学び!とシネマ

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ばぁちゃんロード
2018.04.12
学び!とシネマ <Vol.145>
ばぁちゃんロード
二井 康雄(ふたい・やすお)

©2018「ばぁちゃんロード」製作委員会

 相変わらず、日本の映画で、いいなぁと思う作品が少ない。観客に迎合するかのように、そこそこヒットしたコミックや小説の映画化が多く、作り手側は、当初から、ある程度の採算を見込んでの傾向と思われる。たいていの映画化は、原作の持つ魅力を損ねるような場合が多い。
 そんななか、篠原哲雄監督の「ばぁちゃんロード」(アークエンタテインメント配給)は、上村奈帆のオリジナル・シナリオを基にしての映画で、一言で言うと、清潔、静謐、誠実な映画だ。
 舞台は北陸の漁師町。ガソリンスタンドで働いている田中夏海(文音)は、両親が共働きのために、小さいころからのおばあちゃんっ子。自宅の庭で足を骨折、歩けなくなったおばあちゃんのキヨ(草笛光子)は、いま、施設に入っている。夏海は、高校時代からつきあっている漁師の青年、荒井大和(三浦貴大)から、「やっと船を一隻、任されることになった。結婚しよう」と、プロポーズを受ける。夏海は、おばあちゃんとバージンロードを歩きたいと願い、結婚の準備と、おばあちゃんのリハビリに奮闘する。

©2018「ばぁちゃんロード」製作委員会

 タイトルは、結婚式でおばあちゃんとバージンロードを歩くことを願うので、バージンロードならぬ「ばぁちゃんロード」。なるほど。
 おばあちゃんに扮した草笛光子の一挙一動が、とても演技と思えないほどの自然体。すでに、日本映画の多くの傑作に出演した大女優である。圧倒的な存在感、としか言いようがない。
 孫娘の夏海役は、文音。最近では、「八重子のハミング」や「おみおくり」に出演。かつてニューヨークに演劇留学をしたこともあり、まだ若いけれど、将来有望な女優さんだ。
 夏海とおばあちゃんの関係を示す、ささいだけれど、いいシーンがある。夏海は、かいがいしく、おばあちゃんに寄り添い、車椅子を押す。おばあちゃんは、人の手を借りることが好きでない。「誰かじゃなくて、夏海だからいいでしょ」と夏海。
 さしたる事件などは、ない。介護に打ち込む夏海と、住まいなどの準備をする大和との間に、ちょっとしたトラブルがあったりもするが、大事には至らない。

©2018「ばぁちゃんロード」製作委員会

 かつて、おばあちゃんと歩いた道を、いま、おばあちゃんの車椅子を押す。おばあちゃんは、ふと、北原白秋作詞、山田耕筰作曲の「この道」を口ずさむ。大貫妙子が2007年にレコーディングした「この道」が、映画の主題歌に選ばれる。これが、映画の内容、雰囲気を象徴して、ぴったりだ。
 ふと思えば、夏海に扮した文音も、大和に扮した三浦貴大も、ご両親は有名な俳優、歌手である。いわば、サラブレッド。まだまだお若いので、映画の世界でも、さらに声がかかるはずである。期待したい。
 「ばぁちゃんロード」は、べつに、小むつかしい映画ではない。結末の見当は、ほぼつくと思う。ラストでは、おもわず、こみあげてくる。
 篠原哲雄演出は、奇をてらわず正攻法。さまざまなジャンルの映画を撮っているが、これは、さわやかな感動にひたることができる。

2018年4月14日(土)より、有楽町スバル座ico_linkほか全国順次ロードショー

『ばぁちゃんロード』公式Webサイトico_link

出演:文音、草笛光子 / 三浦貴大、桜田通、鶴見辰吾 他
監督:篠原哲雄
脚本:上村奈帆
音楽:かみむら周平
主題歌:「この道」(作詞 北原白秋 作曲 山田耕筰)
歌:大貫妙子(アルバム「にほんのうた 第一集」より)
製作幹事:セントラル・アーツ
製作プロダクション:スタジオブルー
製作:「ばぁちゃんロード」製作委員会(オフィスレン/セントラル・アーツ/東北新社)
配給:アークエンタテインメント
2018年/日本/カラー/ビスタ/5.1ch/89分
©2018「ばぁちゃんロード」製作委員会