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概要

子どものABC

39忘れてはいけないこと『優劣のかなたに』大村はま優か劣かそんなことが話題になる、そんなすきまのないつきつめた姿。持てるものを持たせられたものを出し切り生かし切っているそんな姿こそ。優か劣か、自分はいわゆるできる子なのかできない子なのか、そんなことを教師も子どももしばし忘れて、学びひたり教えひたっている、そんな世界を見つめてきた。学びひたり教えひたる、それは優劣のかなた。ほんとうに持っているもの授かっているものを出し切って、打ち込んで学ぶ。優劣を論じあい気にしあう世界ではない、優劣を忘れてひたすらな心で、ひたすらに励む。今は、できるできないを気にしすぎて、持っているものが出し切れていないのではないか。授かっているものが生かし切れていないのではないか。成績をつけなければ、合格者をきめなければ、それはそうだとしても、それだけの世界。教師も子どもも優劣のなかであえいでいる。やりきる出し切る学びひたる国語教育の大村はまが,最期に残した詩には,私たちが大切にしなければならないことが刻まれています。優劣や効率・成果主義など,どれも高速で走る電車の中で,ものごとの判断をしなさいといっているような現代社会です。「時間通りに絵をかいて提出する」,一見あたりまえのように思えます。先日,ある図画工作の授業を参観したとき,その子は,時間通りの提出をためらっていました。そのことを察した先生が「まだ,かきたいの?」と聞いて,その子は「うん!」といって,先生から休み時間や放課後に時間をもらい絵の続きをかきました。後日,担当された先生から「あれから,絵をかき切って,とても満足していました。」というメールをいただきました。添付された絵には,子どもの思いや願いがいっぱい詰まっていました。子どもが「最後までやり切った」「すべての力をだし切った」ときの表情や笑顔には,どんなものにも代えがたい成長の喜びを感じることができます。私も,あなたも,これまでの多くの人に支えられ,今をこうして生きています。私たちは他の人に「してあげたこと」は忘れないのですが,「してもらったこと」は案外気付かず,忘れてしまうものです。大切なことは,してあげたことは忘れても,してもらったことを忘れないことです。そうすると,感謝の気持ちで人生を生きることができます。これまで,みなさんありがとうございます。これからも,どうぞよろしく……。ともに生きる学びひたり教えひたろう優劣のかなたで。苅谷夏子『優劣のかなたに』筑摩書房200745