ブックタイトルどうとくのひろば No.26 教科書特集号

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概要

どうとくのひろば No.26 教科書特集号

があるということは,実感としてよくわからなかったんです。学校の先生だったり銀行員だったり,それくらいは何となくわかるんですけども。そういう意味では直接見学に行くとか,ちょっと会話をしてみることはすごく大事ですね。島:そうやって飛び込んだ世界で,臼井さんは今や「義足の仙人」と呼ばれているそうですね。なぜ「仙人」なんですか。臼井:たぶんあれですね。特にスポーツ義足っていうものをやる人がなかなかいなかったんですよね。生活用の義足は昔から作っている方がいたんですが,「義足でスポーツをやる」という人たちをサポートする人があまりいなくて。僕がそれを最初にやったのが30年くらい前で,それからずっと今までやってきてますから,仙人になっちゃったのかもしれないですね(笑)。島:スポーツ義足に携わったきっかけというのは何ですか。最初はスポーツ義足ではなかったんですよね。臼井:もともと義足で走れるという人は少なかったんですよね。義足で走りたくても走るための部品がまだなかったり,無理に走ると壊れてしまったりという時代が長かった。走りたい人はいたと思うんですけれど,それを補うような部品も開発されていなかったし,組み合わせて作ってくれる義肢装具士もあまりいなかったですね。とにかく試行錯誤で「『義足で走りたい』っていう夢をかなえたい」と思いながら長くやっているうちに,パラリンピックの選手が生まれてきたりしました。島:すごいことですね。そうやって「夢をかなえる仕事をやってみたい」というふうに思われるようになったのはどうしてですか。臼井:そうですね……。例えば,交通事故で足を切断してきたときって,みんなやっぱり悲しい顔をして,どん底の状態ですよね。そういう人が義足を使うことで社会復帰して学校に行ったり,会社に戻ったりしていきます。それが今度はさらにスポーツをやると,なんていうか……自信がみなぎってくるんですよね。初めて走れたときって,結構皆さん涙を流すんですよ。それって足のある人にとってはなかなかわからないことですが,10 年とか20 年もの間走れなかった人が走れたとき,私も喜びをすごく感じます。「ああ,一人ひとりに歴史があるっていうか,つらい思いをしてこられたんだな」というのを強く感じますよね。そういうふうに患者さんがどんどん変化して,明るくなっていったり目標をもったり,要するにたくましくなっていくんですよ。島:すごいですね。臼井:それが一人ひとりについて僕も実感できるというか……一緒に歩めるようなところがありますね。そうするとどうしてもスポーツをすすめてみたくなりますよね。島:「すすめてみたくなる」とおっしゃるんだけども,「どちらかと言えば,『しなさい』とか『やれ』などとは積極的には言わない」っていうこともおっしゃってますね。臼井:そうですね。やはり本人に「やりたい」ってい島:まずお伺いしたいのは義肢装具士を目指そうとしたきっかけです。最初の頃は「特にやりたいことがなかった」とお聞きしておりますが。臼井:そうですね。20 代のときの自分は,どういう仕事が向いているのかなかなかわかりませんでした。そんな中で義肢装具士を選んだのは,子どもの頃に経験したできごとがあったからです。小学6 年生のときなんですけれど,担任の先生が足に腫瘍ができて,左足の太ももから下を切断して,義足になったんですね。それは小学生なりにかなりびっくりしました。そのとき「義足を作る仕事っていうのがあるんだ」と思ったんです。それからは義足のことを忘れていたんですが,仕事を探すときになってそのできごとを思い出し,それがきっかけで義足の製作会社を見学に行ったりしました。島:この教科書には「子どもたちに自信をもって人生を歩んでほしい」というコンセプトがあるんですが,臼井さんの小さい頃は,自信とかそういったものはありましたか。臼井:僕はどっちかというと結構慎重派というか,あまり大胆なタイプじゃなく,おとなしいほうでしたね。ただ,仕事を探すときには実際にどういう仕事があるのかというのを自分から見に行ったりしました。そのときはかなり勇気を出しました。義足を作る工場に自分から行って,「こういう仕事があるんだ」と実際に現場を見せていただくのはすごく勇気のいることなんですけど,「やればできるんだな」と今は思いますね。島:そのあたりは,やはり小学生の頃の先生との出会いが大きいんでしょうか。臼井:そうですね。その先生とは,中学から高校へ行くときなどに進路のことで手紙で相談してましたから。島:その頃の経験がどんどん積み重なっていって,今のお仕事に出合ったというような感じでしょうか。臼井:そうですね。大切なのは,自分から行ってみる勇気を出すことですね。新しいところへ自分が乗り出して行くのはやっぱり怖いですよね。行ってドアをたたくというのは最初は慣れないものです。ただ,一回やってみると結構慣れてくるということもあります。だからぜひ生身で現場を見たりしてほしい。現場の人と会話してみることはすごく大事ですよね。島:そうですね。それが最終的に自分の仕事になるかどうかは別にしてね。いろんなことをやっていくことが大切ですね。臼井:僕なんかは親が農業をやっていて,父がほかに建築業をやっていたくらいで,世の中にいろんな仕事令和3 年度版『中学道徳 あすを生きる』では,現行教科書の内容をパワーアップし,生徒がさらにさまざまなことについて考えられるようになっています。今回は,新たに教科書にご登場いただく義肢装具士,臼井二美男さんの職場を島恒生先生が訪問。臼井さんの生き方や大切にしてこられたこと,思い描く社会についてお聞きしました。「想像力」が「思いやり」になる臼井 二美男(うすい ふみお)島 恒生(しま つねお)公益財団法人鉄道弘済会義肢装具サポートセンター研究室長義肢装具士。日本のスポーツ用義足製作の第一人者。畿央大学大学院 教授『中学道徳 あすを生きる』代表監修者の一人。「義肢装具士」という仕事との出合い特集1 対談義足の仙人2 3