会においては自己学習力が重要であり,学校教育においても主体的に学ぶ児童・生徒の育成が課題となっている。自己学習力を育てるには,学び方学習の指導と共に学習意欲を高めることが不可欠である。IEA(国際教育到達度評価学会)の国際調査では,我が国は学力は世界トップ水準にあるのに対し,学習の目的意識や学習意欲は低位であるという結果が出ている。ベネッセ教育研究所が実施している学習基本調査でも「何でこんなことを勉強しなくてはいけなのかと思う」中学生の割合が1990年は45.9%だったのが2001年には56.5%と10%以上増加したという結果が報告されている。学習意欲の問題は今日の教育改革の重要なテーマである。
学習者の主体性を生かし,意欲を高める学習指導法として,現行学習指導要領で重視されているのが問題解決・課題解決学習(以降,問題解決学習とする)である。問題解決学習について学習指導要領では次のように記述されている。
「体験的な学習や問題解決的な学習を重視するとともに,児童の興味・関心を生かし,自主的,自発的な学習が促されるよう工夫すること。」
「生徒の主体的な学習を促し,課題を解決する能力を一層培うため・・・(中略)・・・適切な課題を設けて行う学習の充実を図るようにすること。」
前者の小学校の総則においては従来の体験的な学習に「問題解決的な学習」という文言が新たに加えられた。後者の中学校社会科での内容の取り扱いにおいては,「社会的事象に対するいっそうの関心を高めるため」が「課題を解決する能力をいっそう培うため」に改められた。
また,今回の指導要領改訂では「自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること」等をねらいとした「総合的な学習の時間」が新設された。ここではまさに体験的,問題解決的な学習活動が想定されている。
今回の指導要領改訂を受け,社会科の教科書も児童・生徒の興味・関心を高め,意欲的に問題解決学習が展開されるよう構成等にもさまざまな工夫がなされている。小稿では社会科における問題解決学習のための学習課題の設定および把握のあり方について考えてみたい。
2 問題解決学習における学習課題
学習活動にはそれぞれにねらいや目標がありそれを達成するために学習課題が設定される。この学習活動には問題解決学習のみならず系統学習等,すべての学習活動を含んでいるため,学習課題という用語には多様なレベル,内容のものが含まれることになる。
例えば,社会科5年生では国土の地形や気候の概要を地図やその他の資料を用いて調べるという単元がある。授業では地図を見ながら地形の特色を話し合ってみようという学習課題が提示される。この学習課題では,地図を資料とし,話し合いという方法で資料から読み取ったことを意見交換し,国土の地形の特色を明らかにするという学習の方法と目標とが示されている。学習者はその指示に従って学習活動を進めていくことになる。授業では,学習者が地図を読み取る観点に気づくよう指導者が問いかけや指示を出すことになる。この事例では,学習課題どう把握ということよりも,学習者の学習過程でのつまずきをなくし,学習内容の確実な理解や定着をめざすことが指導の重点となっている。
では,問題解決学習における学習課題とはどのような特色をもっているのか。
問題解決学習には,J.デューイの経験主義的学習理論を基礎にした反省的思考に基づく学習活動を意味する狭義の問題解決学習と,J.S.ブルーナーの発見学習やJ.J.シュワブの探求学習等を含めた広義の問題解決学習とがある。一般に問題解決学習の学習活動の流れは次の3つの段階に分けられる。
(1) 問題(課題)の設定・把握
(2) 問題の追究・仮説の検証
(3) 結論の吟味
第一段階の問題設定・把握での学習課題には次のような特色がある。
(a)単元のねらいを達成するような学習課題である。 学習課題は学習のねらいや目標と深く関わっており,毎時間設定されるが,問題解決学習では単元を通じて追究される学習課題であることが重要である。問題解決学習では導入で見学などの体験やビデオ教材,読み物資料等を提示し,それらをもとに疑問点などを出させて学習課題をつくることが一般的に行われるが,導入段階での学習課題と単元全体の学習課題とを区別して考える必要がある。
