ブックタイトル子どものABC
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子どものABC
あとがきにかえて「ごめん」と「ありがとう」私は,先生という仕事をしながら,「先生って,本当にいい仕事」と感じるというより,ただただ毎日目先の仕事をこなすことに精いっぱいだったように思います。先日勤めて初めての卒業生が突然訪問してきました。40年ぶりに会う彼の話によると「自分の中で記憶がつながらないところがあるので確かめたい」ということでした。その当時,私は学級担任の傍らサッカー少年団を立ち上げて指導をしていました。試合をすると大量失点で負けてしまうようなチームでした。彼は私の学級の教え子でもあり,サッカー少年団の一員でもありました。彼は「先生には,『シュートされそうになったら,スライディングタックルをかけろ』と,スライディングの練習ばかりさせられました」といいます。忘れかけていた40年前の記憶がよみがえってきました。そういえば子どもたちは,傷だらけになりながらも,一所懸命スライディングの練習をしていました。2年後の練習試合で,PK戦で1勝した時のことを今でもうれしくて忘れないともいってくれました。なんとも,その無謀な指導に「ごめんな」「もっといい指導ができたら」と私は謝り,彼は,「その指導のおかげで大学までサッカーを続けることができました。本当にありがとうございました」と言いました。私の「ごめんね」と彼の「ありがとう」が何度も繰り返されました。最後に彼は,深々と被っていた帽子をとり「癌の治療で髪の毛が抜けました」と言い,一週間だけお医者さんから許可をもらって会いにきたことを告げました。別れの時を迎えて,「先生より先に死んではいけない」と帰る彼の後ろ姿に告げながら,私ははじめて先生という仕事を心から誇りに思いました。「もっともっと,よい指導を」と思いながらも「ごめんね。ごめんなぁ」と謝ってばかりで駆け抜けた人生でした。小さくなる後ろ姿を見ながら「ありがとう」とつぶやいていました。平成24年4月平成25年4月北海道教育大学岩見沢校美術教育研究室阿部宏行abe.hiroyuki@i.hokkyodai.ac.jp発行日平成28年5月14日平成26年5月平成27年4月1954年生まれ。北海道教育大学岩見沢校教授。中央教育審議会初等中等教育分科会幼児教育部会・芸術WG委員,評価規準,評価方法等の研究開発に関する検討委員会(小学校図画工作)委員,学習指導要領の改善等に関する調査研究(小学校図画工作)協力者などを歴任。主著:『図画工作の指導と評価』(東洋館出版社,共著),『私がつくる図画工作の授業』(日本文教出版,共著)48