学び!と道徳2

学び!と道徳2

学校における道徳教育②
2017.12.25
学び!と道徳2 <Vol.03>
学校における道徳教育②
岡田 芳廣(おかだ・よしひろ)

 12月は師走と書くように先生方が忙しく走り回る時期です。学期末の成績処理をはじめとする事務処理に追われたり、教育相談や進路相談を実施したり、3年生を担当する先生は生徒の推薦書を持って高校を駆け回っておられるのではないでしょうか。インフルエンザも流行し始めます。健康にはご留意ください。私が勤務する教職大学院では秋クォーターの学校臨床実習が終了し、冬クォーターの授業が始まって院生が大学に戻り、師走の町のようににぎやかになりました。しかし、院生たちは授業と同時に実習の報告書の作成や報告会の準備にと忙しく取り組んでいます。私自身も道徳教育について学会発表・講演会と忙しい日々を送っています。
 道子、真理、響が所属しているMOS(早稲田大学道徳教育研究会)も活動を再開しました。

1 生徒指導と道徳教育

「今回は、道徳教育と他の教育活動との関係を考えてみましょう。まず生徒指導との関係です。皆さん、生徒指導とはどのような教育活動ですか?」
真理「生徒たちが学校や社会の中でよりよく生きていけるように意図的に指導したり、支援したりする教育活動です。」
道子「生徒が自主的・自律的・主体的に行動する資質や能力を育成することもあります。」
「生徒指導提要では生徒指導の意義を『生徒指導とは、一人一人の児童生徒の人格を尊重し、個性の伸長を図りながら、社会的資質や行動力を高めることを目指して行われる教育活動のことです。すなわち、生徒指導は、すべての児童生徒のそれぞれの人格のよりよき発達を目指すとともに、学校生活がすべての児童生徒にとって有意義で興味深く、充実したものになることを目指しています。……(一部省略)……各学校においては、生徒指導が、教育課程の内外において一人一人の児童生徒の健全な成長を促し、児童生徒自ら現在及び将来における自己実現を図っていくための自己指導能力の育成を目指すという生徒指導の積極的な意義を踏まえ、学校の教育活動全体を通じ、その一層の充実を図っていくことが必要です。(下線は筆者による)』とあります。」
「人格のよりよき発達を目指すことや、学校の教育活動全体を通じて行うことなど、道徳教育とよく似ている。道徳教育と何が違うのかな?」
真理「生徒指導には授業がないが、道徳教育には要となる授業が週1時間あることでは……。」
「なかなか良い視点に気付きましたね。教育学のヘルバルトは、教育の方法を『教授』『訓育』『管理』の3つに分けました。『教授』は、教材を用いて行う教育、つまり教科や知育のことです。『訓育』は、特に教材を必要とせず、先生と生徒の関係による教育、つまり教科外教育(領域)や徳育などです。道徳の授業には、教材を用いて学ぶ『教授』と、先生と生徒がともに考え、ともに語り合う『訓育』の両面があります。また、道徳教育は学校の教育活動全体を通して行われる『訓育』でもあります。これに対して、生徒指導は、ヘルバルト派のラインが考えた、訓育と管理と新たに養護を加えた『指導』に属します。その内容は、よりよい人格や自己指導能力などを育成する『訓育』とともに、学校生活などの管理や支援・援助するガイダンス機能なども含まれています。このように道徳教育と生徒指導には性格の違いがありますが、相互補完する関係もあります。」

