ブックタイトル図工・美術でゆたかなくらし

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概要

図工・美術でゆたかなくらし

社会と社会の中の美術に親しむ─ パブリックアートに足を止める子を育てる─ 建物、駅、公園、美術館など、公共に意図をもって設置されている彫刻の作品や記念碑といったいわゆるパブリックアートは、日常生活の中で身近に接することができます。しかし、よい意味で生活に溶け込んでいるため、気に留めないでいることもしばしば。学習指導要領の解説に、高学年では、自分自身を取り囲む場所や、三次元的な奥への広がりなどへの働きかけにより、光や風などの自然の環境、人の動きなどの場所や空間の特徴を捉える、といったことが書かれています。そこで、児童に立体をつくる面白さとともに、その立体が美しく見える場所に置いて空間を意識させ、場との関連を味わわせたいと考えました。そして、そのことがパブリックアートに興味をもち、さらには世の中のさまざまなよさや美しさに気付いてほしいと題材を設定しました。身近すぎて見えないアート1生涯にわたって美術を愛好する心を育むというと、とても難しいことのように感じませんか。しかし、それは一つひとつの活動に丁寧に取り組むことで育っていきます。大切なことは教師自身がそのことを理解して、子どもに題材を手渡すことではないでしょうか。 土粘土を用いて、「心の形をつくる」をテーマとしました。立体をつくるとき、「先生!後ろ側もつくるのですか?」と、子どもから質問されることはありませんか? 子どもの中には、つくりたいものが浮かぶとき、写真を撮ったかのように正面のみを想像していることがあるようです。そこでまず、五年生の算数で学ぶ「立体や体積」を生かして「直方体」「球」などを粘土でつくり、塊や量感を認識できるようにしました。また、「たたら板」などの技法についても教えました。さらに、本題に入る際には、形がないものを形にするため、言葉によって「気持ち」を出し合い板書で深めることを大切にしました。その後、完成した作品を自分で選んだ場所に置いて、写真を撮り、実際の作品と写真を並べて展示し、鑑賞し合いました。2 場に作品を置いて、見え方を味わう子どもの発達の段階を意識する自分→他者→社会と、子どもの世界は広がっていきます。発達の段階を意識し、高学年で身に付ける力を低学年から意識して積み上げていく必要があります。前学年までで十分に抑えられなかった場合は、補ったカリキュラムも必要です。動き、奥行き、バランスなどをキーワードを基に言葉で語らせる作品のテーマや、なぜ作品を置く場所をそこにしたのかなど、言葉にすることで、自分の振り返りになり、他者の作品を鑑賞することにつながります。パブリックアートに足を止める何を教師が教えて、何を子どもが考えるのか初めから用意しておく用具、途中から出す用具、子どもたちが創造力を働かせることができるようにタイミングを考えることも必要です。また、何を教えて何を考えさせるのか、ねらいを明確にしましょう。つくることがきっかけに写真などで立体作品を鑑賞することがありますが、子どもには、平面としか捉えられないことがあります。今回の場合であれば、自分で立体をつくる経験をしたことにより、空間に存在することに気付き、立体としてのよさや美しさが分かるきっかけになると考えます。つくることで見えてくる3  子どもは、素材に触れて、手を十分に動かすことを保障すると、さまざまなことを思い付き、工夫します。自分の作品の写真を撮る際には、どの子も自分が思った場所に迷わず持って行き、「木漏れ日のところに置きたい」「校舎の窓ガラスが背景になるように置きたい」といった、光や影、周りの風景との距離を意識するこだわりが見られました。こうして、迷わず場所を決められるのは、つくりながら「あそこに置いたら、こう見えるだろうな」と、学校のさまざまな場所との見え方をある程度想像できる力が付いていることも分かりました。私たちは、表現や鑑賞の活動を通して、子どもたちの豊かな感性を引き出し、育てているということを忘れてはなりません。パブリックアートに足を止めるということは、日常の何気なく見ていたことがよく見たら面白かった、こんなにも美しかったのかなどと感じる力を育てるということです。30 31