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概要

どうとくのひろば No.16

見てわかる!道徳〈第3回〉「感動,畏敬の念」と「よりよく生きる喜び」よりよく生きる人は皆,よりよく生きたいと考えるものです。しかし,よりよく生きるとはどのようなことかを改めて問い直してみると,そう簡単には答えられない難問であることがわかります。よりよい生活と科学技術私たち現代人がよりよく生きるうえで,科学技術は欠かせません。私たちは,暮らしのほぼすべての場面で科学技術の恩恵を受けています。日用雑貨,ライフライン,交通機関など,科学技術とその成果がなければ,私たちの生活がよりよい生活であることは不可能でしょう。これらの科学技術は人間の科学的思考の結晶だともいえます。しかし,科学技術やそれを支える科学的思考が常によりよい生活を実現するとは限りません。20世紀の2つの世界大戦,環境破壊による気候変動や放射性廃棄物問題など,科学技術が私たちのよりよい生活を脅かす事例も数多くあります。科学的思考と道徳的思考では,科学的思考を生活の破壊ではなくよりよい生活の実現へと導くものは何なのでしょうか。そうした役割を担うものと考えられているのが道徳的思考です。科学的思考と道徳的思考の違いは,次のように説明することができます。科学的思考とは,事実を正確に理解して記述する思考法であり,「pである」(例:「この学校の生徒数は100名である」)という仕方で表現されます。この表現の正しさ(真偽)は,実際に検証する(例:その学校の生徒数を数える)ことで判定できます。これに対して,道徳的思考は,善悪や正邪など道徳に関わる思考法であり,「pはよい(正しい)」「pすべきだ」(例:「仲よくすべきだ」)という仕方で表現されます。この表現の正しさ(適切さ)は,ともに生きる私たち全員が受け入れられるか否かを思考することによって判定され,適切な場合には,pを行うことが私たちの義務として要求されます。こうした道徳的思考が,科学的思考や科学技術を導く鍵となります。たとえば,「核兵器を製造できる」という科学的思考に基づく事実の中には,「核兵器を製造すべきでない」という判断は含まれません。その判断を担うのが道徳的思考であり,そこでは,問題となる科学的思考や科学技術がよりよい生き方をもたらすか否か,よりよい社会を作るのに役立つか否か,さらには,すべての人々が受け入れうるか否かといったことが吟味されます。このように,よりよい生活や生き方の問題に道徳の観点が深く関わっていることを忘れてはなりません。思考内容表現事実を正確に記述~である科学的思考図1科学的思考と道徳的思考道徳的思考道徳的価値観の表明~はよい/正しい/すべきだ~は悪い/不正だ/すべきではない評価効果真偽を確認(客観的な視点)世界を正確に理解する善悪・正邪の判断(他者の視点)世界をよりよいものへとつくりかえる10