学び!と美術

 前回に続き、児童作品の展示について考えます。取り上げるのは「展覧会」です。

「展覧会」って何?

写真1

 「展覧会」と言うと、まるで画廊の個展か美術館の企画展のようですが、児童作品展のことです(※1)。ただしコンクールではありません。東京では、ほぼ全ての小学校が2年に一回、図工や家庭科、書写など全校児童の作品を展示するのですが、これを「展覧会」と呼んでいるのです。時期は11月から12月、週末の二日間程度、学校を開放して体育館などで行われます。子どもたちだけでなく、多くの保護者や地域の方が作品を鑑賞します。
 「展覧会」の中心になるのは、図工専科の先生です(※2)。作品展示や会場設営、ワークショップなど大活躍です。特に会場全体のデザインは腕の見せどころです(写真1、2)。学校や体育館全体が大きな作品などで構成され、そのダイナミックさに子どもの作品展というイメージが覆されます。最近小学校の保護者になった知人も、こう話していました。

写真2

 「『アートの森』という全体のテーマが設定されていて、1年から6年まで体育館いっぱいに作品が展示されていました。高学年児童のガイドによる作品の説明がないと迷うほどです。ナイトミュージアムもやっているし、2日間限定なのがもったいない!」
 なるほど、我が子の作品だけでなく「子どもの表現」を味わい、普通の美術館のようにイベントを楽しんだということでしょう。参観日に作品を教室に展示することとは一味違うようです。保護者、地域全体で子どもの表現や成長を祝うような学校行事かもしれませんね。

「展覧会」は研修会?

写真3

 「展覧会」には、他の学校の図工専科の先生も来場します(※3)。「展示方法の工夫」「材料・用具の使い方」「題材の指導法」「新しい表現」「子どもの可能性」などを学べる絶好の機会だからです。本稿では、指導法という観点から「展覧会」の作品を見ていきましょう。紹介するのは、今年訪問した練馬区立光が丘秋の陽小学校の玉置先生の実践です。
 写真3を見てください。定番題材のボックスアートのように見えます。でも、縦15cm×横20cm×奥行15cmの中に、かなり広い「空間」が感じられます。玉置先生の指導をたどりながら考えてみましょう。

写真4

 まず、先生は子ども達に「自分の美術館を作ろう」と提案します。そして、まず「美術館の中」にいる自分の写真を撮ります(※4)。次に木箱をつくります。普通の四角い枠ですが、子どもは、箱の中の自分を想像しながら組み立てます。必要があれば天井や壁に穴を開けて光を取り入れます。箱が出来たら、その中の「空間」を形や色、材料などを工夫して表していくことになります。
 指導の流れを踏まえた上で、写真4を見てみましょう。作品は青一色です。柱が2本、壁を横切る形で収められています。上方に光窓があります。そこから複数の光がスポットライトのように空間を照らしています(※5)。作者は後ろ姿です。まるで空間全体を味わっているように見えます。おそらく写真の位置から、天井を見上げたり、壁を見つめたりしながらつくったのでしょう。高学年らしく吟味を繰り返し、あえてシンプルにした結果が、この作品だと思います(※6)。

写真6

写真5

 一方、写真5は、これでもかとばかりに幾重にも材料が重なり合い、上下が混沌としている作品です。一般に高学年になると、中学年の「作品の中で冒険や想像を繰り返す様子」が影を潜めます。メタ認知が発達して、作品を客観的に見つめながらつくる傾向が強くなるからです。でも、この子は、冒険心を取り戻したかのように、実験的な気持ちでつくったようです。
 写真4と写真5に共通するのは、「作品に入り込んで考える」というプロセスです。それは「私の美術館をつくる」という提案と「自分の写真を中に置く」というさりげない手立てによるものでしょう。それによって作品は複数の視点から検討され、立体性や多層的な空間を生み出したようです(写真6)(※7) 。指導の工夫によって、より子どもの資質や能力が発揮されたといえるのではないでしょうか。
 「どれだけ子どもが力を発揮したのか」の結晶が「作品」です。そのために材料や用具を工夫し、展開にそって学習のステージを組み込んだまとまりが「題材」です。「展覧会」では、題材ごとに数十点の子どもの作品が展示されています。そのため題材に対する子どものアプローチや先生の指導法がよく分かるのです。「作品」と「題材」の両方を学べる貴重な研修の場が「展覧会」かもしれませんね。

 

※1:全国的には「校内展」「学校展」「子ども展」などと呼ばれています。
※2:東京都の場合、図画工作は専科の先生が行うことが多いのです。平成25年東京都公立学校統計調査報告書によると1145名、これは全国の図工専科の70%以上を占める数字です。
※3:有名な先生の「展覧会」には多くの先生が集まります。筆者も毎年複数の「展覧会」を訪問し、最先端の題材や図工教育の動向を学んでいます。
※4:よくある不自然なポーズや直接関連のない自分の写真ではなく、壁を指差したり、じっくり見ていたりしている落ち着いたポーズが多かったです。
※5:体育館天井の光量の強いライトが差し込んでいるためです。
※6:一般に、ボックスアートで、このようなシンプルな作品は見られません。
※7:ボックスアートでは箱に材料を詰め込んだだけの平面的な作品が多く、複数の視点を感じさせるものや、多層的なものが少ないように感じます。自分と作品が対峙し、一つの視点だけから検討するからではないでしょうか。