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概要

中学社会とSDGs

考えたりする学習の展開が求められていると言えるでしょう。さらに,中項目「C(4)地域の在り方」では,私たちの生活の場である地域で地理的な課題を見出し,その解決についてSDGs の理念である持続可能性に着目して考えることを通して,地域のレベルでSDGs を達成するために私たちに必要な行動を考え,地域の一員としてそれを実行しようとする態度につなげる学習が求められていると考えられます。 それでは,そのようなSDGs に関わる学習は,新しい日文の地理教科書では,どう具体化されているでしょうか。 左にあげた紙面は,「B(2)世界の諸地域」に位置付けられる北アメリカ州の単元の中から,その一例を示したものです。北アメリカ州では,「世界に影響をあたえる産業」をテーマに,主にアメリカ合衆国に焦点をあてて学習が進みます。教科書P.92-93 では,単元の学習のまとめとして,「アメリカの大量生産・大量消費の社会は,どのような課題をかかえているのでしょうか」という【学習課題】を設定し,人々の生活スタイルをめぐる問題やその解決をめざす「持続可能な社会」をつくるための取り組みなどについて理解したり,考えたりする学習の展開が想定されています。こうした展開をSDGs の視点からみれば,Goal12「つくる責任 つかう責任」がなぜ必要なのか,どう取り組まれているのかを理解したり,考えたりすることに他なりません。紙面の都合で省略しましたが,続く教科書P.94-95 では,【チャレンジ地理】として「アメリカでも持続可能な社会をつくる必要がある」とする立場から「大量生産・大量消費の社会を発展させていくべきだ」と考えているアメリカの人々との模擬討論が設定されていて,それを通してGoal12 を達成するための課題や私たちに必要な行動について理解したり,考えたりすることが出来るような学習の展開が想定されています。 新しい日文の地理教科書で,SDGs の視点から展開ができる学習は北アメリカ州だけではありません。「世界の諸地域」でみれば,アフリカ州のモノカルチャー経済の課題やその克服への取り組み(教科書P.76-77)はGoal1「貧困をなくそう」とつながりますし,ヨーロッパ州での環境保全への取り組み,資源・エネルギー政策(教科書P.66-67)はGoal7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」につながります。南アメリカ州における人と環境にやさしい都市の様子(教科書P.101)は Goal11「住み続けられるまちづくりを」につながり,同じ南アメリカ州での熱帯雨林開発をめぐる環境問題や環境に配慮した取り組み(教科書P.102-103)は,Goal15「陸の豊かさも守ろう」とつながります。 「C(2)日本の地域的特色と地域区分」と「C(3)日本の諸地域」でも,新しい教科書にはSDGs の視点から展開できる学習が数多く取り上げられています。日本全体の地域的特色と結び付いた環境問題への取り組み(教科書P.154-155)や防災・減災への取り組み(教科書P.148-151)は,Goal7やGoal13「気候変動に具体的な対策を」につながっていると言えるでしょう。自然環境を保全しながら観光業を発展させる取り組み(九州地方/教科書P.173)や,農産物を活用した地域活性化の取り組み(中国・四国地方/教科書P.186-187),世界をめざす企業と伝統産業の取り組み(近畿地方/教科書P.200-201)などは,Goal12 につながっています。とくに東北地方(教科書P.234-247)は,SDGs がめざす「持続可能な社会づくり」を,全体を貫くテーマとした学習の展開が想定されています。 さらに,新しい教科書の最後に位置付けられている,京都市を事例とした「C(4)地域の在り方」(教科書P.263-273)は,地域の状況に応じて工夫することで,SDGs のGoal すべてにつながる学習の展開が可能なのではないでしょうか。 最後に,地理的分野の学習がSDGs とつながることで,生徒はどんな資質・能力を身に付けることができるのかを考えてみたいと思います。地理的分野の目標として掲げられている知識や技能,思考力・判断力・表現力といった資質・能力を身に付けられることは言うまでもありません。それに加えて,SDGs で設定された17のGoal を達成するために,私たちの行動を見つめ直し,人々と協力しながら達成のために必要な行動につなげることが何よりも重要です。それはつまり,社会科の目標に示されている「よりよい社会の実現を視野に課題を主体的に解決しようとする態度」に他ならないのではないでしょうか。これはまさに今求められている資質・能力です。●浅川 俊夫(あさかわ としお)専門分野/中等地理教育2016 年3月まで,埼玉県で公立高校教員として地理教育に携わるとともに,その間,国立教育政策研究所教育課程調査官などを経験。現在は,教育学部教員として中等教育教員養成にあたっている。日本文教出版『中学社会』教科書著者新教科書にみるSDGs の学習と育まれる資質・能力3