ブックタイトルどうとくのひろば No.26 教科書特集号

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概要

どうとくのひろば No.26 教科書特集号

臼井:そうですね。最近特に,車椅子とか義足の技術,機械科学などのレベルがすごく上がっています。島:チーム力もあるし最終的にはその人自身の人柄のぶつかり合いのようなところもあったりもするから,すごく興味があります。臼井:医学と科学といろんな要素が全部入って一人の選手が活躍できるみたいなところがありますから。島:それはとても感じましたね。では今後の夢や目標はいかがですか。臼井:今は若い義肢装具士の育成をしています。生活用の義足も作れて,それからパラリンピックの選手を生み出すような義肢装具士を育てていきたいです。島:後輩の育成っていうのはとても重要ですよね。臼井:あとはやっぱり障がいがあってもスポーツをやりたい人,何かにチャレンジする人は増やしたいですよね。日本には7 万人くらい義足の人がいますから。もっともっとスポーツに参加する人が増えてもいいと思います。いろんな人が相談できて,いい提案をしてあげられる場をもっと整えたいですね。島:逆に,諦めてしまった人などはいらっしゃらないんですか。ほとんどの方がやっぱり喜びの方に行くんですかね。臼井: スポーツが苦手な人もかなりいるんですよ。むしろ現実は,障がいがある人の中ではスポーツが苦手な人の方が多いですね。だからそういう人が少しでも何かチャレンジするものを提案していきたいということで,義足のファッションショーをやってみたり,みんなで旅行に行ったり,ミュージカルを見に行ったり,ボウリングをやったりと,文化的なことも。島:そういうことを企画しておられるのですか。臼井:そうですね,だからだんだんやりたいことが増えてきちゃって大変ですね。島:そういうスタッフや仲間がいるとどんどん増えますよね。会もすごい人数なんでしょう。臼井:今,メンバーが約220 人いますね。島:今まで動かせなかった体でいろいろなことができるようになってくると,家族もうれしいでしょうね。臼井:家族がすごく喜びますよね。子どもさんに障がいがある場合は,一緒に企画に参加してもらっていると親もすごく負担が軽くなったり,精神的に楽になったりするようですね。やはり悩みを抱えている親御さんがすごく多いですから。本人ばかりじゃなくて周りの人がすごく明るくなっていったり,解放されるっていうこともすごく感じますね。島:働くことというのは「自分と相手と社会がよくなること」と言われます。この「社会」の部分は今おっしゃっていることにも通じるところでしょうね。「義足によって社会が変わってくる」ことはあると思われますか。臼井:いや,変わると思いますよ。島:どう変わりますかね。臼井:例えば車椅子の人が何かをしようとしたらそれを手伝う人も出てくることがありますよね。それを「面倒だ」とか「世話がやける」と思う人もいると思うんです。ところがその車椅子の人が輝いてくるというか変化してくると,手伝った人やサポートした人もやっぱり同じ喜びが得られて輝いていきますね。要するに「一緒に築き上げる喜び」みたいなものが出てくる。それがたぶん世の中を少しずつ変えていく。例えば,車椅子の人にとって走りやすい,移動しやすい道路を作った人がどこかで喜びを感じたりしますよね。そういう連鎖みたいなものはあると思います。島:喜びや優しさがいっぱいの社会が広がっていくということですね。今日はありがとうございました。お話を聞かせていただいて,とてもよかったです。う気持ちがまずないと長続きしないんですよね。だから,僕があまり押し過ぎても駄目ですね。後押しし過ぎてもだめで,やっぱりちょっと押して後は本人が少し歩み出すというか。ちょっと時間をかけて,やる気を見てエスコートするみたいな感じですね。島:今,教育でもその視点ってものすごく大事だと言われているんですよ。可能性を引き出すっていうんですかね。そういう考え方はどうやって身につけられたのですか。臼井:一つ言えるとすれば,想像力みたいなものですよね。例えば患者さんが若い人だとしたら,その人が義足で日常生活をしたらどんなところで不便だろう,とかいろいろ想像するわけですよ。また,どんなところで便利になるだろうかとか。そうすると学校やお風呂,旅行,もっと言えばクラブ活動をやるとすればどんなところで義足で応援できるだろうかとか,いろいろ考えますよね。島:それを膨らませていくという感じなんですね。臼井:そうですね。「思いやり」ってありますよね。やっぱり「思いやり= 想像力」だと思うんですよ。想像する相手が人なら,想像力が思いやりになったりするんだと思うんですよね。僕なんかは家族が多かったので,一緒にいるときはなかなか考えることがなかったんですが,やはり地元から東京に出てくると,両親,おじいちゃん,おばあちゃんのことを想像することが多くなりました。そういうのを繰り返すと,それが思いやりになるのかな。それは感じますよね。島:お話をうかがっていておもしろいなと思ったのは,小学校から「思いやりの大切さ」について学ぶのですが,中学校で学ぶ「思いやり」は何かというと「相手に気づかせない,さりげなさが大事だ」ということなんですよ。まさに臼井さんのいろんな人との接し方が,本当に「風のように」というか,さりげなく,しかし温かく静かに包み込むような「思いやり」を,ものすごく感じました。臼井:よく「見返り」ってありますよね。何かをしたときにすぐに答えが返ってきて,褒められるとか感謝されるとか。そればっかりだとやっぱり長続きしないと思うんですよ。見返りを求めたりすると,早く「物語」が終わっちゃうみたいなところがあって,あまり価値がないと思いますね。島:長続きさせたいっていうのはどうしてですか。臼井:人間はずっと一生を生きていかなきゃいけないですから。できれば一生の友達でありたいですね。そして「絆」を築くには言葉だけで繋ぎ止めるのではなくて,本当の信頼関係を築くのがいいですね。島:今回お会いする前に,臼井さんについていろんな勉強をさせてもらって,そういうものをものすごく感じていたのですが,今日お会いして,またさらに思いました。臼井:つらいこともあります。病気が原因で足を切断して義足は作ったけれども,中には本当に病気が悪化して命を落としてしまう人もいます。そうすると,次の人には「もっと生きる力が生まれる」くらいのものを作ってあげたいという思いが入ってきます。だからといってみんな助かるっていう保証はないんですけれど,そういう思いを込めるというか。それにはやっぱり手を抜かないで「その人の命が少しでも前に向いて,生きる力が湧くような義足を作ってあげたい」と思いますね。島:そんな中で,パラリンピックの選手が生まれてくるのですね。臼井:長い「物語」の中で,パラリンピックに出場できた選手の喜びに立ち会えることもありますね。例えば3 年前は入院していて,本当に歩くのもやっとだった若者が, 3 年後にパラリンピックのグラウンドに凛々しく立っているのを見ると,やっぱりやりがいもあるし,応援してよかったなって思いますよね。島:それはすごくうれしいですよね。人間っていうのは力をもっているんですかね。臼井:人間も動物ですからね。その人が物事に向かって何か目標をもってチャレンジしていこうとすると,何か動物がもっているエネルギーみたいなものが強くなるのを何となく感じますね。島:最近のパラリンピックを見ていると,F1 のレースのような感じもしました。ユーザーの好きな柄を施した義足。服には隠れるが,気持ちを明るくしてくれる。特集1 対談パラリンピックと今後の夢ユーザーと定期的に相談しながら調整を施す。競技者向けのスポーツ用義足。素材はカーボンファイバー製のものが多い。令和3 年度版『中学道徳 あすを生きる 3』に臼井さんのお仕事を紹介した教材「失った笑顔を取り戻す」を掲載しています。撮影協力/鉄道弘済会4 5