学び!と美術

 本稿では学習指導要領に関する基本的な事項や構造等を簡単におさえながら、図画工作・美術科の改訂の要点についてみていきましょう。

Q1.学習指導要領とはどのようなものですか?

A1.文部科学省は学校教育法等に基づいて各学校でカリキュラムを編成する際の基準を定めています。これが学習指導要領で、全国のどの地域どの学校にいっても一定水準の教育が受けられることにつながっています(※1)。学習指導要領は大きくは総則及び各教科等で構成されています。

Q2.授業時数も学習指導要領で決められているのですか?

A2.学習指導要領の改訂と同時に見直されるので、学習指導要領の一部と思う人もいるようですが、教科等の年間の授業時数は、学校教育法施行規則を根拠に定められたものです。教育課程に置かれる教科等や学習指導要領も学校教育法施行規則を根拠に定められています(※2)。各学校はこれらを踏まえ、地域や学校の実態に応じて、カリキュラムを編成することになります。図画工作・美術の年間授業時数に変更はありませんが、下記に述べるように学習指導要領の「総則」に変更がありましたから、前回と全く同じというわけではありません。

Q3.学習指導要領の「総則」って大事ですか?

A3.「自分は教科に精通している」と思っている人に限って「総則を読んでいない」というケースが多くあります。「総則」とは全教科等を統括する教育課程の基本的な規則です。例えば、一連の中央教育審議会の議論や答申に示されたことなどが法的拘束力を持って端的に説明されています。また、「授業時数等の取扱い」では、「各教科等の特質に応じ、10分から15分程度の短い時間を活用して特定の教科等の指導を行う場合…年間授業時数に含めることができる」とあります。すでに小学校の60分授業の試みも始まっており、カリキュラム・マネジメントはいっそう重要な概念になってくるでしょう。「総則」を熟読することはとても大事なことなのです。

Q4.学習指導要領に前文が置かれたって本当ですか?

A4.本当です。前文は、法令や規約などの条項の前に置かれている文章で、その規則を定めた理由、趣旨や目的、原則などを述べるものです。通例では法律には前文を付さないのですが、理念を強調して宣言する必要がある場合に置かれるようです(※3)。今回の学習指導要領の前文にも同様の意味があると考えてよいでしょう。個人的には学習指導要領の意義や役割、社会に開かれた教育課程の大切さなどについて書かれた名文だと思います(※4)

Q5.各教科の学習指導要領はどんな構造になっているのですか?

A5.簡単にいうと「目標」と「内容」、その「取扱い」の三つです。「第1 目標」は子どもたちに「どんな力をつけるのか」というねらいです。そのために「何を学ぶのか」が「第2 内容」です。そして、それを「どのように学ぶのか」が「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」ということになります。

Q6.「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」が今一つよくわからないのですが。

A6.「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」は、二つに分けられます。「1 指導計画の作成」と「2 内容の取扱い」です。
 「1 指導計画の作成」は、「指導計画を作成する上での配慮事項」です。小学校でいえば、「『絵や立体』と『工作』に配当する授業時数がおよそ等しくなること」という時数の目安や、「独立した鑑賞の時間は指導の効果を高める必要があるとき(※5)」という条件などが示してあります。
 「2 内容の取扱い」は、「内容を取り扱う上での配慮事項」です。「どのように学ぶのか」という方法論に関わる部分です。例えば、小学校では取り扱う材料や用具、中学校では表現形式や技法、鑑賞での日本美術の概括的な変遷、作品の特質などが示されています。

Q7.「内容の取扱い」はどのように参考にすればいいのですか?

A7.「目標」や「内容」だけでなく「内容の取扱い」の影響力も見逃せません。平成10年には美術館との連携が例示されましたが、これをきっかけに学校と美術館の関係は大きく変化しました。今回、〔共通事項〕の例示として「明るさ」「鮮やかさ」などが示されています。また鑑賞だけに対応していた「言語活動の充実」が、表現と鑑賞の両方に係っています。今後の実践に注目です。

Q8.〔共通事項〕の例示はどう取り扱えばよいですか?

