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概要

中学社会とSDGs

課題例 1 災害の歴史に学ぶ「歴史との対話」を未来に活かす日本列島で起きた災害干かん害がい対策防火対策地震津つ波なみ対策と災害の記き憶おくの継けい承しょう被ひ災民対策洪こう水ずい対策資料1ききん対たい策さく資料2資料3 資料6資料4 資料7資料5 過去に日本列島で起きた災害を正確に把は握あくすることはたいへん困こん難なんなことですが,死者が1000人をこえる大規き模ぼ災害の発生回数を読み取り,過去の災害のおおまかな傾けい向こうを見てみましょう。18世紀の享きょう保ほうのききんで,人々がうえに苦しむのを見た青あお木き昆こん陽ようは,『蕃ばん薯しょ考こう』を書き,琉りゅう球きゅうから薩さつ摩まに伝わっていたさつまいもに着目して普ふ及きゅうを訴うったえました。 江え戸ど幕ばく府ふの8代将しょう軍ぐん徳とく川がわ吉よし宗むねが,この本と種たね芋いもを諸しょ国こくに配ると,やせた土地でも育つさつまいの栽培が広がりました。大おお阪さか狭さ山やま市の狭山池は,1400年前の飛あすか鳥時代につくられました。以後,行ぎょう基きや朝ちょう廷ていが貯水量を増やす工事を重ね,周辺の農地の水不足を解消し農業を支えてきました。江戸時代,江戸の大半を焼失させる大火が,10回以上も発生しました。木造家屋が密みっ集しゅうして建ちならぶ都市では,火災は,最も身近でおそろしい災害でした。 1718年,それまで中心であった武士の消防組織に加え,町人の消防隊である町火消が設置されました。費用は町人が負ふ担たんし,江戸全体で約1万人いたと伝えられています。岩いわ手て県宮みや古こ市の姉あね吉よしに「高き住居は児じ孫そんの和楽 想へ( え)惨さん禍かの大津つ浪なみ 此こ処こより下に家を建てるな」と刻きざんだ石碑があります。この石碑は,1933(昭和8)年の昭しょう和わ三さん陸りく地震津波の後,海かい抜ばつ50mのところに建てられました。姉吉地区は,このときの津波と,1896(明治29)年の二度にわたって地震と津波におそわれ,生せい存ぞんした住民がそれぞれ4人と2人という壊かい滅めつ的な被害を受けていました。石碑を建てて以い降こう,石碑より低い場所に住む人はなく,東日本大震災のときも海抜40.5mのところまで津波が押おしよせましたが,民家はこの石碑より高いところにあり,住民は無事でした。 こうした石碑は,全国各地に建てられています。過去の災害の記録と記憶をとどめ,未来に向けた防災の糧かてとすべく,データベース化して広く公開する取り組みも進んでいます。江戸時代,幕府をはじめ寺社や個人によって建てられ,被災民を収しゅう容ようして食料をあたえました。自分の力で領国を治めた戦国大名は,領民の生活を守るとともに,安定した年ねん貢ぐの確保をめざして,農業などを盛さかんにし,治水事業に力をそそぎました。青木昆陽『甘かん藷しょ記き』(国立国会図書館蔵) 『蕃薯考』を庶しょ民みん向けにわかりやすく書いたのが『甘藷記』です。天てん保ぽうのききんで蘭らん学がく者の渡わた辺なべ崋か山ざんらが京きょう都とに設置した救すくい小ご屋や(荒こう歳さい流りゅう民みん救きゅう恤じゅつ図ず  東京都 国立国会図書館蔵)町火消(東とう京きょう都江戸東京博物館蔵)岩手県姉吉の大津浪記念碑信しん玄げん堤つつみ(山やま梨なし県甲か斐い市) 甲か斐いの国くに(山梨県)を治めた戦国大名の武たけ田だ信玄が,16世紀なかばに築いた堤防で,今に残されています。死者1000人以上(推すい定てい)の大規き模ぼ災害(河かわ田た惠よし昭あき作成資料,2018年現在)かんがい設備国立民族学博物館のウェブサイト「津波の記憶を刻む文化遺産-寺社・石碑データベース」学習 課題災害に強い社会の実現をめざし,防災・減災に関するそなえを過去から学びましょう。