ブックタイトル中学社会 新しい学習評価のポイントとは

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概要

中学社会 新しい学習評価のポイントとは

あるだろうか」「共通性を見つけ出すには地図に落としてみたらどうだろうか」という問いを立てることができるでしょう。そこに歴史的な「人口移動」の概念を重ね合わせることによって,アフリカ系の人々の移住経緯と従事した産業そして産業構造の変化による移動といったことをつないだ知識が形成されます。 新しい評価の「知識・技能」で重視されるのは,「分布」「人口移動」などの概念であり,対象事象に応じてこれらの概念から立てられた分析的な問いです。それらの概念や問いを想起できることが,まず求められますが,そこにとどまっていては新たな知識の形成にはなりません。したがって,それらを道具として新たな知識を作り出す「思考」が評価の対象となります。   習評価の二つ目の柱である「思考・判断・表現」では,この知識を作り出すプロセスの習得を評価することが重要です。これまでの社会科の学びは,例えるならば,焼き上がったパンをたくさん食べるだけで,畑を耕し,小麦を蒔いて育て,収穫して粉に挽いて,生地を作って焼くというプロセスは学習者の視野に入っていませんでした。 鎌倉幕府の成立年を問えば,多くの人は「いい国つくろう鎌倉幕府で1192年」と答えるでしょう。しかし,そう言える理由を尋ねれば,恐らく「教科書にそう書いてある」「先生がそう言った」「常識」くらいでしょう。そして,「本当1192年か?」と問えば困惑して沈黙するでしょう。 どのような知識をどのように活用したならば,そのような知識が形成されるのかを考えずに無条件に受け入れるだけでは,疑うことも,なぜそうだと言えるのかに関心を持つこともできません。それでは,誰かが答えを出してくれていない問題や事象に出会ったときにはどうすれば良いのかもわからないでしょう。新学習指導要領の社会科も,これからの社会では,そのような状況に直面することが非常に多くなることを前提として作られています。 歴史的事象を説明する知識を歴史家はどのように作り出すのでしょうか。これからの歴史の学びでは,過去に向き合い,歴史家と同じように生徒自身が過去を批判的に研究することによって,歴史的事象を説明したり判断したりする知識を作り出すことの重要性が指摘されています。 生徒がそのような知識を作り出すプロセスを習得しているかどうかを判断する評価の参考として,国際バカロレアの評価問題を紹介しましょう。国際バカロレアは,国際的な視野を持つ人間の育成を目指す国際教育プログラムで,学習者像として探究し研究するスキルを身につけた人間,批判的かつ創造的に考える人間などを挙げています。この問題自体は高校レベルですが,歴史家の研究方法を生徒に辿らせて,そのような思考が身についているかどうかを判断する一つの方法としては,参考とする価値があるでしょう。この問題では,歴史的事象について記録・記述された資料について,まずそこで何が書かれているか,何が読み取れるかを判断することから始め(問9),次にその資料はどのような立場の誰が,どのような目的を持って何について作成したものかという視点から,その資料の価値と限界を判断できるかを問うています(問10)。そして,このようにして分析した諸資料を比較・対照して(問11),そこに書かれた一つの歴史解釈を生徒自身がどのように評価するかを問うています学123知識を作り出すプロセス●知識を作る道具となる概念や分析的な問いの立て方の 習得を評価する問題の例問い:「政治的ルールが作られ,解釈され,実施される過程」   とは,次のどの概念の定義か。  a. 政治制度   b. 市民性   c. 政治的イデオロギー  d. 政治的意思決定問い:あなたがなにひとつ知らない国の政府における決定の   仕方について調査したいと思ったと仮定しなさい。(中   略)あなたはどのように調査しますか。2 もしくは3   のパラグラフで,あなたが発する様々な質問を述べ,   なぜそれらの質問が有益であると考えるのかを示しな   さい。問い:新学期の初日に,この政治組織コースの先生が突然病   気になり,あなたがコースの中心となる概念となぜそ   れらが分析の道具として有益なのかを言うように求め   られたと仮定しなさい。これらの求めに応ずる小論を   書きなさい。(E.Fenton,ed., Holt Social Studies Curriculum; Test for Compara tive EconomicSystem, Holt,Rinehart and Winston, 1968 より訳出)●知識を作り出すプロセスの習得を評価する問題の例 資料集の資料I からL を読み,質問9 から12 に答えてください。資料と質問は,「事例研究1:東アジアにおける日本の拡大(1931-1941)」に関連したものです。( 中略)問9. ( a)資料K(引用者註:外交史が専門の日本人国際政    治学者の学術論文「抑止政策における誤算:日米関    係史1938 年-1941年」)によれば,日米間の緊張を    引き起こした要因は何でしたか?   ( b) 資料(L 引用者註:イギリスの新聞(1941年8月8日)    に掲載された時事風刺漫画「あの給油所に辿り着く    ためのタンクは十分か?」)は日本の拡張についてど    のようなことを示唆していますか?問10. 日米間の緊張を研究している歴史家にとっての資料K    の価値と限界を,その出典,目的,内容を参考にし    て分析しなさい。問11. 日米間の緊張の高まりについて,資料I(引用者註:    アメリカ人歴史学者の『近代日本史:徳川時代から    現在まで』(2003))と資料J(引用者註:1941年9月6    日帝国議会における日本海軍将校の演説)が明らか    にしたことを比較・対照しなさい。問 12. 「 相互の恐怖は,日米間の緊張を高めました。」諸資料    とあなた自身の知識を使うと,あなたはこの陳述に    どの程度同意しますか?(国際バカロレアDP May2017 Exam Paper1 より訳出)6