A8.以前から解説書に載っていた言葉だとはいえ、「内容の取扱い」に示されたことで拘束性が生じます。また、一見「事実的な知識」が並べられているように見えて不安になるかもしれません(※6)。しかし、「形や色などを単なる知識にしない」という強い宣言のように思われます。なぜなら、まず「指導計画の作成」で、学習の充実においては、表現と鑑賞に関する資質・能力を相互に関連させることとされています(※7)。その上で、〔共通事項〕は資質・能力であり、「A表現」及び「B鑑賞」の指導と併せて指導することが明示されています(※8)。さらに中学校では「内容の取扱い」で、(生徒が)実感的に理解できるようにするとあります(※9)。「指導すればよい」「取り扱えばよい」という性質のものではないことは明らかです。小学校図画工作の「内容」が資質・能力で整理されたことも考え合わせれば、〔共通事項〕の例示は知識・理解の質を深めるとともに「思考力・判断力・表現力等」「技能」を育成する重要な要素と考えられるでしょう。

 年間授業時数や学習指導要領の「総則」などを踏まえ、図画工作・美術の「目標」「内容」「指導計画の作成と内容の取扱い」それぞれの関係をおさえながら、子どもたちの資質・能力の育成を目指すという、構造的・関連的な理解が今回の改訂のポイントだと思います。

 

※1:文部科学省「学習指導要領とは何か?」 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/idea/1304372.htm
※2:学校教育法施行規則、第4章小学校、第二節:教育課程、「第五十条 小学校の教育課程は、国語、社会、算数、理科、生活、音楽、図画工作、家庭及び体育の各教科(以下この節において「各教科」という。)、道徳、外国語活動、総合的な学習の時間並びに特別活動によつて編成するものとする。」「第五十二条 小学校の教育課程については、この節に定めるもののほか、教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する小学校学習指導要領によるものとする。」
※3:憲法の前文が有名ですが、教育基本法、観光基本法、高齢社会対策基本法、ものづくり基盤技術振興基本法、男女共同参画社会基本法、文化芸術振興基本法、少子化社会対策基本法などの○○基本法に多いようです。国立国会図書館法、日本学術会議法、ユネスコ活動に関する法律などにも置かれています。具体的な規則を定めたものではないので、直接に法的効果が生ずるものではないのですが、各条項の解釈の基準を示す意義や効力があるとされています。 http://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/004/a004_00.htm
※4:教育課程の意義として「一人一人の児童が,自分のよさや可能性を認識するとともに,あらゆる他者を価値のある存在として尊重し 多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え豊かな人生を切り拓き,持続可能な社会の創り手となることができるようにすること」、社会に開かれた教育課程の実現のために「よりよい学校教育を通してよりよい社会を創るという理念を学校と社会とが共有し,それぞれの学校において,必要な学習内容をどのように学び,どのような資 質・能力を身に付けられるようにするのかを教育課程において明確にしながら,社会との連携及び協働によりその実現を図っていくこと」などが明記されています。
※5:「子どもの能力を高められる場合」という条件付きで「近くにあるから」は理由にならないという意味ですが、学び!と美術<Vol.51>「【インタビュー】学校と美術館の連携の現場から」にて、国立国際美術館の藤吉学芸員が指摘するように、それがきっかけになることもよいと思います。
※6:「事実的な知識」については、学び!と美術<Vol.49>「図画工作・美術における知識の行方」を参照してください。
※7:「第3 指導計画の作成の内容の取扱い」の「(1)題材など内容や時間のまとまりを見通して,その中で育む資質・能力の 育成に向けて,児童の主体的・対話的で深い学びの実現を図るようにすること。その際,造形的な見方・考え方を働かせ,表現及び鑑賞に関する資質・能力を相互に関連させた学習の充実を図ること。」
※8:「第3 指導計画の作成の内容の取扱い」の「(3)第2の各学年の内容の〔共通事項〕は,表現及び鑑賞の学習において共通に必要となる資質・能力であり,「A表現」及び「B鑑賞」の指導と併せて,十分な指導が行われるよう工夫すること」。平成20年改訂では「能力を育成する上で共通に必要となるものであり…十分な指導が行われること」という記述でした。
※9:「第3 指導計画の作成の内容の取扱い」の「2 内容の取扱い」の「(1)〔共通事項〕の指導に当たっては,生徒が造形を豊かに捉える多様な視点をもてるように,以下の内容について配慮すること。」「ア 〔共通事項〕のアの指導に当たっては,造形の要素などに着目して,次の事項を実感的に理解できるようにすること。」