鼎談 確かな学力と教科書(平成16年6月10日)
新しい学力観と教科書
今日の教育現場では、どういった心構えや改善を進めていけばよいのでしょうか。
次代の教育界をリードする三名の研究者に話を聞きました。
- ■コメンテーター
猪瀬武則(弘前大学教育学部助教授)
井田仁康(筑波大学教育学系助教授)
木原俊行(大阪市立大学大学院文学研究科助教授)- ■司 会
- 斎藤雄三(元足立区立千寿第六小学校校長)
| 子どもたちの問題点 | 指導上の問題点 | これからの教科書 |
子どもたちの問題点

猪瀬武則
近著:
『新しい経済教育のすすめ』
(共著、平成9年、清水書院)
- 斎藤先生(以下斎)
- 最初に授業中の子どもの問題点についてお話いただけますか。
- 猪瀬先生(以下猪)
- 一方的な発表はあるけれども子どもたち自身は聞いていないとか、普段の授業中ですら教科書の丸写しのような形で答えをいって、それで学習が完結することがまま多いと思います。
- 井田先生(以下井)
- 大きな特徴の一つは、学習意欲がないことですね。経済構造全体の問題上、他国と比較して、勉強する動機を高めることが非常に難しい。もう一つは、個性を大事にはしていますが、自分が楽しめればいいという傾向があるようです。人の話を聞いたりできない。
- 木原先生(以下木)
- 課題を自分で見つけて、自分なりに意見としてまとめるまではできても、人に提案する、さらに広げて人に説得するところまで踏み込むことには臆病になっていたりしますね。
- 斎:
- では、そのような子どもたちを、どういう子どもたちに育てていけばいいのでしょう。
- 井:
- 自分が勉強していくことで学校や社会が変わることが実感できない子どもが多いですね。本当は変えることができることを学ばせたい。
- 木:
- 自分で考えるための材料を取ってきたり、つくり出したりできる力をもたせたい。また、自分たちが身につけてきた学術的な意味での情報活用の力、技能、表現といったスキルを、活用・適用させたいですね。
- 猪:
- スキルをきちんと身につけることも重要ですが、考えることと結びつけさせたい。世の中の課題について提案し、相手を説得するなどの過程の中で、より望ましい社会を考えられる子どもを育てたいですね。
指導上の問題点

井田仁康
近著:
『世界の地理がわかる』
(分担執筆、平成10年、三笠書房
- 斎藤先生:
- 指導上の問題点についてはどうでしょう。
- 木原先生:
- 教師と子どもの人間関係を結んでいくのが評価の質的な意義ですが、それをペーパーテストではかるのは難しい。一人ひとりの個性を見る時間を確保するため、授業の進行を複眼的、複線的にとらえていく必要があるでしょう。
- 井田先生:
- 教師が子どもの立場に立つという視点を失い、その学習が子どもにとって、どういう意味があるか教師自身が見えていない場合があります。形骸化した評価になる。教師には技術も知識も必要だが、最終的には熱意なのです。
- 猪瀬先生:
- 一方的に教えて、知識の定着度だけを見るよりも、子どもとの関係づくりを重視して欲しいですね。学習を振り返り、その後に概念化という過程がある。「まとめて言葉にする」この段階では、教師が「指導」していくことが必要でしょう。さらに、概念化から実践化という形で再び経験学習へ戻るというのが一般的な経験学習の回路です。そうすれば、「学び」がないという状況は避けられると思います。
これからの教科書

木原俊行
近著:
『授業研究と教師の成長』
(平成16年、日本文教出版)
- 斎藤先生
- それでは、教科書に期待するものは何でしょう。
- 木原先生:
- 幅広さと特色・特徴が両立するようにしなければならないというのが私の教科書観なのですが、日文の教科書はそれに応えるものになっていると思います。探究的な学習も、ある種のユニークさでもありますし、知識理解についても「ことばのまど」を設けて確認作業をしている。百科事典的要素や、物語のような部分もあるというのは、学習の多様性という立場から、必要だと思うのですが。
- 猪瀬先生:
- 確かに日文の教科書は、多様なものを含んでいて、それを他のものの複線として提出できる。探究的な学習の理論や意味といったものも、先生方に最低限のフォーマットで示しているので、全体として使いやすいでしょう。先ほど、学習を振り返り、概念化して言葉に置き換える、という作業を述べましたが、最も重要なまとめがおろそかになると、何をやったかわからなくなります。
- 斎:
- それについては、小単元ごとに、構造的なまとめと活動的なまとめを置きました。
- 井田先生:
- 世界的な潮流は、全教科共通のスキルを設定した上で、「こういうスキルを身につけるためには、どういう内容がふさわしいか」と学習内容を設定するやり方です。日本では、学び方を学びながら学習内容を期待します。日本のよさを残しながら欧米に対応できることを、つまり学習内容を重視しながら学習プロセスを重視するという意味で、この日文の教科書はすぐれていると思います。学習スキルの重視と学習内容の柱とがしっかりしていて、過渡期の日本の状況に合致しています。
- 斎:
- ありがとうございました。
■もっと詳しくお読みになりたい方は、機関誌「社会科教室」No.38をご覧ください。

