ブックタイトル子どものABC
- ページ
- 11/52
このページは 子どものABC の電子ブックに掲載されている11ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 子どものABC の電子ブックに掲載されている11ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
子どものABC
5大人になって小さな娘が思ったこと小さな娘が思ったことひとの奥さんの肩はなぜあんなに匂うのだろうもくせい木犀みたいにくちなしみたいにひとの奥さんの肩にかかるもやあの淡い靄のようなものはなんだろう?小さな娘は自分もそれを欲しいと思ったどんなきれいな娘にもないとても素敵な或るなにか……小さな娘がおとなになって妻になって母になってある日不意に気づいてしまうひとの奥さんの肩にふりつもるあのやさしいものは日々ひとを愛してゆくためのただの疲労であったと大人になって気づくこと子どものころは,大人を人格者だと思い,年を重ねると「偉くなれる」と勘違いをしていました。自分が大人になって気付いたことの一つは,「ずるい自分」がいることでした。「面倒だからしないようらくにしよう」「楽しよう」「忙しくてできなかったから仕方ない」と考えたり,言い訳したりする自分です。やまみち夏目漱石の小説「草枕」の冒頭にある「山路を登りちかどさおながら,こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく人の世は住みにくい。」1)のように,思った通りにはいかないのが世の中です。すぐに「なんで自分だけ」「どうせやっても無駄」などというとき,自分の考えを通そうと屁理屈をいうとき,理不尽な意地をはって周囲に無理を強いるとき,自分の感情を他人にぶつけて意気がるときなど,人格者からほど遠い自分がいます。途方に暮れ反省しながらの日々が過ぎるときもあります。仕事もじっくり取り組むのではなく,こなすだけの毎日では,自分を高めることもできず,溜息ばかりが多くなります。こんな大人は,子どもたちの目に,どのように映っているのでしょう。成長する茨木のり子『見えない配達夫』飯塚書店19581)夏目漱石『草枕』春陽堂19079