ブックタイトル中学社会 見方・考え方はこう働かせる

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中学社会 見方・考え方はこう働かせる

1234234   際の授業では,地理的な見方・考え方を働かせる局面は一回きりではなく,複数ある。例えば,先述の学習課題「ヨーロッパは,今後もEUとして地域の結びつきを強めていくべきでしょうか。」は,授業の導入で発せられるべき問いである。しかし,学習の進展にそって,生徒は,EUの統合が進み,EUの一員であるという意識が広がったにもかかわらず,イギリスのEU離脱が象徴するように,EUの統合がゆらいでいるという事実にも直面する。このような授業展開の核心部分では,教科書P.69右欄の【深めよう】に示されている問いが有効である。「EU統合がヨーロッパの国々や人々の考えにもたらした変化は何でしょうか。」という問いを発することで,授   方・考え方を働かせるために必要なのは,授業における問いである。問いに導かれた授業を生み出すことによって,社会的事象に対する「考察」が進み,生徒の学びは主体的なものになることが期待される。また,さらに「構想」に向かう問いを発することで,生徒どうしの対話的な学びが生み出されていく。 学習指導要領では,教科の学習の本質が「見方・考え方」を働かせることであると規定している。昨今ではアクティブ・ラーニングが推奨されているが,授業の中で,ただ単に「話し合う」ことや「提案する」ことを取り入れただけでは,深まりに欠け,地理学習の本質と離れたものになる恐れがある。日本文教出版の『中学社会』教科書では,毎ページで問いとリンクした見方・考え方を並べている。それによって,地理の授業が主体的・対話的でありながら,教科の本質にねざした“深い”学びとなることをねらっている。そして,「考察」型と「構想」型のハイブリッドな展開の支えとなる。実見「地理的な見方・考え方」を授業でどう働かせるのかこの教科書によって生徒の学習がどう変わるのかつきを強めていくべきでしょうか。」が示されている。この学習課題の解決に向けて,見方・考え方を働かせる必要がある。教科書ではその例として,「統合が進んだことによるEU加盟国の結びつきや人々の考えの変化について,成果・課題の両面に着目しましょう。」という指示が示されている。もし,さらに発展した学習を望むのであれば,単元末に設けられた【チャレンジ地理】の「ヨーロッパの大国,イギリスのEU離脱問題を考えよう」(教科書P.70-71)に進んで,生徒自身に「構想」型の問い「イギリスのEU離脱に賛成か反対か」について判断させることもできる。伊藤 直之(いとう なおゆき)専門分野/社会科教育学・地理教育主要著書・論文/『社会科教育の未来』(編著,東進堂,2019 年),イギリスにおける地理カリキュラム論争(「社会科研究」76,2012 年),問題解決を基盤とした地理教育(「社会系教科教育学研究」14,2002 年)日本文教出版『中学社会』教科書著者業展開はまさにヤマ場を迎える。そして,授業の冒頭で確認したような,EUが地域の結びつきを深めていくことにも葛藤があると分かり,授業は「EUが今後解決すべき課題は何か,話し合いましょう。」という展開部へと推移していく。▲ 地理P.68-69 ※供給時に,最新の状況に更新する予定です。第2 編第2 章 世界の諸地域ヨーロッパの国々には,世界中から来たさまざまな信しん仰こうや文化をもつ人々が生活しています。EU加か盟めい国のなかで人の移動がしやすくなったことから,経けい済ざい的に豊かな西ヨーロッパの国々には,仕事が少なく所得水準の低い東ヨーロッパの国々から移住する人が多くなっています。また,ヨーロッパには,過去にヨーロッパ諸しょ国こくの植民地だったアジアやアフリカの国々からの移い 民みんやその子孫が多く住んでいるほか,1960年代以い降こう,イスラム教を信仰するトルコ,シリア,北アフリカなどからの移民である外国人労働者や難なん民みんが増えています。その結果,現在では,ヨーロッパには,イスラム教などに基づく多様な文化をもつ人々がともに生活する,多た 文ぶん化か 社しゃ会かいが形づくられています。EUの統合が進み,EUの共通政せい策さくは,それぞれの国が行っていた役やく割わりの一部を引き受けるようになりました。人々は,それぞれの国の国民であるという意識とともに,EUの一員であるという意識をもつようになりました。 その一方で,ヨーロッパでは,EUの統合がゆらぎつつあります。1 3P.281P.41 5P.2812P.2826さまざまな人々が住む多文化社会さまざまな民1 族の人々が住むロンドン(2018年,イギリス)5 高級時計の組み立て(2015年,スイス)ヨーロッパの主な国の外国生まれの人口(OECD International Migration Outlook 2018)3EUの統合が進んで,多くの国の意見を調整することが難むずかしくなり,それぞれの国が主しゅ権けんを失っていくことへの懸け念ねんも広まっています。