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概要

どうとくのひろば No.20

元大阪市天王寺動物園 園長 長瀬 健二郎地球の仲間からのメッセージ近年,ヒトの生命,健康や日本固有の生物たちの生存に大きな影響を与える恐れのある外来生物の問題が大きく取り上げられるようになりました。昨年は南米原産のヒアリが注目され,その少し前ではオーストラリア原産のセアカゴケグモでした。さらにさかのぼると北アメリカ原産のカミツキガメ,魚ではブルーギルやオオクチバス,哺乳類ではアライグマ……。枚挙にいとまがないほどです。これらの生物たちからの被害を食い止めるため平成16年に「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」が制定され,飼育や輸入等に関する規制が強化されました。ところで,これらの生物たちは,現地でもヒトや他の生物への被害を防ぐための法律が作られているのでしょうか。答えは「ノー」です。では,なぜ日本でこのような法律を作らなければならなかったのでしょうか。地球上の生物たちはそれぞれの生息地で長い年月をかけて進化してきました。その間,環境に適応できなかったり,新たに入ってきた生物に住む場所を奪われたり,食べられたりして滅びてしまったものもたくさんいます。こうして生き残ったものが,その環境特有の生態系を創りだしてきたのです。そこには特有の食物連鎖のピラミッドが確立され,絶妙なバランスが保たれ,安定しています。あるものだけが異常に増えてしまわないようにできています。そのバランスを崩すものが外来生物なのです。長い時間をかけて育まれてきた進化の歴史的背景なしに,ヒトが意図して持ち込んだり,意図せず知らないうちに持ち込んだりしてしまった外来生物は,天敵になる生物の存在しない世界に,いわば降って湧いたようにして入り込んだのです。そして,その環境に適応できたものは爆発的に繁殖し,そこに住むヒトや生物の脅威となっているのです。このような問題は日本だけではなく,世界各地で起こっていますし,日本原産の生物が海外で加害者になっている例もたくさんあります。ツル植物の葛はアメリカ南部の風景を変えたとまで言われる程にはびこり,忌み嫌われています。もとはアメリカの独立百年祭に日本から送られたものが野外で大繁殖してしまったのだそうです。ワカメは海外の港で増殖し,植物のイタドリはイギリスで在来植物の脅威になり,生態系に大きなダメージを与えるとして非常に警戒されています。外来生物問題は,ヒトが安易に自然に手を加えてはならない,という天からの警鐘のように聞こえてなりません。▲産卵を終え,穴を埋め戻したミシシッピアカミミガメのメス。卵からかえった子ガメは将来,日本固有のイシガメの脅威になることでしょう。外来生物