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© 2018「焼肉ドラゴン」製作委員会

 生まれて育ったのは、戦後すぐの大阪の西成区だ。今池界隈には、多くのホルモン焼きの店があった。焼肉といえば焼肉だが、主に臓物。ふつう、食べないで捨てるところから、関西弁で「ほうるもん」、転じて「ホルモン」というらしい。
 映画「焼肉ドラゴン」(ファントム・フィルム、KADOKAWA配給)は、大阪で万国博覧会が開かれる前年の1969年、兵庫県のもっとも大阪寄りの伊丹にある焼肉屋一家の、喜怒哀楽に満ちたドラマだ。空港の近くで、ひっきりなしに、旅客機が飛ぶ。一家と一家をめぐる人たちもまた、飛行機の騒音に負けないくらい、にぎやかだ。
 焼肉といっても、店の屋根の看板には、「ホルモン」と大きく書いてあるから、高級な焼肉店ではない。朝鮮半島から、強制的に日本に連れてこられた金龍吉(キム・サンホ)の営む店で、龍吉の「龍」から、みんなは「焼肉ドラゴン」と呼んでいる。
 龍吉の家族は、妻の英順(イ・ジョンウン)と4人の子どもの6人暮らし。英順は、いわゆる済州島四・三事件の被害者で、故郷の済州島を追われて、龍吉と再婚する。
 子どもの4人は、長女の静花(真木よう子)、次女の梨花(井上真央)、三女の美花(桜庭ななみ)、末っ子の時男(大江晋平)である。再婚時、龍吉は静花と梨花を連れていて、英順は美花を連れている。龍吉と英順は、戦後すぐ、国有地を不法占拠した土地を、民間から買ったという形で焼肉店を開き、やがて長男の時男が生まれる。
 龍吉は、日本兵として参戦、左の腕を失う。それでも、毎日、懸命に働き、一家を支えている。学校でいじめにあい、自閉症気味の時男に、龍吉は言う。「昨日がどんなでも、明日はきっとええ日になる」と。

© 2018「焼肉ドラゴン」製作委員会

 梨花が、幼なじみで常連客の哲男(大泉洋)と結婚することになる。店では、静花と美花、美花の恋人の長谷川(大谷亮平)が、パーティの準備をしている。短気の哲男は、役所の対応に怒って、婚姻届けを破り捨てる。これが原因で、せっかくのパーティが、大騒ぎになる。冷静なのは龍吉だけで、「明日、もういっぺん市役所に行ったらええ」と、騒ぎをおさめる。
 梨花と結婚しようとしている哲男は、いまなお、静花に未練がある。歌手を夢みる美花は、長谷川とつきあっているが、長谷川には、嫉妬深い本妻の美根子(根岸季衣)がいる。
 いつも、仲が悪いわけではないのに、みんなは本音でものを言い、言い争いが耐えない。オモニと慕われる英順が、要所要所で、存在感を示す。一家に、たいへんな不幸もあるが、龍吉たちは、耐えていくしかない。
 時代は、高度成長で浮かれている。集落の一角にある「焼肉ドラゴン」にも、再開発とやらで、時代の波が押し寄せてくる。
 原作は、2008年に上演された鄭義信の同名戯曲。在日3世になる鄭義信が、映画化にあたって、脚本を書き、監督する。鄭義信は、映画「月はどっちに出ている」や「愛を乞うひと」の脚本を書いた名手である。ここでは、日本と朝鮮半島の歴史をふまえ、戦後の在日韓国人の家族のありようを、笑いと涙で見せる。浮かびあがるのは、歴史そのもの。まさに、個を描いて全体に迫る、みごとな脚本である。
 龍吉役のキム・サンホと、英順役のイ・ジョンウンが、すばらしい演技を披露する。ふたりとも、多くの韓国映画に出ているが、もともとは、舞台俳優。映画でも、精彩を放つ。日本の俳優たちも、達者な関西弁を駆使、力演と思う。
 もともと、朝鮮半島は分断されていなかった。少し前の、日本と朝鮮半島の歴史をひもとくと、登場人物たちの悩み、苦しみが、じわりと伝わってくる。龍吉は言う。「戦争で無くした腕を返せ」、「息子を返せ」、「帰るところは、ない。ここで、生きていくしかない」と。

 

2018年6月22日(金)より、全国ロードショー

『焼肉ドラゴン』公式Webサイトico_link

原作:戯曲「焼肉ドラゴン」(作:鄭義信)
脚本・監督:鄭義信
出演:真木よう子、井上真央、大泉洋、桜庭ななみ、大谷亮平、ハン・ドンギュ、イム・ヒチョル、大江晋平、宇野祥平、根岸季衣 ほか
配給:KADOKAWA ファントム・フィルム
製作:「焼肉ドラゴン」製作委員会