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概要

中学社会とSDGs

な歴史的事実を学んだうえで,対話を重ね,共有できる認識を広げていくことがたいへん重要です。少子高こう齢れい化に対応した社会保ほ障しょうや,防災,エネルギー問題,沖おき縄なわの基地問題など,国内にも解決しなければならない問題が山積しています。なかでも人じん権けんの尊そん重ちょうは重要な課題です。部落差別の撤てっ廃ぱいは,国や地方公共団体の責務であり,国民的課題です。また,性的少数者,在日韓国・朝鮮人,アイヌ民族,外国人労働者といったマイノリティ(少数者)のなかには,偏へん見けんや差別になやまされている人がいます。障しょうがい者や高齢者,女性,子ども,貧ひん困こん者など,学校や職場,地ち域いき,家庭など社会の各所で弱い立場におかれ,苦しんでいる人もいます。すべての人々の人権を尊重し,属性や個性,文化の多様性を認みとめ合い,ともにいきいきとくらすことのできる社会を実現することが必要です。急速な変化をとげてきた現代社会ですが,21世紀になって,その変化の方向は見えにくくなっています。そのような時代だからこそ,歴史に学ぶことは重要です。例えば,戦争や公害,差別問題に関する歴史は,どのような時代になろうとも,大切な価か値ちや教訓を教えてくれます。有名・無名を問わず,それぞれの時代を生きぬいてきた人々が,次の時代をつくってきたことも,歴史が教えてくれます。現在の私たちの行動もまた,未来をつくっていくのです。歴史に学び,現在を生きぬき,未来を切り拓ひらいていく。そんなみなさんの活かつ躍やくを願っています。36解決をせまられる国内課題歴史から未来へ1965(昭和40)年の同和対たい策さく審しん議ぎ会の答申をもとに,同和対策事業特別措そ置ち法が施行され,生活環境の改かい善ぜんや雇こ用よう拡かく大だいなどの努力が行われました。2016(平成28)年には,部落差別の解消の推すい進しんに関する法律が制定され,差別解消に向けた取り組みが強化されました。3身近な差別の解消は,どのように平和の実現に結びつくのでしょうか。深めよう国際社会がかかえる問題の解決のために,私たちには何ができるか,日本には何ができるかを話し合いましょう。確認女川いのちの石碑(2013年) 宮城県内の石材店の協力や募ぼ金きんによって実現した石碑です。5アイヌ文化の体験学習のようす(平びら取とり町立二に風ぶ谷たにアイヌ文化博物館)6私たちにできること-震しん災さいの教訓を未来に伝える- 先人の防災・減災に関する知恵を学び,今後のそなえを検けん討とうする際の大切な情報の一つに,津つ波なみ被ひ害がいなどを刻きざんだ石せき碑ひがあります。 宮みや城ぎ県女おな川がわ町は,東日本大震災によって,死者・行方不明者が800人をこえるなど,甚じん大だいな被害を出しました。その女川町に,「千年後の命を守るために」自分たちに何ができるかを考え,活動した中学生がいます。 2011(平成23)年に入学した生徒が,震災の記録を残す活動の一つとして,町内に21か所ある浜はまの津波到とう達たつ地点に石碑を建てる計画を進め,2013年11月に最初の石碑を完成させました。石碑には,これから生まれてくる人たちに,自分たちと同じ苦しみや悲しみを経けい験けんしてほしくない,という思いから,大地震が来たらこの碑より高いところににげること,にげない人がいたら無理にでも連れ出すことなどの,生徒が考えたメッセージが刻まれています。 過去の災害に学ぶとともに,自分たちの経験を教訓として,未来の世代に積極的に伝えようとする若わかい世代が育っています。防災災害復興先人に学ぶ文化291世紀B.C.A.D.123456789101112131415161718192021時代旧石器縄文弥生古墳飛鳥奈良平安鎌倉南北朝室町戦国江戸明治昭和平成令和大正安土桃山5101520第5 編第1 章 日本の近代化経けい済ざい発はっ展てんか,環かん境きょう保全か,足あし尾お歴史 鉱毒事件を通して考えよう 1890(明治23)年ごろから,栃とち木ぎ県の足尾銅山の鉱毒が渡わた良ら瀬せ川に流れ出し,下流の田畑の作物が枯かれ,魚が死ぬなどの被ひ害がいが広がりました。