学び!とシネマ

学び!とシネマ

モアナ 南海の歓喜
2018.09.13
学び!とシネマ <Vol.150>
モアナ 南海の歓喜
二井 康雄(ふたい・やすお)

©2014 Bruce Posner-Sami van Ingen. Moana © 1980 Monica Flaherty-Sami van Ingen. Moana © ℗1926 Famous Players-Laski Corp. Renewed 1953 Paramount Pictures Corp.

 昨年の秋、第18回東京フィルメックスの特別招待作品で、「モアナ サウンド版」という、映画を見た。このほど、岩波ホールほかで一般公開となる。タイトルは、「モアナ 南海の歓喜」(グループ現代配給)と変更された。
 映画の舞台は、南太平洋、ニュージーランドが委託統治するイギリス領サモア諸島のひとつ、サヴァイイ島。1923年、ロバート・フラハティという映像作家が、妻のフランシスと子どもたちとともに、サヴァイイ島を訪ねる。近代化が進むとはいえ、島にはまだ、昔ながらの生活、風習が残っている。フラハティとフランシスは、島の人たちの生活をフィルムに収める。もちろん、サイレント映画だから、音声はない。時々、字幕が出て、どのようなシーンなのかが分かる。当時のタイトルは、「南海の美女の愛の生活」だった。

©2014 Bruce Posner-Sami van Ingen. Moana © 1980 Monica Flaherty-Sami van Ingen. Moana © ℗1926 Famous Players-Laski Corp. Renewed 1953 Paramount Pictures Corp.

 1975年、フラハティの娘モニカが、フラハティ作品のカメラマン、リチャード・リーコックとともにサヴァイイ島にやってくる。モニカは、幼いころの記憶をたどって、父の撮った映像に「音」をつける。島の人たちの会話、波の音、歌声、生活の音……。気の遠くなるような作業だが、1980年、いわゆるサウンド版が完成する。このほど公開されるのは、このサウンド版を、2014年にデジタル復元させたものである。
 島の人たちは、素朴で、寛大で、もてなし好きである。ふだんの生活が、淡々と描かれる。大きな葉をとって、束ねる。主食のタロイモを穫る。ワナを仕掛けて、イノシシを捕まえる。木のツルを切って、ツルの水を飲む。
 集落は、サンゴ礁に囲まれた海辺にある。カヌーで沖に出て、魚や貝を捕る。樹皮から布を作り、白檀の種をつぶした染料で染める。子どもは、高いヤシの木に登って、実を落とす。
 海は荒れ、大きな波が押し寄せる。それでも、カヌーを漕ぎ出す人たち。岩のあいだにカニがいる。火をおこして、カニを捕まえる。荒れた海に出て、ウミガメを捕まえる。甲羅は、高価な装飾品となる。
 ココナツをほぐして、ミルクにする。熱した石で、パンノキの実やタロイモ、グリーンバナナを焼く。

©2014 Bruce Posner-Sami van Ingen. Moana © 1980 Monica Flaherty-Sami van Ingen. Moana © ℗1926 Famous Players-Laski Corp. Renewed 1953 Paramount Pictures Corp.

 モアナという若者が、ファアンガセという女性と結婚することになる。ファアンガセは、モアナの体に香油を塗る。モアナは、一人前の男になるために、体にタトゥーを施される。そして、いよいよ儀式が始まろうとする。
 もとの映像は、1923年当時のものである。再現してもらった映像とはいえ、島の人たちの一挙一動が、あざやかに撮られている。大人は子どもを、男性は女性を、常に他者を思いやり、寄り添う。後半の儀式での、シヴァという舞踏が圧巻である。
 いま、サモアはどのように近代化を遂げているのかは分からないが、著しい変化はないように思いたい。それほど、「モアナ 南海の歓喜」の映像、音声は、美しく、素朴。
 文明という名のもとに、先進国の人たちが忘れ去っていった多くの「コト」、「モノ」が、この映画には確かに存在するようだ。
 ちなみに、当初の映像を評した文章に「ドキュメンタリー」という言葉が出てきたらしい。ここから、ロバート・フラハティを「ドキュメンタリー映画の父」と呼んでいる。未見だが、フラハティ作品に「極北のナヌーク」(1922年)、「アラン」(1934年)、「ルイジアナ物語」(1948年)などがある。機会があれば、見てみたいものだ。

2018年9月15日(土)~10月12日(金)、岩波ホールico_linkにてロードショー、以降全国順次公開

『モアナ 南海の歓喜』公式Webサイトico_link

監督:ロバート・フラハティ
共同監督:フランシス・フラハティ、モニカ・フラハティ
1926、1980、2014年/アメリカ/モノクロ/スタンダード/モノラル/98分
原題:MOANA with Sound
配給:グループ現代
協賛:福岡アジア文化センター
後援:日本オセアニア学会
※「極北のナヌーク」を特別上映(1日1回)