例えば,小学校6年生の政治のはたらきという単元では,具体的な事例を取り上げて政治の働きを学ぶ。公共施設の建設や地域の再開発や防災・災害復旧などの事例が取り上げられることになっているが,公共施設を調べそこの紹介をするだけで終わってしまったのでは,この単元の目標が達成されたとはいえない。
(b)課題解決のための学習の方法や道筋が見通せる課題であること。
問題解決学習における問題設定・把握とは,問題を設定するだけに留まらず,問題解決のための仮説を立てたり,仮説を検証する方法や手順を考え計画を立てることを含んでいる。したがって問題解決学習においては学習課題を作ったり設定したりすることがもっとも重要な作業であり,ここで適切な課題づくりができれば,授業は半ば出来上がったといってもよい。
例えば日本文教出版の5年生の米作りの単元では,米の産地別売れ高調査の結果をもとに,「消費者に喜ばれる米は,どのようにつくられているのか」という学習課題を設定している。この単元の学習課題を追究するために,教科書には次のような下位の課題が示されている。「庄内平野で米づくりがさかんになったのは,どうしてなのでしょう」「消費者に喜ばれる米をつくるために,土や水をどのように管理しているのでしょう」「消費者に喜ばれる米をつくるためにどのような工夫がなされているのでしょ」「収かくされた米は,どのようにして私達にのもとにとどくのでしょう」「これからの米づくりは,どうなっていくのでしょう」
これらの課題は単元の学習課題を追究するために何について調べればよいかを示したものである。
(c)課題や問題を含んだ学習課題であること。
一般に学習課題とよばれている課題の多くは実は学習テーマの提示になっていることが多い。しかし,問題解決学習においては学習者の探究や解決にむけての意欲を引き出す,追及に値する「問題」(課題)が学習課題それ自身に包含されていることが何より重要である。
例えば先程例に出した「消費者に喜ばれる米は,どのようにつくられているのでしょう」という学習課題では,消費者に喜ばれる米作りの秘密とはという追究課題があり,これを探ろうという学習意欲がその後の学習を進める原動力となるのである。学習課題が学習者の学習動機を高めるかどうかは学習者と課題との関わりの中で決まってくるが,この例では問題意識を持たせるため,どこの産地の米がよく買われているかという消費調査 活動を導入で設定している。
学習者が学習課題とどのように向き合うか,学習課題をどのように捉えるのかということは学習課題をどのような方法で設定し,提示するのかということと深く関わっている。
3 学習課題をつくる,つかむ
問題解決学習においては問題(課題)の設定を誰が行うのかということは重要な点である。総合的な学習の時間とは異なり,具体的な到達目標が示されている教科学習としての社会科においては,指導者が学習課題を設定する場合も多いが,そうであっても学習者が自らの学習課題として把握するような学習課題の設定のあり方が大切である。そのための三つのポイントを次に考えてみたい。
(1)学習者の興味・関心,知的好奇心を引き出す
「不思議に思ったこと」「疑問に思ったこと」「調べたり,考えたりしているうちにわからなくなったこと」こんなことから学習課題を作ろうというアドバイスが教科書に記述されている。子どもは知的好奇心に満ちた存在である。この知的好奇心に働き掛け,疑問が学習者の中から出てくるような題材の提示がまず単元の導入では重要である。その際には,文章資料や統計資料だけでなく,絵や写真,ビデオ教材など,学習者の五感に働き掛けるようなものを用意することが望ましい。こうして出てきた疑問や課題は,本質的なものもあれば,短時間で解決されてしまうようなものもある。また,学習者の力で追究が可能なものもあれば,手に負えないような難しい課題もある。それらを学習者の学習意欲を大切にしながら指導者が整理し,問題点の抽出と焦点化を行い,その後の単元の学習を支えていく中心的な学習課題の設定に到るよう,単元の導入部分を構成することが必要である。この初発の疑問や課題が単元の学習課題を作るという活動を支える原動力となる。
(2)学習者の課題追究の意欲を引き出す。