また,銅山の煙えん害がいや用材のための森林の乱らん伐ばつによって水すい源げんの山々ははげ山となり,1896年には大洪こう水ずいが起こって,3万haをこえる土地が鉱毒におおわれました。 こうしたなか,当時の人々はどのように対応したのでしょうか。銅山の操そう業ぎょう停止と被ひ災さい民みんの救きゅう済さいを求めた田中正造と政府の対応を学び,みなさんもこの問題について考えてみましょう。資料2 足尾鉱毒事件の年表 資料3 田中正造の直訴状の内容資料1 足尾銅山の鉱毒の被害田た中なか正しょう造ぞうはどのような事態を問題とし,帝てい国こく議会や天てん皇のうに何を訴うったえようとしたのでしょうか。? 資料1?3 から,足尾鉱毒事件の概がい要ようを確かく認にんして,田中正造の主張を読み取りましょう。▼学習の流れステップ1年できごと1610 足あし尾お 銅山が発見され,江え戸ど幕ばく府ふ の直轄となる1817 銅山休止し,廃はい山ざん同様となる1877 銅山が古ふる河かわ市いち兵べ衛えの所有となる1880 魚が浮死,栃とち木ぎ 県から渡わた良ら瀬せ川の魚類捕ほ 獲かく禁止令が出る1890 渡良瀬川の大洪こう水ずいで,沿えん岸がんに鉱毒被ひ 害がいが発生各町村で鉱毒反対の動きが表面化する1891 田た 中なか正しょう造ぞう,帝てい国こく議会で初めて足尾銅山鉱毒問題を取り上げ,操そう業ぎょう停止を求め,政府の責任を追つい及きゅうする1896 大洪水で鉱毒被害が1府5県に拡かく大だいし,鉱業停止運動が活発になる1897 政府は銅山に鉱毒除じょ害がい工事を命じる1898 被災民1万人,上京しようとして警けい官かんと衝しょう突とつ1900 被災民3000人,請せい願がんのため上京の途と 中ちゅう,警官隊に阻そ止し ,鎮ちん圧あつされる(川かわ俣また事件)1901 田中正造,鉱毒被害について天皇に直じき訴そ を試みる1902 被災民上京。政府は銅山に鉱毒予防工事を命じ,洪水対たい策さくで谷や中なか村むらを遊水地とすることを決定1904 田中正造が谷中村に移り住む1906 谷中村,強制破は 壊かいにより廃はい村そんとなる 謹つつしんで思いますに,政府当局にその責任を尽つくさせて,陛へい下か の赤子*である人民に自然の恩おん恵けいをあたえる道は,他にありません。それは,第一に,渡良瀬川の水源を清めること。第 二に,川の流れを修築して,そのもとの状態に戻もどすこと。第 三に,鉱毒ではげしく汚お 染せんされた土を除じょ去きょすること。第四に,沿岸の無限の天産を復活すること。第 五に,多数の町村の退たい廃はいした状じょう況きょうを回復すること。第 六に,加毒の鉱業を止め,鉱毒に汚染された水などの流出を根絶すること。(一部要約)* 天皇を親にみたてた表現とえ ねどわたらせ谷中村桐生きりゅ足利あしかが佐野さの東京ちばとうさいたまか な がわとちぐんまぎいばらききょう古河こがやなかう館林たてばやし渡良瀬川利根川江戸川栃木県茨城県群馬県埼玉県神奈川県千葉県東京府R516_06t2_01足尾銅山の鉱毒の被害0 20km鉱毒被害地(1899年)ひがい足尾銅山あしお田中正造(1841~1913)(東とう京きょう都 国立国会図書館蔵)地元の衆しゅう議ぎ 院いん議員の田中正造は,農民とともに鉱山の操業停止と被災民救済を政府に訴うったえました。そして,新聞や都市の知識人らの支し援えんが広がっていきました。216  その際,本教科書に収載された「テーマ別さくいん」(教科書P.298-299)を有効に活用していくことが,SDGs に向けた社会科歴史学習を深めていくことにもつながると思います。子どもたちは,それぞれの問題意識に基づいて歴史学習を進める中で,「テーマ別さくいん」によって,たとえば「ききん・災害・疫病」の項目を参照しながら,古代から現代における歴史を問題史的に学んでいくことが考えられます。また,その学びの中で,現在でも宮城県女川町において,「千年後の命を守るために」過去の災害に学ぶとともに自分たちの経験を教訓として未来の世代に積極的に伝承しようとする取り組みが存在すること,そして,その主体が同じ中学生であること(教科書P.291「女川いのちの石碑」)に出会うでしょう。 