小学校 図画工作

小学校 図画工作

「ならべて,かさねて,つんでみると」(第1学年)
2015.07.21
小学校 図画工作 <No.040>
「ならべて,かさねて,つんでみると」(第1学年)
新潟市立亀田小学校元教諭 磯部征尊

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.題材名

「ならべて,かさねて,つんでみると」

2.題材の価値とねらい

 アーティストが学校に出向き,子どもと一緒に授業を展開する実践例は,幾つか報告されている。しかし,これまでの実践例では,アーティストのもつ技法を模倣する程度にとどまっていた。そのため,子どもは自らつくりたいという思いをもち,それを表すための発想や構想の能力を働かせていたとは言いにくい。
 子どもがアーティストと出会い,技法を紹介する場を設定したのみでは,「へー,すごいな」で終わってしまう。アーティストを授業に参画させるのであれば,アーティストが日頃の芸術作品づくりで大切にしていることや感じていることを十分に聞き,つくる行為を間近に鑑賞する場の工夫が必要であると考える。
 本題材では,アーティストが「自分の作品に込める思いを伝える」場と「つくる行為を実演する」場,「子どもの表現に対して評価する」場,これら三つの場を設定することで,子どもが感性を働かせ,自分の思いを表していくことをねらう。

3.評価の観点

【造形への関心・意欲・態度】
 アーティストの提示した材料を,並べる・積む・重ねることの面白さに気付き,進んで身の周りから材料を集めて,楽しんで表そうとしている。

【発想や構想の能力】
 材料を置く向きを変えたり,様々な角度から鑑賞したりしながらイメージを膨らませて,表し方を思い付いている。

【創造的な技能】
 形や色,大きさなどを考えて,自分の思いを表現できる装飾材料を効果的に使い,思いに合った表し方を工夫している。

【鑑賞の能力】
 つくり途中の作品や完成した表現の鑑賞活動を通して,材料の形や大きさを生かして並べる・積む・重ねることのよさに気付いている。

4.学習の流れ

【用具・材料】
教師:
教師用教具(そろばん,算数セット,ブロック など) など
児童:筆記用具 など

(1)導入時の工夫:アーティストが「自分の作品に込める思いを伝える」場の設定
 導入時には,アーティストとの出会いの場を演出することが大切である。今回のアーティストは,秋山ブク氏(以下,秋山氏)である。秋山氏は,日本各地のギャラリー,店舗,倉庫など様々な空間で「コンポジション」のシリーズを継続しているアーティストで,制作している作品は,その場にあるものだけで構成するインスタレーションのシリーズが中心である。
 秋山氏は,亀田小の近辺にある「みずっちタンク(旧亀田浄水場)」と呼ばれる場所で制作を行い,一般市民に向けて作品の公開を行っていた。そこで,まず子どもにその作品と出会わせてから秋山氏を紹介することで,秋山氏への興味が増すと考え,子どもたちを「みずっちタンク(旧亀田浄水場)」鑑賞ツアーに連れて行き,秋山氏の芸術作品と,秋山氏本人とに出会わせた。

 子どもたちは,秋山氏の作品と秋山氏との対話を通じて,秋山氏に興味を示した。そして,今度秋山氏と亀田小で会う約束をし,鑑賞ツアーを終えた。
 後日,秋山氏が亀田小を訪問し,子どもたちの教室(1年1組)に入り,授業を行った。秋山氏は,身近な道具を使って並べたり,重ねたり,積んだりする制作過程や,別の形が形成されることの面白さを伝えた。子どもたちは,筆箱や鉛筆などを取り出し,次々に行為を始めた。

 その後,子どもたちは,校内の4カ所(体育用具室・第1音楽室・家庭科室・図書室)に設置された秋山氏の芸術作品を鑑賞した。

用具室

第1音楽室

家庭科室

図書室

 これらの作品を見てもわかるように,秋山氏の作品に込める思いとは「そこにあるものだけを使って,バランスや左右対称を意識して並べる・積む・重ねると,何かに見立てられる」であった。また,「ここをバランスよく重ねたよ」など,表現する際の視点を子どもたちに伝えた。抽出児の星山(仮名)は,「僕も色々なものを並べたい」とつぶやく様子が見られ,意欲を示していた。

(2)活動の広がり①:「つくる行為を実演する」場の設定
 表す意欲を示し始めた子どもに,普段は子どもだけでは入ることのできない資料室にある材料を使って,「気に入ったものを集めて,並べて,重ねて,積んでみよう」というテーマを提示した。つくる場所は,資料室前の廊下とした。この段階において,「秋山氏のつくる行為を実演する」手立てを設定した。具体的には,資料室の廊下前に,秋山氏のパフォーマンスコーナーを設置した。秋山氏も,そのコーナーで一緒につくることを伝えた。
 秋山氏には事前に,このコーナーでは「子どもの発想や構想が膨らむように,バランスや左右対称を意識して並べる・積む・重ねる方法を使ってパフォーマンスしてほしいこと」をお願いしておいた。 星山は,秋山氏が手にしたお花のおはじきをバランスよく並べて,重ねている様子を見た後,すぐにお花のおはじきを探してきた。そして,星山は,そのおはじきを並べ始めた。

 この姿からは,星山が秋山氏のつくる行為に感化され,「秋山さんのようなものを使ってみたい,並べてみよう」という発想・構想が膨らんだと言える。

(3)活動の広がり②:「子どもの表現に対して評価する」場の設定
 星山は,堀田と2人で活動をしていた。ある程度作品づくりが進んだ段階で,「子どもの表現に対して,秋山氏が評価する」場を設定した。
 秋山氏には,子どもの作品について思いを語る時に,事前にお願いをしておいたことがある。それは,「取り入れていない方法に気付くような働き掛けをしてほしいこと」であった。星山と堀田は,並べる行為を取り入れ,つくり進めていった。バランスよく重ねる行為のよさにも気付かせたかった秋山氏は,「何をつくっているの?」と星山に聞いた。星山は,「宇宙です」と答えた。秋山氏は,「本当の宇宙の世界みたいだね。このバケツの上に何か重ねると面白そうだね」と,重ねる視点を伝えた。星山は,バケツの上に何を載せるのかを考え始めた。そして,そろばんなどを並べ,重ね始めた。その結果,次の写真のような作品に仕上がった。

 星山と堀田の一連の姿からは,秋山氏の評価を受けて「地球儀を載せるために,その場所に他のものを重ねてみよう」という,「重ねる」ことの新たな視点のよさに気付いたことが窺える。そして,「ブロックや定規を重ねてみよう」という新たな発想や構想を膨らませることにつながったと言える。

5.評価の実際

 学習過程の児童のつぶやきや様子などを踏まえて,一人ひとりのつくりたい思いを継続させる評価を心掛ける。以下は本題材における評価規準の具体の姿である。

【造形への関心・意欲・態度】
 意欲的に材料を集めて,集めた材料を並べたり,積んだり,重ねたりすることを通じて,楽しみながら面白い形を表そうとしている。

【発想・構想の能力】
 何かを表すために,材料の置く向きを変えたり,様々な角度から鑑賞したりして,必要な装飾材料の組合せを考えている。

【創造的な技能】
 表したいものを表現するために,装飾材料を効果的に使って,思いに近付ける行為をしている。

【鑑賞の能力】
 友だちの製作途中の作品や,つくった作品を鑑賞する活動を通じて,材料の形や大きさを生かして並べる・積む・重ねることのよさに気付いている。