ブックタイトルどうとくのひろば No.23 教科書特集号
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どうとくのひろば No.23 教科書特集号
筑波大学附属中学校教諭 多田義男子どもたちと接する中で出てくる,「こんなとき,どうする?」。道徳教育をより輝かせるためのヒントを,先生方に教えていただきました。子どもと共に創る道徳授業明星大学教授 濱野裕美荒川区立第四峡田小学校校長 山本 洋こんなと,どうする? き元大阪市天王寺動物園 園長 長瀬 健二郎地球の仲間からのメッセージ子どもに,「先生は道徳で習うことが全部できているの」と聞かれたら?教師と子どもたちが共に考え続ける授業先生と子どもが共に考え,共に語り合う動物園は動物を見て楽しんでいただき,野生動物への知識や興味を深めていただくための施設です。そして,彼らのおかれている現状をご理解いただき,彼らが絶滅の危機から救われるように動物園が行っている事業への応援をいただければと考えています。そのために世界中の動物園の人々は,元気で活発に行動する動物や,かわいい赤ちゃんの姿をお見せすることができるよう,少しでもよい環境を彼らに提供する工夫を探っています。そこで考え出された手法の一つが「環境エンリッチメント」と呼ばれるものです。エンリッチメントとは豊かにすること。すなわち動物が暮らす環境を豊かにしてあげることが環境エンリッチメントなのです。クマを例にとりましょう。野生ではクマは数十平方キロメートルという広いテリトリーを持っています。それだけの広さがないとあの大きな体を維持するだけのエサを確保することができないのです。一方,動物園では十分なエサを与えていますが,広さが足りません。給餌箱にエサを入れて与えれば,彼らは一日分のエサを数十分で食べ尽くしてしまいます。食べ尽くしてしまえばもうすることはありません。動物園のクマたちは暇で暇で仕方がない,というのが実情です。そこで考えられた環境エンリッチメントの一つが,エサを広くばらまいたり,隠したりして与えるという方法です。ばらまかれたり,隠されたりしていると,クマはエサを探さなければならなくなります。飼育担当者とクマの知恵比べです。壁の隙間に隠したり,木の洞に隠したり……,クマはエサを探して展示場の中をあちらこちらと探しまわります。こうしてエサを探すうちに時間がたってクマは暇を持て余すこともなくなる,と同時に,活発に動きまわるクマの姿をお客様に見ていただけるというわけです。と簡単に書きましたが,それは理想で,現実にはなかなかそう簡単に事は運びません。慣れてしまえばエサがどこに隠されているか学習してしまい,すぐに見つけ出して環境エンリッチメントにならなくなってしまうのです。そこで不規則にエサが飛び出す自動給餌器を考えたり,工夫をしなければエサを取り出すことができないパズルのような給餌箱を考えたり。クマが時間を持て余すことがないような工夫を考え出すため,飼育担当者は日々知恵を絞っています。先生という立場ですが,全部はできていません。人間は誰でも「よりよく生きたい」と願っています。しかし人間は,よりよく生きるために大切なことでもなかなか実現できない弱さももっているのです。道徳科は,みなさんがこれからの人生を「よりよく生きるための力」を身につける時間です。「よりよく生きるための力」は,一方的に教えられて身につくものではありません。先生とみなさんが人間としてのよりよい生き方を求め,人間としての在り方や生き方の基礎となる課題(内容項目)について,共に考え,共に語り合う中で,理解を深めたり,自己を見つめたり,物事を多面的・多角的に考えたり,自己の生き方についての考えを深めたりしながら身につけていくのです。そこが道徳科と他の教科の違うところです。▲展示場の中にエサをばらまく飼育担当者(ケルン動物園にて)動物たちの暮らしを豊かにする道徳で習うことが全部できている人は,世の中に一人もいないと思います。もちろん,先生も同じです。けれども人はみな,「少しでも自分をよくしていきたい」と思って毎日生活をしています。道徳の授業は,教師と子どもたちが,人間としてのよりよい生き方を求め,共に考え,共に語り合い,広い視野に立って人間としての生き方について考えを深めていく学習をしていく授業です。そのためには「授業の中だけで考えていればそれでよい」というのではなく,学校全体の活動や日々の生活にも授業で学んだことを結びつけ,自分でよりよい判断ができるようにしていくことが大切になります。一つの価値について,学級で意見をまとめたり,その価値を押し付けたりするのではなく,教師と子どもたちが自ら考え続ける姿勢をもつことが大切です。子どもたちが人間としてよりよく生きるために道徳的価値を理解することは大切なことです。しかし,それを実現することは容易なことではなく,それが人間らしさであることに気づかせることも重要なことです。教師も真の人間的成長を求めながら迷い悩み,日々葛藤している人間の一人です。ですから,「道徳の勉強って難しいね。答えは一つじゃないし,習ったからといってすぐできるものでもない。だから,先生もみんなと一緒に道徳の勉強を頑張って,毎時間自分の心と向き合っているんだよ。もっといい自分になるために,幸せになるためにどう生きていけばいいのか,一緒に考えていこうね。」と語りながら,子どもたちの心に寄り添い,教師自身も子どもと一緒に感じ,考えようとする真剣な姿勢が,子どもの心を動かすと思います。26 27