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概要

どうとくのひろば No.24

江戸時代の資料を見ると,旅人が持っている風呂敷は,もちろん抱えているものもありますが,ほとんどが背負ったり腰に巻きつけたりしています。あれは重い物を運んだり,危険に遭遇したときに両手を使えるようにしたりするためです。現在のリュックサックと同じですね。明治時代には,布団や座布団などの嫁入り道具を運搬する包み物として使われました。もちろん通常使う風呂敷では包みきれないので,用途に合わせて大きなサイズができていきました。今はもう嫁入り道具を運ぶということ自体がなくなってきましたし,専用の布団袋もありますから,大きな風呂敷は徐々に少なくなってきています。現在,風呂敷は「物を包んで運搬する道具」としてのみ使用されていますが,昔は寒い日には身にまとったり,足が濡れれば拭ったり,けがをしたら三角巾代わりにしたりしたでしょう。生活が豊かになり専用の物ができたから,今の用途に落ち着いただけで,風呂敷は,いざというときにはいろいろな場面で活用できます。そうですね。風呂敷には,贈り手の気持ちを相手に伝えるという道具でもあります。だから,おめでたい物にはおめでたい柄を使って包むし,季節や用途目的によって素材・色・柄を考える。そうすることによって,お互いに豊かな気持ちになれるんですよね。例えば,振れば何でも出てくる小槌や,夫婦円満を表す二羽の鶴は,おめでたいものの象徴として用いられます。また,菊は不老長寿の意味もありますね。菊のしずくを飲んだら長生きした,という中国の説話があるんです。悲しみごとのときなんかは,まったく逆。グレーなどの色地に,「寿」ではなく「夢」や「心」などの文字を使ったり,蓮を使ったりすることによって,相手を思いやる。こうした「おもてなし」の気持ちを形に表したものが,風呂敷だと思います。昔は,そうしたことを幼い頃から親に教えてもらいながら生活していましたが,今は風呂敷を使う機会が少ないので,柄に込められた意味などを知る機会も少なくなりました。柄の一つひとつに意味があって,最終的にどの柄のどこを表に出るようにしようか考えながら包む。そして,言葉にしなくてもそれを持参するだけで,相手は「これだけの心配りをしていただいた」というありがたさを感じられる。こういう日本の文化があるということは知っていてほしいですね。作法と言っても,「絶対」というものはないんですよ。相手がいることですし,地域によっても異なります。日本人がもつ「相手を思いやる気持ち」や「相手に不快感を与えないようにという気遣い」さえ押さえていただければいいんです。しいて言えば,縁起の悪い「縦結び」にならないようにする。それから,着物を右前で着るのと同様に,おめでたいときは「右包み」で,悲しみごとのときには「左包み」。その区別だけです。あとは,文様の意味合いを考えて使っていただいて,意味にそぐわない使い方はしないように。それくらいです。自分の気持ちを伝えようという心さえあれば,本当に自由にしてもらっていいんです。実際に包むのは,全然難しくないんですよ。使っていると要領がわかってくるので,包む物や目的に合わせて,どう包んだらよいかも自分で考えることができます。基本の包み方をちょっとアレンジして,「ここを結んで持ち手にしよう」とか「おしゃれな結び方にしよう」とか。これも風呂敷の特徴です。物の大きさ・形に合わせて包み込み,不便さがあれば,自由に工夫して解消する。どんな物にでも柔軟に合わせる,という日本文化の伝統の形がここに表れています。長年風呂敷に携わってきた久保村正髙さんに,風呂敷と日本文化の魅力を伺いました。そもそも「包」の源字となった象形文字は,お母さんの胎内に胎児が宿った形を表しています。「包む」という行為自体が,物を大切にする・慈しむということなんです。だから,包むことによって内容物の価値が上がって大切に扱った。それが風呂敷の原点です。包み布である風呂敷の歴史は古く,奈良時代にまで遡ります。正倉院蔵の舞楽衣装などの専用包みである「迦かるら楼羅裹つつみ」「師ししじ子児裹つつみ」「師し子し?ぼく」が,現存する最も古い風呂敷(包み布)とされています。その後,四角い布の形は変わらぬまま,平安時代には「古ころも路毛都つつみ々美」,鎌倉時代には「平ひら包つつみ」と,名称が変化していきました。室町時代には足利義満が大湯殿を建て,近習の大名が入浴するようになりました。大名たちは脱いだ衣服を間違えないように家紋入りの絹布に包み,湯から上がると包みを開いて,足を拭い,その上に座って身づくろいをしたそうです。これが「風呂敷」という名前の由来だともいわれています。文献上で「風呂敷」という言葉が初めて出現したのは,江戸時代の徳川家康の遺産目録です。―まず,風呂敷文化の歴史を教えてください。―風呂敷には,いろんな柄や種類がありますよね。―やはり「贈答品を包む」というイメージから,作法などが難しそうだという印象がありますが……。<次号に続きます>小槌菊季節を映したデザインも。夏は涼やかに。(7 月撮影)「包」の源字こころのひろば「風呂敷に込められた日本の心」< 前編>●『小学どうとく 生きる力3』P.34 ~ 37「ふろしき」●『中学道徳 あすを生きる2』P.154 ~ 159「包む」日本文教出版の教科書でも風呂敷を扱った教材を掲載しています。撮影協力/宮井株式会社2 3