ブックタイトル形 forme 302号
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形 forme 302号
作ればいいのではないか。真鍋たちはそう考え、実行したのだ。著作権問題、これを送り手側から解放したことは革命的なことだろう。データを受け取ったファンが自由に創作、アーティスト側にフィードバックする試みは、現在公式サイトでそのCG作品を閲覧できるまでになった。ここでは、世界中のどの国で、誰が、どんな曲をリアルタイムで聞いているのかがマップとともにビジュアル化されている。ネットを介した双方向のコミュニケーションが進む世の中では、プログラマーとしての真鍋の仕事が生きる。しかし今の彼は、もはやプログラムを書かない仕事も多く、プログラミングの先にある「演出」に踏み込んだといえる。件のライブで扱ったモーションキャプチャーは映画やアニメで使い古された技術で、これを最先端の演出に盛り込んだことが評価された。その仕事は、いまだ視覚化されていないテーマをテクノロジーで顕在化させ、アートにまで演出することなのだ。デジタル時代のコミュニーケーション真鍋には、チームでの仕事と並行して行う個人的な試みがある。例えば、耳が聞こえないダンサーとの研究。それは、「電気刺激装置を使うと自分にも音楽が聞こえますか」とメールを受けたのが最初だった。実際に彼に会い、普段の踊り方を問うと、隣にダンサーを配し踊ったり、映像や照明を頼りにするという。さらに対話を重ねるなか、彼の「振動に反応する触覚」が進化しているのがわかった。「振動だけでも限界があるなと思ったので、既存の楽曲を解析して電気信号に変えるアルゴリズムを新しく作ったんですね。それで刺激装置を付けてもらい、その楽曲のPVを見ながら踊ってもらったら、音楽がどれだけ複雑なのか初めて分かった気がすると言ってもらえたんですよ」振動において低音だけしか感じることができなかったダンサーの新しい発見に応え、真鍋はさらにアルゴリズムを改良、現在は重層的な音楽を自作し始めている。これは、彼自身が以前から持っている身体への興味に加え、目の前にいる他者との対話を通して生まれてきたことだ。彼はここを出発点に、コンピュータを利用し「人間の感覚にまつわる現象」、その可能性を探ってゆく。そして、見付け出したことを、誰も見たことがないような形にビジュアル化し、もう一度人間に還す。彼は、それを受け取った人の反応を何よりも見たいのだ。この三十年で、人々が身近に持てるパソコンはデスクトップからノートとなり、スマートフォンに至った。もはや見ず知らずの人とオンラインでゲームもできる。これからの子どもたちは、三十年前の筆者のようにポータブルゲームを介して同級生と仲間になるようなことはないかもしれない。コンピュータと人間の密接な関係が知らぬ間にある今、それが何を生み出してゆくかは予測できないことなのだ。世界はコンピュータで制御できるものが増えていく。だから、問われるのは人間の資質であろう。まだまだ大多数である一方的に情報を受け取る側の人間は、これからも信頼できる送り手に道先案内をしてもらいたいと思うはずだ。であるならば、その送り手は、マスで最先端のコミュニケーションを扱いながらも、人間と一対一で深く対話ができる真鍋のような人物であるべきではないか。デジタルの海に溺れかかっている人たちにこそ、複眼的な視点を持つ彼の声に耳を傾けてもらいたい。真鍋大度まなべだいと一九七六年、東京都生まれ。東京理科大、国際情報科学芸術アカデミー卒業。プログラミングを駆使し、アート・エンタメ分野で既存の枠組みを越えたプロジェクトを手がける。受賞歴多数。1127,335,562YouTubeで話題となった実験動画『electricstimulus to face』から派生した作品。Daito Manabe“electic stimulus to face - test 7”(photo by Muryo Homma(Rhizomatiks) )forme | 302 | 18