学び!と美術

学び!と美術

「中学生の作品」で小学生が鑑賞学習~全国大会報告
2017.03.06
学び!と美術 <Vol.54>
「中学生の作品」で小学生が鑑賞学習~全国大会報告
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 先日、全国大会のイベントとして、小学生を対象にギャラリートークを行いました(※1)。鑑賞に用いるのは堺市が主催する全国中学校美術部作品展の入賞作品です(※2)。全国大会事務局から出されたオーダーは、「入賞作品を小学生向けの学習プログラムとして活用する可能性を検証してほしい」というものでした。本稿は、その報告です。

1.プログラム作成のポイント

 プログラムを作成するにあたって配慮したのは次の3点です。

(1)大人の作品は、遠慮なく自由に語り合っていいと思いますが(※3)、「中学生の絵」を取り扱う場合には作者である中学生に対する配慮が必要でしょう。作品解釈で切り刻むようなことはできません。

(2)小学生にとって中学生の作品は「手の届くところ」にあります(※4)。数年後の自分が描ける作品かもしれません。子どもたちの反応は大人の作品よりも「近い」だろうと思いました。

(3)実施は小学校4年生、活動的で想像を楽しむ快活な学年です。でも実施時期は12月、もう少しで5年生、高学年のような見方も可能になり始める時期です。

 そこで、対話だけで進行するギャラリートークを避け、4年生の快活さを生かし、アクティビティとトークが並行して進む「探究的な鑑賞活動」を行うことにしました(※5)。

2.学習計画

 学級の実態も踏まえ、「いろいろな視点から絵を見たり、考えたりできること」を目標にしました(※6)。大まかな流れは、三枚の作品を鑑賞した後に「根拠をもって自分の好きな作品を一枚選ぶ」というものです。うまく展開できれば、最後の場面で子どもたちは迷わないでしょう。その様子でプログラムの妥当性が判断できると思いました。

(1)作品1「感覚を働かせて見る」
絵から音を聞いたり、匂いを想像したりするなど、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚の五感を活性化して鑑賞します。

(2)作品2「大切なものについて考える」
まず身近な物を用いて、それが大切な理由を考えるアクティビティを行います。その上で作品の主題について考えます。

(3)作品3「選ばれた理由」
一種のディベートです。作品を「入賞にする理由」「入賞をためらう理由」を、それぞれ二つのグループに分かれて考えます。

(4)作品4「私の一枚」
ここがゴールです。一人一人が大好きな作品を一枚選んで、その根拠や理由を述べ合います。

3.配慮事項

 ギャラリートークは、往々にして単純な意見のやり取りに流されます。状況に応じて立ち止まったり、考え合って深めたりすることが大切です。そのために、進行役として配慮したのは次の点です。

(1)「聞く」~抽象的ですが「我身を子ども側に投げ込んで、子どもの側から子どもの話を聞く、子どもが見るように作品を見る」という構えが大事だと思います。案外子どもは大人より深いことを感じているものです。「子どもが話す表面に出た言葉と、本当に言いたいことは別だ」という気持ちで、「本当にいいたいことは何かな」という探索的な姿勢を大切にします。

(2)「返す」~子どもの発表に対しての進行役の反応は決定的に重要です。基本的な姿勢は「認める」です。価値付けや称賛は控えて、相手の意見を理解することに心を砕きます。その現れが「うん、うん」 「えっ?」「あ~」「あっそうか」などの「頷き」や「繰り返し」などです(※7)。

(3)「具体化する」~子どもの語彙は豊富ではなく、理由と感想を混ぜ合わせて話すものです。そこで言葉を継ぎ足したり、「理由」と「根拠」を分けたりしながら、子どもの意見を丁寧に具体化し、これを周りに広げます。

(4)「与える」~時には、情報や知識を提供することも必要です。その際、子どもたちの話し合いの文脈を踏まえることが肝要です。文脈を超えてしまうと、子どもが唐突さに戸惑ったり、それまでの話し合いを台無しにしたりしてしまいます。そうならないために情報や知識の内容と提供のタイミングに気を付けます。

(5)「指名する」~指名は重要です。行き当たりばったりでは、子どもの思考が滞ったり、話が最初に戻ったりします。指名する前に「誰がどんな話をしているか」「どのような議論がグループで起きていたか」などを把握した上で指名順を考え、発表がつながり合い、知識・理解が深まるように指名します。

(6)「役割」~リカとエリオット(2011)は、ギャラリートークには三つのタイプがあるといいます(※8)。一つは「円」のような「会話」、もう一つは先生が「三角」の頂点にいて予定調和的に進む「議論」、三つめはその中間の「四角」で、四つの役割(推進役、傍観役、補足役、反対役)が循環的に進む「対話」です。子どもたちの果たしている役割に配慮しつつ、進行側も役割を使い分けながら適宜参加します(※9)。

(7)「楽しむ」~探究的な鑑賞であれ、対話を中心としたギャラリートークであれ「相手がすごいことを考えているという姿勢で、事実と理由を分けながら意見を交流させ、まとめていく」のですが、そうはいっても鑑賞という創造の現場を楽しむことが一番重要だと思います。

4.学習の結果

 作品1から3までは、特に盛り上がりもなく、淡々と進みました。最後の作品選びの場面で、子どもたちが迷うこともありませんでした。発表では根拠をもとに、自分が選んだ理由を見事に説明していました。学習としては成立したようです。
 ただ、授業後のビデオ分析からは、複数の課題が見つかりました。また、発言内容やルーブリックの結果からは中学生の作品に対する子どもの距離感が垣間見えました。一部を紹介します(※10)。

