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概要

中学社会とSDGs

 SDGsの達成のために,今何をすべきかを学ぶことは,生徒に,自分たちの世代だけではなく将来の世代にとって何が必要かを,今後の社会の変化を予想しながら考察し,判断する力を身に付けることを期待している。今,どうなっているかを把握することでさえ難しいのに,さらに,予測困難な将来のことを見通しながら考えたり,決断したりしなければならないのである。しかし,冒頭で引用した内容D(2)の「多面的・多角的に考察,構想」の「構想」とは,まさにこのことを意味している。そのためにも,自分は将来どのような生き方をするのか,そのためにどのような社会を形成しなければならないのか,自分なりの考えを持つことができる生徒を育てたい。 公民的分野では,内容のD以外の経済や政治の領域の内容も,そのほとんどはSDGs達成に関わるものである。日文『中学社会』公民的分野教科書では,教科書P. 2 - 3にて17の目標を示している(図3)ほか,第1 編において現代社会の特色のひとつとして取り上げており,教科書全体を通してSDGsについて考えられるよう工夫している。「B 私たちと経済」の内容においては,特に,社会保障,消費者教育,財政と租税の学習などは,持続可能な社会の形成について考えさせるうえで鍵となる内容であり,SDGs達成に向けて行動するための基盤となる認識を形成するうえでも重要である。社会保障については,これらかの福祉社会のあり方を考えたうえで,受益と負担の均衡のとれた持続可能な制度をいかに構築するかという点からの学習が求められる。また,消費者教育については,自らの消費生活とその中での行動が,現在及び将来の世代の生活環境を変え得る力を持っていることを自覚したうえで,公正かつ持続可能な社会の形成に参画するという点からの消費生活の見直しが期待されている。「C 私たちと政治」では,SDGs達成に向けた政治的意思決定の仕組みを理解することと,そこに自らが関わるための政治参画のあり方を学ぶことが重要である。例えば,政治参加の学習においては,政治においては▲ 図3 教科書P. 2 - 3 これからの社会をどんな社会にしたい?優先的に取り組むかを考えなければならない。そのことは,自分の理想とする社会がどのようなものであるかを反映している。したがって,社会に対する見方が異なれば,優先すべき目標や,解決のために選択する方法も異なってくる。そのことが対立を生むこともある。教科書P.207 では,このことを実感的に捉えさせるためにダイヤモンドランキングを使ってどの目標を重視するかを考える活動が設けられている。自分のランキングを他者と比較し,その違いについて話し合うことで,国際社会においてSDGs達成に向けての足並みがなかなかそろわないことを理解できよう。国民の意思をそれに十分反映させることが必要であるが,その一方で国民の意思は,マスコミやSNSなどの影響を受け易く,それだけに国民一人一人の良識ある主体的な判断力の育成が,民主政治の鍵であることを,生徒自身が多面的・多角的に考察する活動を通して自覚し,そのための能力を身に付けることが必要とされるのである。●桑原 敏典(くわばら としのり)専門分野/社会科教育,市民性教育主要著書/(編著)『高校生のための主権者教育実践ハンドブック』明治図書,2017 年。(一部翻訳)アンドレアス・シュライヒャー著『教育のワールドクラス―21 世紀の学校システムをつくる』明石書店,2019 年。日本文教出版『中学社会』教科書著者教科書全体を通してSDGs について考えるおわりに7