ブックタイトルどうとくのひろば No.14
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どうとくのひろば No.14
卵の不思議動物園を退職後,大阪府下の小学校へ出張授業に行く機会が増えました。そのときいつも持って行くのがダチョウの卵の標本です。幼児の頭ほどもある世界最大の卵はやはり小学生の関心を惹きつける最高の手段になります。その大きさですが,長径が17cm,短径は12cmで,重さは1.5kgほどもあります。一般家庭で使われるニワトリの卵がMサイズで重さが60g位ですから,25個分にも相当します。大きいだけではなく,とても頑丈です。殻は2mmほどの厚さがあり,ヒトの大人が乗っても割れないほどです。さすがにダチョウだなぁと思われるかもしれませんが,ここで一つ疑問が湧くはずです。かよわいヒナがどうやってそんなに丈夫な硬い殻を割って孵化できるのでしょう。小学生にこの質問をすると彼らなりに色々と考えて答えてくれます。よくあるのが,お母さんが殻を割ってあげる,というものです。あり得そうですが,正しくはありません。ダチョウの場合,卵を温めるのはお父さんの仕事で,お母さんは卵を産むという大仕事を終えると後はそったく知らんぷりです。「?啄」という言葉があります。?も啄もつつくことを意味しますが,?はヒナがつつく,啄は親がつつくという意味で,まるでヒナが孵化しようとするとき,内側からヒナがつつき,その音を聞いた親が外からつついて割ってあげるように聞こえます。しかし,私が知る限り親が卵の殻を割ってヒナが孵化するのを手助けする鳥はいません。ヒナは皆,独力で割って出てきます。ただ,そのとき,孵化直前のヒナのらんクチバシの先端に卵し歯と呼ばれるとても固くて鋭い突起物が発生します。ヒナはこれを使って殻を破るのです。この卵歯は殻を破▲ニワトリの卵地球の仲間からのメ・ッ・セ・ー・ジ元天王寺動物園長長瀬健二郎るためだけのものですから孵化後2日ほどで脱落します。とてもうまくできた自然の妙ですが,実はそれだけではありません。ヒナが卵の中で立派な骨格を作って成長するためにはカルシウムが必要です。ヒナはどこからそのカルシウムを吸収するのでしょう。それは卵の殻です。卵の殻に含まれるカルシウムがヒナに吸収され,骨を作るのです。察しの良い方はここでお気づきになったかと思います。そうです,カルシウムを奪われた卵の殻はもろくなり,割れ易くなるのです。いかに卵歯を手に入れたとはいえ,卵の中のヒナはとても弱々しいものです。大人が乗っても割れないほど硬い殻をそう簡単に割ることなどできません。カルシウムを失ってもろくなった殻だからこそ,かよわいヒナでも割れるのです。自然の精妙さにはいつも感心させられます。▲ダチョウの卵