SDGs に関わる歴史上の出来事を授業で扱うことは,歴史の大きな流れや各時代の特色をとらえる学習においても,適時,継続的に積み重ねていくことが大切になると思います。具体的な事例として,近世では浅間山の噴火の甚大な被害▲ 教科書P.291▲ 教科書P.216▲ 教科書P.299わり 177成180,181181184成立・民主政治(日本)194,195,196,197197,200,205,212,230,232,243,245,268,273,288198,199法 198,199199,200230,231230230,243) 231266264,266加31,40,73,233,266,267成立・民主政治(世界)ーマの民主政(民主政治)・24,25166,167165問屋制家内工業 148工場制手工業 148鉱業戦国時代の鉱業 121江戸時代の鉱業 138,139明治時代の鉱業 210,211商業奈良時代の市 44鎌倉時代の商業 77室町時代の商業 94安土桃山時代の商業 117江戸時代の商業 134,135,141貨幣奈良時代の貨幣 47宋銭の使用 77,94明銭の使用 90,94江戸時代の貨幣 126,141,146,175明治時代の貨幣 182土地公地公民(班田制) 42,47,52,54,86荘園 47,70,86,87荘園公領制 86,87太閤検地 118,119地租改正 184農地改革 267近世 119,127,134,135,147,180,181近代 181,194女性の地位・権利  77,90,135,201,212,233,267,281ききん・災害・疫病古代まで 47,300,301中世 79,300,301近世 146,147,149,172,300,301近代 240,300,301現代 289,291,300,301文化芸術詩歌 50,56,79,93,101,142,143,153,213物語・小説 56,79,101,143,153,213,236日記・随筆 56,79絵画 19,55,98,99,113,122,143,152,153,214,239演劇 25,100,101,122,123,142,143,234女性  外交流  55,112,113,114,116,130,131貿易  戦争  中国稲作卑弥倭の遣隋日宋元の倭寇 に際しての「天地返し」の取り組みを通して,当時の自然災害からの復興に向けた先人の工夫や努力に学ぶことができます(教科書P.149「天明のききんと復興」)。また,近代では足尾鉱毒事件をめぐって国の経済発展と各地域の環境保全のどちらを優先すべきかを,当時の時代的・社会的状況において子どもたち自身が選択・判断するような学習が可能です(教科書P.216-217「経済発展か,環境保全か,足尾鉱毒事件を通して考えよう」)。 このように,先人の知恵に学ぶことができるコラムとして「先人に学ぶ」が,また歴史を面白く,深く学ぶ特設ページとして「チャレンジ歴史」が各編に配置されており,SDGs を扱う上で参考になる教材となっています。学びの主体である現在の子どもたちの問題意識を丁寧に見取りながら,歴史学習を組織していくことがますます重要になっていると考えます。ことができます。 このように,現代社会における諸課題を理解・解決していくために,過去の事例を題材として当時の人々が直面した課題とその解決のための取り組み(選択・判断)に向き合いながら,今後のよりよい社会の在り方を構想するような学習が,SDGs に向けた社会科歴史学習に求められる役割の一つであると考えます。SDGsを扱う授業によって,生徒にどんなことが期待できるか5●熊田 禎介(くまた ていすけ)専門分野/社会科教育学・歴史教育主要著書/井田仁康編『教科教育におけるESD の実践と課題~地理・歴史・公民・社会科~』(分担執筆,古今書院,2017 年)江口勇治監修・編著,井田仁康・唐木清志・國分麻里・村井大介編著『21世紀の教育に求められる「社会的な見方・考え方」』(分担執筆,帝国書院,2018 年)日本文教出版『中学社会』教科書著者