また,大都市を中心に外国人の数が増えたり,失業者が多くなったりしており,国によっては深しん刻こくな問題になっていることもあって,統合を進めることに反対する人々のうごきが強まっています。 2016年にはイギリスで国民投票が行われ,EUからの離り脱だつに賛成する意見が反対する意見を上まわり,世界に衝しょう撃げきをあたえました。イギリスは2019年にEUを離脱する予定です。EUは,大きな転機をむかえています。イギリスのスコットランドやスペインのバスク地方などでは,独立運動や自治権の拡大を求めるうごきが続いています。これらの地ち域いきでは,言語や伝統・文化などに,その国のほかの地域と異ことなる部分があります。20世紀にも,一つの国だったチェコとスロバキアが平和のうちに分離したり,旧ユーゴスラビアが内戦の結果いくつもの国に分ぶん裂れつしたりしました。 EUの統合がゆらぐなか,統合をさらに進めて大きな経済市場をつくり,多様な人々が協力し合う社会をめざすのか,地域ごとに異なる伝統・文化をより尊そん重ちょうしていくのか,双そう方ほうのよい点を取り入れるのか,ヨーロッパでは,さまざまな意見をもつ人々のあいだで,議ぎ論ろんが続いています。ゆらぐEUの統合統合のかげで進む分ぶん離りのうごき0 1000kmチュニジアノルウェースウェーデンイタリアシリアスペインデンマークフランスドイツオランダモロッコアルジェリア11822 11513310万人以上2~10万人1~2万人流入国流出国注)矢印は, シリア,北アフリカからヨーロッパの国への1  万人以上の移動OECDInternationalMigrationOutlook 2018(2016年)( )C222_05_02P68 ヨーロッパ州への外国人労働者の動きEUから離脱する国の離脱の理由は何か,考えましょう。確認EU統合がヨーロッパの国々や人々の考えにもたらした変化は何でしょうか。また,EUが今後解決すべき課題は何か,話し合いましょう。深めよう「あなたはEU人ですか」という問いに対する国別の回答(Standard Eurobarometer 90)6学習 課題ヨーロッパは,今後もEUとして地ち域いきの結びつきを強めていくべきでしょうか。見方・考え方統合が進んだことによるEU加か盟めい国の結びつきや人々の考えの変化について,成果・課題の両面に着目しましょう。地域EUに加盟しないスイス地理 ヨーロッパのほぼ中央にあるスイスは,九きゅう州しゅう地方とほぼ同じ面積で,人口約850万人の小さな国です。P.62の3 のように,スイスはEUに加盟していません。まわりの国々はEUに加盟していますが,スイスは加盟しなくても問題ないのでしょうか。 スイスは1人あたりの国内総生産(GDP)が非常に多く,経済がうるおっています。スイスの通貨(スイスフラン)は,世界で最も安定した通貨の一つです。スイスの人々は,EUに加盟すると外国から労働者が入ってきたり,共通通貨のユーロが導入されたりして,経済が悪化するのではないかと考えるようになりました。また,EUに加盟していなくても,ヨーロッパの国々とはさまざまな点で経済的な協力を進めています。 2015年には,EUに加盟するかどうかを問う国民投票が行われましたが,加盟に反対する人が過半数となりました。5 6 移民の増加とゆらぐ統合のうごきヨーロッパへの外国人労働者の動き資料活用ヨーロッパのどの国に流入する外国人が多いか,計算しましょう。2イギリスでは,なぜいろいろな国からの移民がたくさん生活しているのだろう。0万人 300 600 900 1200ドイツイギリスフランススペインイタリアスイスオランダベルギースウェーデンオーストリアアイルランドノルウェーデンマークフィンランドルクセンブルク(14.0%)(2016年)注)かっこ内は総人口  に占める割合(13.7)(12.6)(12.8)(9.9)(28.8)(12.1)(16.3)(17.0)(18.3)(17.0)(14.7)(9.5)(6.1)(46.3) しわりあい主な国の1人あたりのGDP(National Accounts Analysis of Main Aggregates 2017)40% 20 40 60 80 100ルクセンブルクスペインドイツギリシャイギリスヨーロッパ人自国民でありヨーロッパ人その他自国民ヨーロッパ人であり自国民注)かっこ内は「ヨーロッパ人」を含む回答の合計(84%)(77)(74)(53)(50)(2018年)ふく0万ドル3 6 9スイススウェーデンオランダオーストリアドイツイギリスフランスアメリカ日本(2017年)68 692-2 ヨーロッパ州5101551015203