ブックタイトル教育情報No.7
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教育情報No.7
触れ,自らの中に建築体験を積み重ねていってほしいと思う。仮設住宅建設に取り組む建築家として社会全体のために役立つことをしようと、1984年のルワンダの難民用シェルターを皮切りに、地震などの自然災害で家を失った人のための仮設住宅の設計に無償で携わるようになった。地震で倒壊した建物により命をなくした人は多く、災害と建築家との関係は深い。しかし、被災現場には建築家の姿はないのが実情である。多くの国や地域で紙管を使った建築を進めてきた。神戸やニュージーランドでは教会も紙管でつくった。紙管は世界のどこでも安価に入手できる材料で、もともと廃棄される運命にあったものの再利用だ。近年はエコロジーという視点でも評価されるようになった。紛争地や被災地での家づくりをする際には、必ず現地に行き、現地のパートナーを探す。そして、現地で調達できる材料や職人などのマンパワーを確認する。それが現地での雇用創出にもつながっている。最近の例では、東日本大震災の被災者のために避難所内の間仕切りや仮設住宅の設計と建設をおこなった。わたしの設計する仮設住宅は快適な住み心地や美しさを追求している。仮設住宅は最低の基準さえ満たしておけばよいという認識があるようだが、被災者の忍耐強さやおとなしさにあぐらをかいた人権無視であろう。遮音性能、断熱性能を高くするだけでは不十分だ。大きな窓から見える風景や明るい光、室内を吹き抜けていく自然風などが、快適さの重要なファクターなのである。具体例として、宮城県女川町のコンテナ多層仮設住宅プロジェクトがある。コンテナを利用した住宅については以前からアイデアは持っていた。この住宅はコンテナを市松模様に組んでいるので、安価で構造的にも強く、耐震性がある。また、多層化(3階建て)により、住棟間にゆったりと充分な空間を取ることができた。隣の棟を気にすることなく、窓を大きく開けることができるのだ。さらに敷地内には駐車場はもちろんマーケット(坂本龍一氏の寄付による)、子どものためのアトリエ兼図書館(千住博氏の寄付による)も設置することも可能になった。仮設住宅に住む人たちは、さまざまなところから来た人たちで、いちからコミュニティをつくらねばならないので、このような施設の役割は非常に大きいものなのだ。このコンテナ住宅に入居した人たちからは「地震の前に住んでいた家よりもいい」とか「ずっと住んでいたい」という喜びの声を聞いた。建築家は、住んでもらう人に喜んでほしくて設計をしている。高価な住宅であっても、仮設住宅であっても質的向上の追求に対する情熱、つまり愛情に違いはない。大手ハウスメーカーのつくる仮設住宅と違うのがこの点である。つくる家や住まう人に対して愛情があるかどうか、それが住宅設計の質の違いにはっきりと現れるのである。コンテナ多層仮設住宅プロジェクト海上輸送用コンテナ/2011[宮城県]既存のコンテナを市松模様に積み上げ、遮音や断熱性に優れ、高い居住性を有する多数の住宅を短期間で被災地に建設した。家族構成に合わせた複数の間取り、コンテナ間を利用した開放的なLDKも実現している。著者プロフィール●坂茂(ばんしげる)1957年、東京生まれ。高校卒業後に渡米し、大学で建築を学ぶ。大学を1年間休学し、国内の磯崎新アトリエに勤務。その後独立。住宅、商業施設、展覧会のパビリオン、文化施設などの他、世界各地の自然災害被災地で、住居を失った人たちへの仮設住宅建設を手がける。2014年プリツカー賞受賞。05