学び!と美術

 前回は小学校に重点を置いたので、今回、中学校美術科の改訂について環太平洋大学副学長 村上尚徳教授にお話を伺いました。

1.中学校改訂の進化

著者「中学校の今回の改訂ですが、以前から図画工作・美術は資質・能力ベースでつくられていたので、それが進化した感じですね。すんなり入ってくるというか……」
村上「そうですね。今回の改訂では、教科で身に付ける学力の構造を分かりやすくするために、小・中・高校の全ての教科等を、(1)知識及び技能、(2)思考力・判断力・表現力等、(3)学びに向かう力、人間性等の「三つの柱」で整理されています。
 ただ、図画工作・美術は平成20年の改訂のときに既にA表現の活動を、思考力・判断力・表現力等である『発想や構想の能力』と、技能である『創造的な技能』に分けて指導事項が示されています。中学校では、この時から、描いたりつくったりする活動を通して、発想・構想工夫してつくる技能をしっかりと育てることを大切にしてきました。今回の改訂では、この考え方を引き継いでいます。同様に、今回B鑑賞においても、『鑑賞の能力』は思考力・判断力・表現力等として明確に位置付けられました。鑑賞については、これまで対話などを通して子どもたちが考える活動が行われていました。前回と同じ流れなのですね。だから『すんなり』と入ってくるのだと思います。」

2.より具体的になった教科目標

著者「同じ流れといっても、いっそう分かりやすくなったというか、具体的になった感じがします。」
村上「それは、教科目標の改訂が理由だと思います。今まで美術は、何を学ぶ教科なのかということを「短い言葉で分かりやすく示す」ということが行われていませんでした。今、大学の教員をしていますが、大学生に『中学校の美術でどんなことを学んだ?』と尋ねると、ほとんどの学生が『風景を描いた、粘土で手をつくった』など、描いたりつくったりしたことそのものを答えるんですね。結局、描いたりつくったりしたこと以外は、学びとして自覚されていない、もっと言えばその人に残っていないわけです。
 今回の改訂では、教科目標の最初に、『表現及び鑑賞の幅広い活動を通して,造形的な見方・考え方を働かせ,生活や社会の中の美術や美術文化と豊かに関わる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。』という一文が示されました。中学校の美術の学びとして、生活や社会の中の美術や美術文化と豊かに関わる資質・能力を育成することが具体的な目標として明示されたわけです。」

3.「生活や社会で生きる資質・能力」と〔共通事項〕

著者「『生活や社会の中の美術や美術文化と豊かに関わる資質・能力』とはどういうことですか?」
村上生活や社会の中の美術や美術文化と豊かに関わるとは、例えば、将来、美術を生かした職業に就くだけでなく、趣味で絵を描くこと、美術館へ出かけて鑑賞すること、生活の中の自然物や人工物からよさや美しさなどを感じ取ること、デザインにこだわってものを選ぶことなど、様々な関わり方が考えられます。」
著者「美術から考えるというよりも、生活や社会から美術をとらえ直す?」
村上「『生活や社会』VS『美術』のような対立的な考えではないですね。むしろ豊かに関わる力を育成するために、レストランでお皿の形や色彩などに目を止めたり、絵を見るときに『なぜ、この絵は奥行きを感じるのだろうか。なぜ、絵から光を感じるのだろうか。』など、造形を捉える多様な視点を持つことそのものを大切にしたい感じです。」
著者「それは現行の〔共通事項〕で大切にしたことですよね。」
村上「そうですね。今回の改訂では、それをいっそう進めたといえます。例えば、中学校は〔共通事項〕が「知識」に関する事項として位置付けられ、内容の取扱いに、色彩の明るさや鮮やかさ、材料の質感、余白や空間の効果、遠近感、動勢などを捉えることが示されています。これは、「言葉」や「単語」として覚えるのではなく、表現や鑑賞の活動の中で実際にそれらを捉え、実感を伴って理解することが重要です。そして、〔共通事項〕を知識に関する事項として示すことで、生徒の中に造形を捉える視点として、しっかりと根付かせていくことが大切になります。」
著者「なるほど、単なる事実的な知識じゃなくて概念的知識というか、『まなざし』というか、造形的な視点というか、そこがポイントなのですね。豊かさをともなう観点から考えたいですね。」