道徳教育(授業)に対する生徒指導の貢献

生徒指導に対する道徳教育(授業)の貢献

道徳の授業に対する学習態度を育成することができる

道徳的判断力や道徳的心情が育つことで生徒指導が進めやすくなる

生活指導の問題事例や実践例などを授業の教材として活用する

道徳の授業を生徒指導へとつなぐことができる

学級内の人間関係や環境を整備することで望ましい授業の雰囲気を生み出す

道徳の授業を通して児童生徒理解が深まり、生徒指導が行いやすくなる

道子「道徳教育と生徒指導は連携していくことが効果的ですね。」

2 体験活動と道徳教育

「次は体験活動と道徳教育について考えてみよう。平成20年3月に公示された中学校学習指導要領の解説「総則編」では『道徳教育を進めるに当たっては,教師と生徒及び生徒相互の人間関係を深めるとともに,生徒が道徳的価値に基づいた人間としての生き方についての自覚を深め,家庭や地域社会との連携を図りながら,職場体験活動やボランティア活動,自然体験活動などの豊かな体験を通して生徒の内面に根ざした道徳性の育成が図られるよう配慮しなければならない。』とありますが、なぜ体験活動は道徳性の育成に関係があるのだろうか?」
「道徳的な行為を体験することができるからだと思います。」
真理「情報化が進み、人と直接話す機会が少ない子どもに会話の場を提供する。」
道子「体験活動は考えるきっかけを与えてくれるからだと思います。」
「体験活動には、3つの種類があります。
 ①直接体験:自分自身が対象になる実物に実際にかかわる
 ②間接体験:インターネットやテレビなどを介して感覚的に学び取る
 ③模擬体験:シミュレーションや模型などを通して模擬的に学ぶ
 この中で、近年、間接体験と模擬体験は増加しているが、直接体験が減少していると言われています。直接体験には、間接体験や模擬体験に比べ、得るものがたくさんあります。例えば、テレビを通して富士山のご来光を見た時と実際に苦労して登って見た時は臨場感や感動が違います。さらに、そこまで行く間に出会う多くの人々とのコミュニケーションがあります。富士の自然・文化・歴史などに触れ、学ぶことができます。このような体験を通して、子どもは感動したり驚いたりしながら『なぜ』『どうして』と考えを深め、実際の生活や社会・自然の在り方について学びます。」
真理「直接的な体験活動は、道徳的判断力や道徳的心情の育成に効果があるということですね?」
道子「道徳的実践意欲と態度も育つと思う。」
「最近、旅行で体験活動をすることが流行しているが、何か行ったことはありますか?」
道子「修学旅行で京都に行き、清水焼の茶碗の絵付けをしたことがあります。」
「僕は、お寺で写経をした。」
道子「どうして写経をしようと思ったの?」
「ご利益があると聞いたので……。」
真理「写経した後で何か良いことはあったの?」
「見ての通り、変化なしです。しかし今思い返すと、使い慣れない筆で一字一字集中して書いていると無心になり、書き終わった時、とても清々しい気分になれたよ。」
「響君はとても貴重な体験をしたようですね。『体験』はただの経験だけでは何も意味がありません。響君のように体験を振り返り、価値づけをすることにより意義ある『経験(経験知)』になります。
 右の図は、このことを表した『経験学習サイクル』です。この中で、体験の内省的観察(振り返り)をすることで、体験は意味あるものとなります。そして新たに直面する体験に前の体験で学んだ経験知を活かすことが重要です。
 このことは、道徳教育がめざす道徳的行為の実践への具体的な指導展開です。さらに、振り返りによって概念化された道徳的価値は、具体的な行為を伴う道徳性を育成します。
 中学校学習指導要領解説「特別の教科 道徳編」(平成29年7月)には、『豊かな体験は,生徒の内面に根ざした道徳性を養うことに資するものである。これらの体験活動を通して生徒が気付く様々な道徳的価値は,それらがもつ意味や大切さなどについて深く考える道徳科の指導を通して,内面的資質・能力である道徳性としてより確かに定着する。道徳科の指導においては,職場体験活動やボランティア活動,自然体験活動などの体験活動を生かし,体験を通して感じたことや考えたことを基に対話を深めるなど,心に響く多様な指導の工夫に努めることが大切である。』とあります。
 学校における体験活動は、道徳的実践・道徳的行為につながります。そのような体験活動を道徳の授業で振り返り、道徳的価値への理解や自覚を深め、道徳性を育成することが大切です。一方、特別活動では、学校や社会における実際の体験活動による学習、すなわち『なすことによって学ぶ』ことを通して、全人的な人間形成を図るという意義を有しています。特別活動の学びを質的にも量的にも充実するためには、ただ体験活動をするのではなく、体験活動に道徳的価値をもたせ何を学ぶのかを明らかにし、活動後に振り返りをすることにより、体験に基づいた新たな実践が生まれるように指導していくことが大切です。」

 第3回目はいかがでしたでしょうか? 次回は道徳教育の内容について考えていきたいと思います。ご期待ください。