学び!とシネマ

© BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THEIR FINEST LIMITED 2016

 第二次世界大戦下、ドイツや日本もそうだが、イギリスもまた、戦意高揚のために、プロパガンダ(宣伝)映画を作っていた。ところが、優れた映画作家たちは、戦意高揚とみせかけて、じつは痛烈な反戦映画を作っていた。日本の木下惠介監督が1944年に撮った「陸軍」などは、そのいい例だろう。火野葦平の原作をもとに、陸軍省の依頼で撮った「陸軍」は、ところどころ、国策映画の枠をはみ出すような表現が見られる。圧巻は、出征する息子を母親が見送るシーンで、これが延々と続く。もう、立派な反戦映画だろう。
 このほど公開される「人生はシネマティック!」(キノフィルムズ、木下グループ配給)もまた、ある意味、戦争のない世界を希求した映画かもしれない。
 1940年のロンドン。連日、ドイツ軍の爆撃が続いている。男性の多くは徴兵される。イギリス政府は、国民の士気高揚のために、映画を作ろうとする。コピーライターの秘書をしている女性カトリン(ジェマ・アータートン)は、コピーライターの代理でコピーを書く。これが、情報省映画局の特別顧問バックリー(サム・クラフリン)の目にとまり、脚本家グループの一員としてスカウトされる。

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 士気高揚のプロパガンダ映画は、有名なダンケルクの撤退作戦の折り、イギリスの兵士たちを、小さな漁船で救助しようとした双子の姉妹の話である。カトリンは、スペイン戦争で足を負傷した夫エリス(ジャック・ヒューストン)との生活を支えるために、この仕事を引き受けることにする。脚本は、カトリンとバックリー、パーフィット(ポール・リッター)の3人で書くことになる。
 さっそく、情報省から「待った」がかかる。姉妹の乗る漁船のエンジンが故障するシーンがある。「待った」の理由は、イギリスの威信を損なうから。カトリンとバックリーは、どこか牽かれ合いながらも意見が異なり、たびたびの衝突がある。
 なんとか脚本が完成、撮影が始まろうとする。いまは落ち目だが、かつての大スター、アンブローズ(ビル・ナイ)の出演が決まる。
 当時、アメリカはまだ参戦していない。軍部はアメリカの参戦を促そうと、勇敢なアメリカ兵を、映画に登場させようとする。アメリカのパイロット役に決まったカール(ジェイク・レイシー)は、演技経験ゼロ。カトリンは、アンブローズに、カールへの演技指導を依頼したりで、撮影はなかなか進まない。いったい、どうなるのだろうか。

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 登場人物はイギリス人ばかり。セリフの粋なやりとりなど、ユーモアを解するが、さまざまなこだわりや、頑固なところもある。そんなイギリス人気質が、微細に描かれる。もともと、国の宣伝目的の映画で、意にそぐわない仕事である。国からの横やりが入る。しかも、戦時下である。映画製作には、まだまだ、さまざまな難問がふりかかってくる。カトリンたちは、いかに対処しようとするのか。やがて、ロンドンに、ドイツ軍の大規模な空襲が始まろうとする。
 プロパガンダ映画を作ろうとする人たちを描いた映画だが、カトリンという女性の成長の物語でもある。時代によって、人生が翻弄される。それでも、前向きに生きていく。そんな生き抜こうとする決意や情熱が、しっかりと伝わってくる。
 家族や知り合いが、いつ死ぬかわからないのが戦争である。戦場に行かなくても、女性もまた、戦場にいるようなものである。デンマーク生まれの女性監督ロネ・シュルフィグは、士気や戦意を高揚させる映画を撮ろうとする人たちを描いた映画を作ることで、戦争の無意味さをほのめかす。国と国、民族間を問わず、戦争など、ないほうがいいに決まっている。

 

2017年11月11日(土)より、新宿武蔵野館ico_linkヒューマントラストシネマ有楽町ico_linkほかにて全国公開!

『人生はシネマティック!』公式Webサイトico_link

監督:ロネ・シェルフィグ
脚本:ギャビー・チャッペ
原作:リッサ・エヴァンス
出演:ジェマ・アータートン、サム・クラフリン、ビル・ナイ、ジャック・ヒューストン、リチャード・E・グラント、ヘレン・マックロリー、エディ・マーサン、レイチェル・スターリング、ジェレミー・アイアンズ
原題:Their Finest
2016年/イギリス映画/シネスコ/5.1ch/117分
配給:キノフィルムズ
PG12