ブックタイトル心の復興を支える アーク・ノヴァ

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概要

心の復興を支える アーク・ノヴァ

石巻工房の理念。アーク・ノヴァのためにつくられたベンチには、「ARK NOVA」に並んで「石巻工房」の焼き印が押されている。石巻工房は、震災を背景として設立されたものづくりの場だ。津波の傷跡深い石巻で、復興のために何を形づくるのか。石巻工房・工場長の千葉隆博さんに語っていただいた。震災当時、津波で破壊されたドアの代用として、流されてきた畳などを利用している家や店舗がたくさんありました。あまりにも被害が広範囲だったため、外部からの支援は追いつかず、住人はどうすることもできずにただ待っていただけでした。ドアの蝶番の構造を理解していて、なおかつ直し方のスキルを持っていれば、簡易的でも復旧が早く進むのでは……そう考えたことが石巻工房発足につながりました。石巻工房は、被災者自らが手を動かして復旧・復興を進めていく、DIY(Do It Yourself)の場なのです。アーク・ノヴァのベンチは、当初は単純に工房が製作し、納品するというオファーでした。しかしホールに設置するベンチですから、必要数も多い。我々はものづくりワークショップを多数開催してきた経験もあるので、「ワークショップ形式で製作できれば、地元参加型のイベントとして意義のあるものになるのでは?」と考えました。そうして2013年の8月と9月、松島で「椅子製作ワークショップ」が開催されることになったのです。ワークショップに参加された方々からは、たとえ塩害によって伐採されてしまった杉材とは言え、瑞巌寺という馴染み深い場所の杉(言わばご神木)を使うことに対する畏敬の念のようなものを感じました。単に木製のベンチをつくるという趣旨を超えた意義を感じていただけたようです。また「ベンチって自分でつくれるの?」と疑心暗鬼だった方が、自身の手でベンチを完成させたときの驚きと喜びにあふれた表情も印象的でした。アーク・ノヴァのベンチ以外にも、石巻工房ではさまざまなワークショップを開催しています。ワークショップでは必ず「考えて、つくる」よう伝えています。実のところ、ワークショップ中はあまり親切には教えません。ですから当然失敗する人も多いのですが、ここで重要なのは「なぜ失敗したのかを考える」ことなのです。技術は練習すれば習得できるものです。しかし、その技術で何ができるのか。「自分のアイデアを形にするにはどうしたらいいのか」を考えてこそ、技術は生きていくのです。ただ待っているのではなく、自ら考えて能動的に動く。石巻工房発足からの変わらぬ理念です。震災から4年が経ち、被災地観光という言葉が生まれ、被災地を訪れる方も増えています。実際に現地を見て「自分に何ができるだろうか」と思い巡らせることは、とても尊いことです。けれどもそれ以上に、いつでもどこでも起こりうる事故や災害に直面した際、ただ支援を待つのではなく、自分がどう行動すれば生き抜くことができるのかを、一人ひとりの立場で考えることが必要です。石巻工房の活動が、そうした緊急時のあり方について模索するきっかけになればと切に願っています。