ステップ1 日本列島では,いつ,どのような災害が起こっていたのでしょうか。資料1 から,どの時代にどのような災害が多かったのか読み取りましょう。ステップ2 先人たちは災害にどのように向き合い,生きぬいてきたのでしょうか。資料2?7 のほか,テーマ別さくいん「ききん・災害・疫えき病びょう」( P.299)も活用して,どのような人々がどのように対たい処しょしてきたのか,整理しましょう。また,身近な地ち域いきに似たような事例がないか,調べましょう。ステップ3資料2?7 にある先人たちの取り組みが現代に引きつがれていないか,考えてみましょう。先人の取り組みをふまえ,現代も継けい承しょう・発はっ展てんすべきことは何でしょうか。自分の考えをまとめましょう。公民的分野の学習に向けて現在の国や地方公共団体の災害に対する取り組みを学びましょう。政治単元環かん境きょう問題や自然災害に対する国際協力の重要性が高まるなか,日本の国際社会への貢こう献けんや果たしている役やく割わりを学びましょう。国際単元救小屋治水事業さつまいもの栽さい培ばい地震津波碑ひ町まち火び消けし 2011(平成23)年3月11日に発生した東日本大震しん災さいの発生以い降こう,過去の災害について学ぼうとする取り組みが,広く行われるようになりました。 文字による記録だけでなく,遺い跡せきの発はっ掘くつ調査などの成果を組み合わせて,過去の災害の被ひ害がいの実態や復興の過程を明らかにしようとする研究が進んでいます。今後のそなえを検けん討とうしていく際の大切な情報の一つに位置づけているのです。東日本大震災発生回数火山噴火つなみ津波じしん   地震たかしお高潮こうずい洪水600年1000年1400年1800年1900年1950年2000年32220合計99回古代中世近世近代現代3024ふんか300 301▲ 教科書P.300-301 SDGsは,2030 年までに実現すべき世界を描いた17 の 中学校歴史的分野の内容とSDGs との接点を考えた時に,まず想起されるのはいわゆる「構想」の学習です。歴史的分野の最終項目に位置づけられた本学習では,「これまでの学習を踏まえ,歴史と私たちとのつながり,現在と未来の日本や世界の在り方について,課題意識をもって多面的・多角的に考察,構想し,表現すること」(中項目「C(2)現代の日本と世界」)が目指されています。一見すると,現在と未来の社会を対象とした学習と捉えられそうですが,このなかで歴史学習はどのような位置と役割を果たすのでしょうか。新学習指導要領で示された内容とSDGs のつながり教科書のどの教材が,SDGsとつながるかゴールとその課題ごとに設定された169のターゲットから構成されていますが,そこには貧困や飢餓,教育,ジェンダー,経済成長,環境問題をはじめとした広範な現代的課題が網羅されています。 なかでも,近年,地震・津波や風水害をはじめとした多くの自然災害に見舞われている中,今後の復興や防災・減災の在り方を考えることは喫緊の課題の一つといえるでしょう(Goal11,Goal13 参照)。新しい日文の歴史教科書では,「構想」の学習の一例として,2011年3月11日の東日本大震災の発生以降,広く行われるようになった過去の災害に学ぼうとする取り組みが取り上げられています(教科書P.300-301「課題例① 災害の歴史に学ぶ」)。たとえば,教科書P.301の資料7 には,1933年の昭和三陸地震津波の後に建てられた岩手県宮古市姉吉の地震津波碑の事例が紹介されていますが,「高き住居は児孫の和楽 想へ惨禍の大津浪 此処より下に家を建てるな」との碑文からは,2 度にわたる津波被害とその記憶を未来の世代へと伝承しようとする当時の住民の切実な思いと取り組みの事実に触れる4