ブックタイトル心の復興を支える アーク・ノヴァ

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概要

心の復興を支える アーク・ノヴァ

仙台フィルの演奏に合わせて風船が舞う。■ルツェルン・フェスティバルスイス中部に位置するルツェルン湖畔の都・ルツェルンで開催されている伝統の音楽祭。ワーグナーやラフマニノフが暮らしたことで知られるルツェルンで1938年に始まり、今では年間で10万人を超える観客が訪れる。2001年に正式に「ルツェルン・フェスティバル」と改名。春のイースター音楽祭“OSTERN”、夏の音楽祭“SOMMER”、秋のピアノ音楽祭“PIANO”という3つの音楽祭が開催されている。■アーク・ノヴァ建築家の磯崎新氏と彫刻家のアニッシュ・カプーア氏の協働によって生み出された、高さ18m、幅30 m、長さ36 mの可動式コンサートホール「アーク・ノヴァ(Ark Nova)」。ラテン語で『新しい方舟』という意。空気で膨らむ風船構造で、膜は厚さ1mm未満のPVCコーティングポリエステル繊維。2時間ほどの送風でドームとして立ち上がる。この画期的な構造が、被災地を巡る移動式コンサートホールというアイデアを可能にしている。2014年11月、仙台市内の空き地に、突然巨大なドームが現れた。薄い膜の内部からは仙台フィルハーモニー管弦楽団の奏でる調べが聞こえてくる。風船にも似たこのドームは、なんと移動可能なコンサートホールなのだ。『アーク・ノヴァ』と名付けられたこのホールは、伝統あるスイスの音楽祭「ルツェルン・フェスティバル」による復興支援策として設計・建築された。東日本大震災からの復興の一助として、被災地に音楽を届けたい。そんな思いが大きく膨らみ、形になった。この一連のプロジェクトの実行委員長として企画制作に携わってきたのは、KAJIMOTOの梶本眞秀社長だ。同社は戦後まもなくよりクラシック音楽のイベントなどを手がけ、日本の音楽文化を牽引してきた梶本音楽事務所を前身としている。果たしてこの奇抜とも言える『アーク・ノヴァ』は、いかにして生み出されていったのか。それは1本の電話に端を発する。2011年3月11日に発生した東日本大震災。その惨状をスイスのメディアで知ったミヒャエル・ヘフリガー氏から、友人である梶本さんに電話がかかってきた。「日本が大変なことになっているとスイスでも早々に報じられたようで、ヘフリガーが『私たちに何かできることはないか?何かしたいんだ』と言ってくれたんです」ヘフリガー氏はルツェルン・フェスティバル芸術総監督で、それ以外にも多くのイベントに関わってきた人だ。チャリティーコンサートなどの企画はすでに頭にあっただろう。だが梶本さんは「でも、今じゃない」と答えた。「3.11のような未曾有の災害が起きたとき、まず優先されるべきは『命』ですよね。そして衣食住。音楽や芸術にもできることは必ずあるし、いずれ必要とされる。しかし今はまだ早い。被災された方々に親切を押し付けることになってはいけない。少し待とうと彼に言ったんです」梶本さんが最も力を発揮できるのは「プロデュースする」こと。すぐに物資を抱えて被災地に飛び、音楽を提供するアーティストのような支援はできない。自分たちにできることは何か。1年後、2年後の被災地で求められるものは何か……。梶本さんは音楽という枠を超えて、さまざまな分野の友人・知人と語り合い、煮詰めていった。「ヘフリガーとの間で、ルツェルン・フェスティバルがこ