問題解決学習における課題設定は,疑問点を挙げたり,学習テーマを挙げることで終わるのではない。問題にたいして,仮説を立て,その仮説を検証していくところまでを含んでいるということは既に述べた。たんなる調べ学習ではなく,仮説を立てそれを検証するところにこの学習の楽しさがある。したがって,課題設定においては,課題に対する予想,見通し,仮説を学習者が立てる場を必ず設ける必要がある。そして,仮説を検証する方法,何についてどのような方法で調べるのかということについても学習者に具体的に考えさせることが必要である。これらの活動に際しては,学習者にすべてを委ね自由に進めさせる場合もあれば,予め指導者の方がいくつかの仮説や調査内容,方法を選択肢として用意し,学習者に選ばせるという方法もある。この選択は,学習者の発達段階と課題の難易度との関係や,授業の進め方の方針等に基づいて指導者が決める重要な事項である。
問題解決学習の楽しさは未知の問題に取り組むことや,問題が解決されていくということだけにあるのではなく,自分の立てた仮説に沿って調査を行い,その結果に基づいて仮説を見直したり調査方法を再検討したりする所にある。
学習課題の設定,把握においては,このこと楽しさが課題追究の過程で味わえ,体験できるような課題であることが求められる。
(3)学習者の社会認識や価値観との接点があり,課題意識を深めるもの
問題解決学習での学習課題のもっとも重要な点は,学習者の社会認識や価値観を揺さぶり,課題意識を深める点にある。学習者が課題に対して仮説を立て,検証の方法を考えようとする原動力になるもの,活動意欲を支えるものは,学習者の課題解決への意欲であり,それは学習者が既に持っている社会認識や価値観を揺さぶることによって生まれてくるものといえる。このような学習者の内面を揺さぶる学習課題を設定するには,学習者の実態把握が欠かせない。
一般に教科学習での学習者の実態としては,学習する内容に関する既習事項の定着度,興味や関心の程度,日常の学習態度等が取り上げられる。しかし,問題解決学習においては,単元で取り上げる学習課題に内包される問題について,学習者の意識実態を質問紙調査やある事例を提示しそれへの感想や意見を求めるなどの方法等で事前または途中で把握する必要がある。
この実態把握に基づいて,単元で取り上げる学習内容が学習者に問題として意識され,捉えられるように,学習課題を設定するのである。もちろん,単元の最初から直ちに学習者の課題意識につながるような設定は困難であるので,導入段階で関心や知的好奇心を引き出す題材を提示し,それに続く学習活動によって学習者の課題意識を耕し,深めるという活動が必要になる。また,学習者の課題意識を学習前の段階,導入での課題づくりの段階,単元の学習課題に取り組んでいる段階の三つで捉える必要がある。そして,単元の学習を終えた段階では学習課題が解決されると同時により深い課題意識が生まれてきて,これがさらなる課題への挑戦,新たなる学習の意欲へとつながっていくのである。
4. 今後の課題
近年,学習意欲を高める要因として自己有能感や効力感が学習心理学で注目されてきている。自己有能感,効力感とは,わからなかったことが理解できるようになった,出来なかったことが出来るようになったという知識や技能の獲得,習得といった個人内での成長に留まるものではない。獲得した力を発揮して自らが自然や社会に働きかけ,対象に変化をもたらすこと,そして,その変化が自らの働きかけの結果によるものであるという関係性を認識することによって,自らに自信を持つということである。自己と対象との関係性の中で生まれる自己認識である。
問題解決学習を自己有能感の観点から考えると,学習のまとめを仮説の検証で終えることでよいのかという課題が浮かび上がってくる。総合的な学習の時間で成果を挙げている実践は,問題解決に向けた具体的な提案活動や実践活動を行っている事例が多い。教科としての社会科の問題解決学習では,学習の結果を直ちに具体的実践に結びつけることには議論のある所であるが,社会科学習の成果が総合的学習の時間の実践的活動に結びつくような工夫が必要であろう。また,総合的な学習の時間の活動体験が,社会科の学習での基盤となる問題意識を生み出す源ともなるといえる。総合的な学習の時間との関連性を考慮しながら学習課題の設定を考えることが今後の課題といえる。
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