ブックタイトルどうとくのひろば No.23 教科書特集号
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どうとくのひろば No.23 教科書特集号
わかる !道徳 見て監修:桃山学院教育大学 教授 越智 貢共著:福山平成大学 教授 上村 崇 富山国際大学 講師 奥田秀巳第10回「規則の尊重(遵法精神,公徳心)」「生命の尊さ」「法やきまりの意義を理解し,それらを進んで守る」(中学校学習指導要領)ことや「生命の尊さを知り,生命あるものを大切にする」(小学校学習指導要領)ことに異を唱える人はいないでしょう。これらを身につけなければ,立派な社会人とは言えません。いや,学校でも同じです。校則などを守り,校内で世話する動植物を大切にすることは,子どもたちに求められる不可欠のふるまいです。しかし,「規則の尊重」や「生命の尊さ」は意外に難しい面を含んでいます。上記の文章を表面的に理解するだけなら,子どもたちが混乱しかねない場合が生じないとも限りません。例えば,小学校低学年のクラスで,学級会の時間に,「廊下を走らない」というルールを作ったとしましょう。そして,その時間が終わった直後に,ある児童が廊下を走り出したとします。この子は急におなかが痛くなったためトイレに駆け込もうとしたのです。私たちはこの行為をルール違反としてとがめることができるでしょうか。もっとわかりやすい例があります。クラスメイトがけがをした場合,あるいは校内で不審者を見つけた場合に,廊下を走って早く先生たちに知らせようとするのは正しくないのでしょうか。むろん,そうではありません。いいかげんな気持ちできまりや法を破ることは許されませんが,人を助けるために,あえてきまりや法を破らざるをえない場合もあるのです。それゆえ,きまりや法を理解する際には,いわゆる「緊急避難」という例外があることもあわせて理解しておかなければなりません。そして,そのためにも,なぜきまりや法を守らなければならないのかをよく考えておく必要があるのです。このように,少し振り返るだけでも,道徳の問題を表面的に捉えてはならないことがわかってきます。「生命の尊さ」も例外ではありません。尊い生命を奪わざるをえない私たちの現実があるからです。作物を食べる害虫を駆除することはその生命を奪うことですし,森を伐採したり海を埋め立てたりすることも,そこに棲む生き物の生命を奪うことに直結します。そもそも,私たちが生きるためには,動物や植物を食料にせざるをえないのです。「生命の尊さ」は,私たちがそうした生き方をせざるをえないことを自覚した上で主張されている理念です。すべての生命を奪わないことや,単に生き物をかわいがることを意味する訳ではありません。人間の生命が奪われてしまう現実すらあることを忘れてはなりません。医療では一人の生命を救うために別の生命を犠牲にせざるをえない場合がありますし,大災害になると一人の生命よりも複数の生命を優先せざるをえない場合も生じます。そして,何より悔しいことに,人類は,戦争という人間の生命を破壊し合う愚かな行為をいまだに克服できないでいるのです。こうした「規則の尊重」と「生命の尊さ」とが選言の関係になると,問題はさらに複雑になってきます。私たちの日常には,友情と正直の衝突など,多くのジレンマが潜んでいますが,「規則の尊重」と「生命の尊さ」も,廊下を走る例で示唆されていたように,しばしば衝突し合います。コールバーグが用いた「ハインツのジレンマ*」はその例の一つです。法を守ることと妻の命を救うこととのジレンマの中に立たされたとき,ハインツは法を破って薬を盗むことを選択します。コールバーグはハインツの行為の是非を問いますが,正解を示そうとはしませんでした。「規則の尊重」と「生命の尊さ」とが衝突すると,一律的な解答を見出すことが難しくなり,さらに子どもたちの発達段階を考慮に入れれば,ますます困難になるからです。私たちは,「~すべきだ」という道徳的な指針を理解していても,その指針に反せざるをえない判断を迫られることがあります。その際,重要なのは「~せざるをえない」という私たちの判断がはたして正しい判断であるか否かをよく見極めることです。道徳科が,以前の「道徳の時間」と異なる方向として,「考え,議論する道徳」というモットーを掲げたのは,こうしたこととも無縁ではないのです。規則を守ることも大事だけど,生命を守ることも大事……モラルジレンマ「~すべき」規則を尊重すべき「~すべき」生命を大切にすべきどうするのが正しいことなのか,よーく考えなくちゃなぜ規則を守らなければならないんだろう?生命を大切にするってどうすることなんだろう?動植物を食料にする戦争校内に不審者おなかが痛いクラスメイトがけが医療の問題大災害規則の尊重「廊下を走らない」生命の尊さ「生命を大切にする」「規則の尊重」と「生命の尊さ」「規則の尊重」とその限界「生命の尊さ」とその背景「モラル・ジレンマ」「考え,議論する道徳」図 1 道徳って簡単じゃない! 図 2 モラルジレンマと「考え,議論する道徳」*ハインツのジレンマ……難病の妻を助けたいが,唯一の治療薬を買うお金を持たないハインツが,その薬を盗もうと薬局に忍び込む,という教材。22 23