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概要

形 forme 302号

1127,335,562コンピュータと呼ばれるものに、初めて触れたのはいつだったか。筆者にとっては昭和五十年代の半ば。小学校の通学路、駄菓子屋の軒先にならぶシューティングゲームがそれだった。小銭を投入、ボタンを連打すると甲高い音を発し、視覚と聴覚に今までにないほどの刺激を訴えてくる。それさえあれば知らない同級生たちとも連帯できる、そんな媒介としての役割もあった。小遣いの減りを気にしながらのめり込んだゲームは、その後ポケットに入るサイズに進化。そうなると、一つでも多く持っている者を頂点にヒエラルキーができ上がった。トップに君臨したある友人は一台六千円ほどする遊具を増やし続けた。だがある時、彼は家の金を盗みゲームを買っていたことを両親に見付かってしまう。ここでサークルは散会。片田舎で暮らす少年たちは「コンピュータ」とそんな出会い方をした。テクノロジーは、それ自体の進化とはまた別のところで思いもよらぬ作用をもたらすこともあるのだ。パソコンを使う……それが仕事となる東京に住んでいた小学生、真鍋大度の元にそれが届いたのは、昭和六十年頃。両親が購入したものだった。すぐに彼はパソコンで計算やゲームに没頭するようになった。数学がもっぱら得意で、高校は医学部コースに進学。同級生とちがっていたのは、クラブイベントでDJをしていたこと。大学は理学部数学科を出たが研究者にはならず、大手メーカーでシステムエンジニアの職に就いた。数年後、ウェブ業界に転職したが、ウェブバブルが萎んでいくのを感じ、メディアアートをやろうと岐阜にある国際情報科学芸術アカデミーに入学した。専攻する学生が目指す方向は、今ではスマートフォンのアプリ開発などあるが、当時は社会に見えるような形で還元できる時代ではなかった。出される課題は、コンピュータ同士が対等な通信を行えるネットワーク形式ができたことを受け、それによって音楽サービスがどう変わるのか……等々。新しいテクノロジーの使い道を探る、そんな思考の訓練に日々を費やした。数学の定理を見付けるには特別な才能が必要だ。それに時間もかかる。だから実践的なプログラムを書きたいとシステムエンジニアを選んだ過去。その後、ウェブ制作会社で垣間見たIT業界の推移。彼がここで研究に没頭したことは、スピード感に左右された数年を問い直す貴重な時間となったのかもしれない。卒業制作はモノを作りたいと考え、「聞こえない音」を聞くことのできる椅子を作った。二十ヘルツ以上といわれている人間の可聴範囲。それ以下の音は、人間内部の骨振動で感知することができる。それを形にすると、鑑賞者が椅子に座ると振動、発した低周波音に緩衝した音がヘッドフォンから流れ出すという体験型の装置となった。低周波音を扱う論文を読むと、ダムや空港付近で人間が一定時間過ごせば呼吸不全に陥るといったようなネガティブな問題が多く、その点を自分なりに捉え直したいと思ったのが最初だった。〝実験?から〝演出?へ卒業後は、知人と請けていた大手メーカーのショールーム演出が順調に運び、会社を作ることになる。その間も、人間の生体に影響を与える現象への興味は続いていた。当時気にかかっていたのは、人間の表情をテクノロジーでどう読み取るかということ。認証機能においてカメラより劣るコンピュータ。ならば医療などで使う筋電位センサーで、何かできることがあるかもしれない。すぐ実験に取りかかった。人間の「笑顔」を読み取り、データをレコーディング。そして再び、電気信号で人間に戻したら、同じ笑顔が作れるのではないか。仮説に基づく一連の実験を動画に記録、YouTubeにアップした。と、すぐに「どうやってるの?」とネット間で議論が起こった。顔に電気刺激装置を取り付けた不可思議な動画、その真偽を人々が知りたがったのだ。YouTubeの草創期、実験の過程をアップし、不特定多数に問いかけるような使い方は皆無だった。「そこにセンサーとデバイスがあるのならば、まだ誰もしていないし、やってみたかった」という冒険心は、鑑賞した人々が議論を起こす新しい波をつくった。その流れが、テクノポップユニットPerfumeのライブ映像やウェブサイトを担当する今の仕事につながっている。昨年、その斬新なプロモーションが多くの賞を受賞。ヨーロッパで行われたライブでは、通常、建築物に投影するプロジェクションマッピングを、ダンスをする彼女たちの身体に投影し話題をよんだ。特筆すべきなのは、投影された像に彼女たちのファンがツイッターでつぶやいた言葉や、作り出したグラフィックが映し出されていたことだ。「ファンとPerfumeをつなげる」という一連の企画テーマは、真鍋のプログラミングを介すことで、文字通りファンとPerfumeとをつなげ、大舞台において成就したのだ。その前段で、以前より二次創作として、ファンたちがアーティストのダンスを改編しCG化するというネット発カルチャーが盛り上がりをみせ、そこで最も多く取り上げられたのがPerfumeだったという事実があった。だが著作権の問題が表面化するにつれ、状況は拘泥していた。であるならば、彼女たちが踊るデータや楽曲をオープン化し、ファンが二次創作できる仕組みをこちらから17 | 302 | forme