学び!とPBL

学び!とPBL

【新連載スタート】はじめに──PBLへの誘い
2018.04.23
学び!とPBL <Vol.01>
【新連載スタート】はじめに──PBLへの誘い
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.アクティブ・ラーニングとは……

図1 アクティブ・ラーニングの概念(山地2014)

 学習指導要領の改訂でアクティブ・ラーニングが、にわかに注目を浴びていることはご存じのことと思います。しかしアクティブ・ラーニングの学校現場での解釈は様々で、「こんなことができるわけない」という先生から、「これまでのやり方で十分」という先生まで、その受け止め方も両極にまたがっています。前長崎大学教育イノベーションセンター教授の山地弘起氏(2014)は「アクティブ・ラーニングとは何か」で、右図のように、「振り返りシート」や「ミニテスト」から、「プロジェクト学習」まできわめて幅広い概念であるとしています。これを見ただけで、どこに注目するかによって解釈は千差万別となるわけです。
 学習指導要領の中で、アクティブ・ラーニングは「主体的・対話的で深い学び」を実現する学習方法として登場しました。逆に言えばこれまでの学びは「他人事・自己中心的で浅い学び」だったということになり、これはこれまでの大学受験制度に見られる「知識の暗記・再生」のアンチテーゼとして位置づけられている点に注意しなければなりません。すなわち「知識の暗記・再生」と「主体的・対話的で深い学び」の間には根本的な矛盾があるということ、そして後者は学校改革を含意しているということです。
 私は、あえて「アクティブ・ラーニング」という広い括りではなく、その中でも最も活動の範囲が広く構造の自由度の高いプロジェクト学習、もしくはPBLを取り上げ、子どもや若者達の学びを述べていきたいと思います。正確に言うとPBLは異なる学習方法、すなわちゴールを定めてそれを実現する方法を考えていくプロジェクト学習(Project-Based Learning)と、問題解決の方法を協働的に探っていく問題基盤型学習(Problem-Based Learning)の二種類があり、理論的には明確に区別されています。が、両者が重なる点も多いのでとりあえずPBL(プロジェクト学習)として総称させてもらおうと思います。

2.プロジェクト学習(PBL)との出会い

 さて、私はそもそもPBLの研究者ではありませんし、PBLとして意識して実践を始めたのは東日本大震災と、それに伴う東京電力福島第一原子力発電所事故後に関わって取り組むようになってからのことです。
 もともと私は中学校の美術の教員でした。私が教員になった1980年代は校内暴力の嵐が吹き荒れていた時代で、赴任した学校もかなりハードに荒れていました。教科教育の方法論だけでは全く授業が成立せず、生活指導や学校づくりの両面から進めていく必要がありました。大震災後の混乱した状況下、避難してきた子どもたちをサポートしていく上でこうした幅広い考え方はとても有効に働きました。避難所や仮設住宅の子どもたちの状況は常に変化していきます。その変化に合わせて、あるいは先を読んで計画を立てていかなければならないからです。

図2 OECD東北スクールの最終ゴール、パリでのイベントの様子

 そのような中、突如、世界最大のシンクタンクと言われるOECD(経済協力開発機構)から、「東北の震災復興に協力をしたい、大学として協力してもらえないか」という打診を受け、何が何だかわからないままに、「OECD東北スクール」という国際プロジェクトの統括責任者を引き受けることになってしまいました。PBLを通して、東北の高校生達に様々な活動を積み重ねさせ、震災復興に留まらず21世紀を力強く切り拓いていく力を身に付けさせるという、これまでの私の経験をはるかに超えるプロジェクトでした。約3年間というもの、職業が変わるほどこのプロジェクトに巻き込まれていくことになり、結果的にこの成果が新しい学習指導要領の改訂に影響を与えることとなり、私自身の人生も大きく変えることになります。

図3 地方創生イノベーションスクール2030で、地方創生について議論する中高生達

 このプロジェクトはやがて全国規模のプロジェクトにその趣旨は引き継がれ、「地方創生イノベーションスクール2030」という形をとって現在も進行しています。このような現状も報告しながら、PBLを通したアクティブ・ラーニングの輪郭線を具体的に描き出し、学校改革の可能性に結びつけていきたいと思います。