学び!と道徳2

学び!と道徳2

中学校道徳教育セミナー ―「考え,議論する道徳」の授業と評価―
2018.02.27
学び!と道徳2 <Vol.05>
中学校道徳教育セミナー ―「考え,議論する道徳」の授業と評価―
岡田 芳廣(おかだ・よしひろ)

写真提供:朝日新聞社

 日本は立春が過ぎても寒い日々が続いていますが、お隣の韓国では冬季オリンピックが開催され熱い戦いが繰り広げられています。怪我を精神力と努力で乗り越えて金メダルを取ったフィギュアスケートの羽生結弦選手をはじめ、多くの日本選手が感動を与えてくれています。その中でもスピードスケート女子500mで優勝した小平奈緒選手が、2位となって涙を流す李相花選手を抱きしめ、韓国語で「よくやったね」と声をかける姿が絶賛されています。韓国メディアは「氷を溶かした李と小平の友情」「李を配慮したマナーの手」「五輪王者としての品格」などと称賛しています。
 小平選手自身は優勝したことについて「金メダルをもらうのは名誉なことですが、どういう人生を生きていくかが大事になると思う。」と記者会見で謙虚に述べています。そして、まだ無名で大学卒業後の進路も決まらずにいた小平選手を雇い、無償の支援を続けてくれている相沢病院の相沢孝夫理事長へ「私は本当に人に恵まれた人生だったと思っています。相沢病院との出会いは必然であり偶然。本当に苦しい時も、成績よりも私の夢を応援してくれた。」と素直に感謝の言葉を述べています。一生懸命努力した小平選手も素晴らしいですが、それを温かく支えた相沢先生や信州大学の結城匡啓先生たちも素晴らしいです。(小平選手の会見は「朝日新聞デジタル記事」より引用)
 「学び!と道徳2」のテーマは『世界から尊敬される国際人を育てよう』ですが、小平選手のように日本と韓国の国境を越えて称えられるような国際人を私たちも是非育てていきたいものです。
 さて、今回は、前回約束した1月21日に早稲田大学で行われた「中学校道徳教育セミナー」の報告です。当日はグループワークの司会・発表者として頑張っていた、道子、真理、響たちに、内容を報告してもらおうと思います。

「セミナーは私の開会の挨拶後、事例発表、講演、グループワークの3部構成で行われましたので、それぞれを順に振り返ってみましょう。第1部の事例発表は、品川区立荏原第五中学校教諭の戸上琢也先生と筑波大附属中学校教諭の多田義男先生の実践報告がありました。
 戸上先生は早稲田大学教職大学院の第1期生で、道子さんたちの大先輩ですね。発表のテーマは『道徳科における主体的・対話的で深い学びの実現とその評価』でしたが、道子さんは先輩の発表からどのようなことを学びましたか?」
道子「戸上先輩の取り組みは、『理論と実践の往還』という教職大学院のポリシーに基づいた素晴らしい研究実践だと思いました。先輩は、問題解決的な学習とは、道徳上の課題に対して各人が考えた判断基準を、議論を通して比較・検討することにより自分なりの納得解を導き出す(再考する)学習活動であると理論づけています。そして、その理論を具現化するために、付箋紙を活用したワークシート使って各自の考えを付箋紙に記入させ、その付箋紙を議論するシートに貼って話し合いをさせるという教育活動を考案し、授業実践をされています。