(1)「探究的な鑑賞」は一般的なギャラリートークに比べ、一見ゲームがあったり、子ども同士の相談場面があったり、学習者中心で進んでいるように見えます。でも大人がテーマを与え、学習をコントロールすることに変わりはありません(※11)。ビデオ分析からは、子どもたちが「進行役の方を向いて」発表し続けていたことが確認されました。進行役のコントロールが過ぎてしまうと、主体性のない予定調和的な活動に陥る危険があるでしょう(※12)。

(2)作品3でのディベートは失敗でした。「入賞をためらう理由」を考えてもらったグループなのに、子どもたちは「入賞にする理由」を発表していました。「自分が思ったことを素直に話す」のが四年生なのです。仮想の状況を踏まえて発言することは発達的に難しかったのです。

(3)作品2では、作者の中学生に登場してもらいました。子どもたちの反応は大きく、彼女の言葉の一つ一つに納得する様子が見られました。また、学校生活について描いた作品が多かったためか、小学生は「自分たちの学校生活」と重ね合わせながら発言できたようです。さらに、自己評価ルーブリック(※13)の分析からは、「中学生の作品」が「小学生の作品」と「美術作品」の中間に位置しているような傾向が見られました(※14)。全国中学校美術部展の作品は、作者、作品の両面で小学生に「近い」のかもしれません。

 今回の実践は初めてというわけではありません。堺市では全国中学校美術部展の作品を活用した鑑賞授業が他にも行われています。「社会に開かれた教育課程」やカリキュラム・マネジメントが強く打ち出されている現在、様々な実践の展開が期待できそうです。

 

※1:「平成28年度(2016年度)第67回造形表現・図画工作・美術教育研究全国大会第65回堺市幼小中合同造形・図画工作・美術研究発表会堺大会」 http://www.craypas.com/event/pdf/2017sakai.pdf
大会の2日目に「アートクラブグランプリを活用した鑑賞プログラム」として12月26日に実施した内容をビデオ分析した結果を報告しました。
※2:アートクラブグランプリのホームページ http://www.artclub-gp.com/
学び!と美術<Vol.42>「アートクラブグランプリ中学校美術部の甲子園『思う存分に格闘した中学生にしかできない表現がある』」でも解説しています。
※3:生まれたとたん作品は作家から自由なるという言い方をされます。
※4:学習指導要領では鑑賞の対象について、子どもたちの生活範囲や発達、文化や社会との関わりなどを踏まえて、低学年は「身の回りの作品」、中学年は「身近な作品」、高学年は「親しみのある作品」と位置付けています。
※5:「探究的な鑑賞」とは、テーマを設定した上で、ギャラリートークとアクティビティの組合せで鑑賞活動を行うものです。詳しくは学び!と美術<Vol.34>「探求的な鑑賞~探究活動を基盤とする美術鑑賞『Inquiry Based Appreciation』」
※6:鑑賞は「作品解釈」が目標ではありません。まして「対話」が目標ではありません。国立西洋美術館の寺島主任研究員も同様のことを指摘しています。寺島洋子「鑑賞する能力を育てることの重要性」初等教育資料2月号2017 pp.77-79
※7:頷きやオウム返しなどは単なるテクニックではありません。これを対話のテクニックとして解説している本もありますし、実際の場面でその通りにやっている様子を見ることもありますが、「何か形式的だなあ」と思うことが多くあります。
※8:Rika Burnham ,Elliott Kai-kee “Conversation, Discussion, And Dialogue” Teaching in the Art Museum: Interpretation As Experience , Getty Publications, 2011,pp.79-93
下図は、上記の理論と美術館の実践を筆者が対応させてみたものです。

※9:時には、進行役が悪役になることもあります。
※10:ギャラリートークを参観していた先生とのQ&Aを紹介します。
Q「たくさんの入賞作品の中から3点を選んだ理由は?」A「子どもがいろいろなことを見つけやすく、作者の主題に届きそうな絵、いわゆる身近な絵を選びました。」
Q「3点の順番や配置は?」A「美術館では来館者が展覧会を味わうための導線を考えて作品の配置を考えます。本時の学習活動の流れにそって配置しました。」
Q「グループ活動の理由は?」A「参観者や学習環境からなのか、子どもたちの青ざめた顔が見えたので当初の予定を変えて、グループによる話し合いを多く導入しました。」
Q「特定の子どもの意見を取り上げて、焦点化しなかった理由は?」A「自分で根拠をもって作品を選ぶのがゴールなので、それまでに無理に盛り上げたくなかったからです。」
Q「鑑賞活動で感想文を書くことは?」A「鑑賞活動は学習です。私が学級担任だったら年間計画や評価を踏まえて図画工作の授業の中で適宜書く活動を実施します。」
※11:同様に「細やかに子どもの話を聞き、話し合いが活性化するようなギャラリートークをすればいい」とも言えないでしょう。
※12:個人的には、あらかじめ決められた解答にどう行き着くかという「○○してガッテン」的なトークよりも、何が出てくるか分からない発見的な「ブラ○モリ」的トークを目指しています(^^)。
※13:学び!と美術<Vol.48>「図画工作の授業(3)~評価方法のいろいろ」
※14:筆者の行った鑑賞の自己評価ルーブリックの分析からは、子どもたちが「自分たちの作品」を見るときは、自分が工夫した形や色を視点に鑑賞する傾向がある一方、「美術作品」を見るときはよく考えたり、味わったりしている傾向があることが分かっています。今回のルーブリックは、対象数が少ないので明確なことは言えないものの、「自分たちの作品」と「美術作品」の中間的な結果が出まています。今後確かめてみたいところです。