ブックタイトルここが知りたい 小学校道徳科15の疑問 vol.3

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概要

ここが知りたい 小学校道徳科15の疑問 vol.3

6 7 簡単なのは,「こんな場面に出合ったことはありませんか。」と言って,場面絵を数枚提示することです。日常よくありがちな場面を言葉だけではなく,画像で示すのです。 例えば,前述の「B 親切,思いやり」の場合は,こんな場面が考えられます。 ・休み時間に外で遊んでいると,1年生が転んでケガ  をしているのを見かけた。 ・一人で重そうに物を運んでいる人を見かけた。 そのうえで,「1年生にかまっていると遊ぶ時間が減っちゃうよね。」と自分のことを我慢しなければならないことを押さえます。そして,「保健室に連れて行ってあげた。」と子どもが発言したとすると,「どんなことを思って連れて行ったの。」と尋ねます。そうすると,「自分のことを我慢して困っている人のことを考えて親切にしたことがある自分」を見つけることができるのです。さらに,「1年生に『ありがとう』と言われてうれしかった。」などという発言があれば,すばらしい振り返りです。 また,2年の教材「なわとび」(A 希望と勇気,努力と強い意志)の場合,めあてに向かって取り組んでいる場面を絵で提示します。 ・計算や漢字の練習に取り組んでいる場面。 ・お手伝いのお風呂そうじに取り組んでいる場面。 ・係の仕事として黒板をきれいに拭いている場面。 そのうえで,「うまくできなかったり,めんどうだったり,やめたくなったりすることあるよね。」と投げかけます。すると,「うん,うん,ある。」とうなずく子ども。「そんなときどうしたの。あきらめたの,続けたの。」と尋ねます。「がんばって続けた。」という返事がほとんど。「じゃあ,どんなことを思ってがんばったか,ノートに書いてごらん。」 このようにすると,ほとんどの子どもがはっきりとした視点をもって,今までの自分を振り返ることができるはずです。 低学年だと,一つの具体的な場面を思い出して振り返るのが普通ですが,高学年になると,複数の場面で今までの自分を振り返り,自分の傾向性を見つめるということもできます。 例えば,「C 勤労,公共の精神」の場合,働く喜びを感じながらみんなのために働いていたかという視点で,いくつかの場面を振り返りました。すると,「ぼくは,人に見られているときは喜びを感じながら働いていますが,見られていないときはさぼっていることがあります。」と自分の傾向性に気付くこともあります。 それでも,「そんな経験ありません。」と言う子どもには,教師の日常観察から捉えた具体的な事実を提示しましょう。「先生はあのとき,○○さんがこんなことをしているのを見ていましたよ。」という感じです。これは,今までの自分を振り返りやすくするためだけでなく,「先生は,ぼくのことをよく見ているな。」という信頼にもつながります。 また,事前の活動として「親切にできたことをカードに書く」などということをしておくのも効果的です。今までの自分を振り返る際,そのカードを見ながら具体的な場面を見つけて,展開前段でもった視点に照らして振り返るというわけです。 今までの自分を振り返ることができるようにするためには,子どもに「はっきりとした視点」をもたせ,振り返りやすくする手立てを工夫することが大切です。そして,子どもが素直に振り返れたときには,そのことをしつかりと認め,励ましていきましょう。 「自分を見つめる」,「今までの自分を振り返る」ということは,けっこう高度な思考力や表現力を必要とします。よい自分にもよくない自分にも向き合おうというのですから,そう簡単ではありません。でも,こつこつと積み重ねることによって,できるようになります。そのための手順や方法,教師の手立ての工夫について紹介しましょう。 まず,自分を見つめるには,はっきりとした視点が必要です。その視点は,展開前段につくられます。「はっきりとした」というのがポイントです。 例えば,内容項目「B 親切,思いやり」の場合,「今まで人に親切にしたことがありますか。」というのでは,はっきりとした視点にはなりません。そういう経験はきっとあるので,振り返ることはできます。でも拡散してしまい,ねらいに迫ることはできません。教材を読んでも読まなくても,友達と話し合っても話し合わなくても,1年生でも6年生でも同じになってしまいます。 その学年,その教材に応じた,その学級ならではの振り返りの視点が「はっきりとした視点」です。   例えば,2年の教材「くりの み」(B 親切,思いやり)で考えてみましょう。 展開前段で,困っている人に親切にすると相手も自分もとてもうれしい気持ちになること,親切にするにはちょっと自分が我慢しないといけないことなどが捉えられます。となると,振り返りのはっきりとした視点は,次のようになります。<はっきりとした視点の例>「今までに,困っている人に親切にして,自分もうれしくなったことがありますか。」「今までに,ちょっと自分が我慢して,人に親切にしたことがありますか。」 このように,はっきりとした視点をもつことによって,子どもは,今までの自分を振り返りやすくなります。このことは,本時のねらいや教師の明確な意図とつながっています。 振り返りのはっきりとした視点をもつことができたとしても,具体的な場面が思い浮かばなければ,今までの自分を振り返ることができません。今までの自分を振り返れない子どもが,とても多いのですが……。132はっきりとした視点をもつ一人一人に応じて具体的な場面を想起する疑問9 展開後段で「今までの自分を振り返ってみましょう。」と言うと,シーンとしてしまいます。時には,「えー。」という声も聞こえてきます。 口頭で尋ねても「そんなこと経験がありません。」「思い出せません。」という答えが返ってきます。「ノートに書いてごらん。」と促しても,鉛筆は止まったままで動きません。机間指導をすると,「何を書けばいいのですか。」「どう書けばいいのですか。」という質問ばかりです。今までの自分を振り返れない子どもが多いのですが,どうしたらよいでしょうか。