4.鑑賞の改訂

著者「B鑑賞の改訂についてはどうでしょう?」
村上「B鑑賞は、ア 作品の鑑賞イ 生活の中の美術の働きや美術文化の二つに大きく分けられています。さらに、ア 作品の鑑賞は、(ア)は、A表現の絵や彫刻などの感じ取ったことや考えたことなどを基にした表現(イ)は、デザインや工芸などの伝えることや、使うことなどの目的や条件などを考えた表現に対応するように示されています。これにより、特に発想や構想と鑑賞の双方に働く中心となる考えを関連させながら思考力・判断力・表現力を育成することが重視されています。」
著者「なるほど、表現と鑑賞が相互に関わりあって学習できるようになったわけですね。」
村上「ええ、例えば、ピクトグラムのデザインの学習をする時に、ピクトグラムを描くことそのものが目的ではなく、形や色彩は情報や気持ちなどを分かりやすく、美しく伝えることができるという、ここでの中心となる考えを、作品を鑑賞したり、自分で表現する中で学んだりすることが重要だと考えます。〔共通事項〕により造形を捉える多様な視点を身に付けるとともに、表現と鑑賞を関連させて、心情などを表す美術装飾などの美術伝達の美術使うものの美術など、中心となる考えをしっかりと学ぶことで、生活や社会の中の美術や美術文化と豊かに関わる資質・能力を育成することになるのだと思います。」

5.前回との関連

著者「個人的な印象なのですが、前回の改訂後、中学校の授業や作品が『がらり』と変わった感じがしました。豊かな学習活動が想像できるし、生徒自身が学力を自覚しているように思います。」
村上「前回の改訂の背景には、先ほどの大学生の発言のように、美術科の授業が、単に描くこと、つくることを目的としていた授業が少なくなかった感があります。そこで、前回の改訂では、学習指導要領の指導事項を、発想や構想の能力創造的な技能に分けて示し、それらを組み合わせて題材を考えるように改善が図られました。どのような資質・能力を育成するのかを明確にして題材を考えるという考え方を、今回は一層推進した改訂だと思います。」
著者「そこは今回の図画工作科の改訂でも同じ方向ですね。」
村上「今回の改訂は、全ての学校種、全ての教科で、学力の三つの柱に位置付けて資質・能力で学習指導要領を整理することになりました。図画工作、美術は、現行の学習指導要領で一回練習ができたので、ずいぶんスムーズに移行できるのではないかと考えます。」
著者「小中一貫というか、題材の展開も小中見通せますね。」
村上「確かに、図画工作は結果的に美術に近い形になりましたが、いきなりこの形になっていたら現場の先生方は戸惑っただろうと思います。前回が今回と前々回の中間的な形になっているので、今回の形に持って行けたのではないかと思います。」
著者「それはストンとくる説明ですね。」
村上発想や構想の能力、創造的な技能、鑑賞の能力といった資質・能力を表す言葉が、この10年で小学校も中学校も現場の先生方から普通に聞かれるようになってきました。加えて学習指導要領の構造も小中で同じような形になったので、新しい学習指導要領は小中ともにどちらの先生が見ても分かりやすいものになっており、小中連携もさらに進むことでしょう。」

 

著者「最後に、一言お願いします。」
村上「資質・能力を押さえて題材を考えることは大変重要なことで、新しい学習指導要領ではそれを一層推進した形になっています。それと同時に、図画工作・美術は子どもたちにとって楽しい活動であり、子どもの中では、発想や構想、技能、鑑賞などの資質・能力が関連したり一体化したりしながら働いているということを常に意識することが大切です。木を見る、森を見るといった視点で、資質・能力を押さえながら、学習活動全体として楽しくやりがいのあるものになっているかについて、常に関係づけながら捉えていきたいものです。」
著者「ありがとうございました。」