セミナーでは「生命の尊さ」を主題として、副読本『新・あすを生きる2』(日本文教出版)の『命を見つめて』と、絵本『100万回いきたねこ』(佐野洋子作)を教材とした二つの授業事例が発表されました。『100万回いきたねこ』では、絵本を紙芝居にするような工夫もしていました。」
「議論するシートでは、共感する考えには赤い付箋紙を使い、質問は黄色い付箋紙に書くような工夫もしていました。これは、友達との相互評価を通して、自己評価(メタ認知)を進めることになりますね。
 多田先生の事例発表は、『4コマ漫画やエッセイを使い自己について深く省みる道徳授業』の実践報告でしたが、響君はどんなことを学びましたか?」
「授業実践は「個性の伸長」を主題に、副読本『新・あすを生きる2』(日本文教出版)の『「自分」ってなんだろう』を教材とした実践報告がありました。教材が4コマ漫画なので、マンガ好きの僕にはとても親しみやすく、4コマが起承転結になっているので、内容について考えたり、友達と話しあったりしやすいと思いました。
 もう一つの実践は3つのキーワード『地球』『個性』『自分』を違う言葉で言い換えるグループワークを行い、地球・個性・自分の順に主題につながるように発表させてから、生徒の気づきとその理由を聞いていくという取り組みでした。また、考えさせるために、自分からペア・4人グループ、そして全体といった工夫もしていました。」
「考えさせるには教師の発問や生徒の発言に対する切り返しなども大切ですね。
 事例発表後、全日本中学校道徳教育研究会顧問である東京都北区立飛鳥中学校の鈴木明雄校長先生から講評がありました。
 セミナーはその後、第2部に移り、畿央大学大学院教授の島恒生先生から『「考え、議論する道徳」の授業と評価』というテーマで講演がありました。真理さん、島先生の講演を聞いてどのようなことを学びましたか?」
真理「島先生のご講演には、6つのテーマがありました。
 1つ目は、『「道徳性」の再確認』です。道徳性を育てる道徳とは、見方や感じ方、考えを広げ、深めることで、主体的に判断し行動する『自立』を目指すことであるという内容でした。そのためには、教材における登場人物の行為を理解する『状況理解レベル』や登場人物の感じたことや考えたことを考える『心情読解レベル』から、登場人物の行為や心情の基となる道徳的価値に基づいた感じ方や考え方、生き方といった『道徳的価値レベル』について考える授業にすることが大切だと話されていました。
 2つ目は、『基本的な価値観』です。道徳の評価は、evaluationの評価(値踏み)やassessmentの評価(診断)ではなく、appreciationの評価(真価を認めて励ます)とするようなプラス思考が必要だと述べられていました。
 3つ目は、『指導観を明確に』です。道徳授業の『学習者は子ども』という考え方です。教師がしゃべり、知識を伝達する教師中心の授業から、生徒が考え、話し合う、主体的・対話的な授業へ変えていくことが大切であると話されていました。
 4つ目は『道徳の内容の理解』です。道徳の内容は、生徒の発達の段階や内容の視点を押さえておくことが重要とのお話でした。
 5つ目は、『授業技術を磨く』です。話す・書く・板書などの活動の意味や意義を生かしていけるように授業技術の向上に努めることが大切と述べられました。
 6つ目は、『推進体制をつくる』です。教師がチームとなって、みんなで道徳に取り組むような推進体制をつくるお話でした。」
「道徳科の評価は、生徒のよさを認め、励ます評価であるべきです。このことは通知表に記述するときの重要な視点となりますね。
 さて、セミナー第3部のグループワークは、参加者を12のグループに分けて、先生方が考えていることや悩んでいることなどについてフリートーキングをしました。今回のセミナーには、参加者は東京を中心に関東各地からいらしていましたが、中には宮城県や新潟県など遠方から参加している先生、私立学校の先生、そして、教育委員会の方など総勢60人が参加しました。各グループで話が盛り上がっていましたが、どんな内容でしたか?」
「僕のグループでは、校内の指導体制づくりが話題となりました。一人で頑張っていくのは難しいので、指導案やワークシートなどの共有化を図り、みんなで楽しく授業に取り組んでいくことが大切だ、時には副担任や管理職を含めたローテーション授業を導入するべきだというような意見が出ました。」
真理「私のグループでは、評価が一番の話題になりました。『おおくくりな評価』では保護者には何を言いたいのかわかりにくいのではないか。通知表の記述には、生徒の振り返りや自己評価が役立つのではないか。先生によって評価が変わらないように、学校としての評価基準を設けたり、評価についての情報交換を実施したりする必要があるなどの意見が出ました。」
道子「私のグループには、私学の先生がいて、授業をどう実施していくか悩んでいました。このような研修会に参加したり、校内研修会を開催したりしたいと話していました。公立の先生からは、議論のさせ方、授業の終末の持ち方、教科になった時の教科書の使い方、道徳ノートの活用方法など授業に関する具体的な課題が出されました。」
「話し合いの内容は、司会をしたMOS(早稲田大学道徳教育研究会)のメンバーがまとめて発表し、参加者全員で共有しました。先生方からは皆さんの発表が上手だという声が上がっていましたよ。」
「いえいえ、僕たちよりも早稲田大学がアクティブラーニングのために作った最新型の教室をほめていたようですよ!」

 第5回目はいかがでしたでしょうか? 次回からは「中学校道徳教育セミナー」のテーマでもあった道徳科の指導方法について考えていきたいと思います。ご期待ください。