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概要

形 forme 304号

●六匹のハムスターより一匹のエアウサギ当時担任していた三年生のクラスでハムスターを六匹飼うことになりました。そこで「わくわくハムスターランド」という題材を実践しました。段ボール箱の中にハムスターが楽しめる遊園地や部屋をつくるというものです。子どもは実際にハムスターを入れて試しながらつくりました。それを研修会で発表したところ「ハムスター地獄だ」など、先輩たちからはダメ出しの嵐でした。しかし、私は納得できませんでしたが数ヶ月が経ち、参加した合宿研修で聞いた大先輩の実践で目から鱗が落ちることになります。その授業では、飼育小屋でウサギを観察していた子ども一人一人に、先生がウサギを渡すふりをします。すると子どもたちは大事そうにエアウサギを抱え教室に持ち帰り、机の上に置いてウサギの絵をかき始めたというのです。子どもはウサギの柔らかさや温もりをイメージで感じていたでしょう。私たちはよかれと思い、ふんだんに材料や用具などを与えがちですが、実は子どもから〈創造的な想像力〉という資質能力を発揮する機会を奪っているのかもしれません。年が近いから自分の方が子どもの気持ちが分かると子ども理解を勘違いしていた新卒二年目の頃の話です。北海道札幌市立拓北小学校湯浅大吾●わたしの原点二十年以上も昔、わたしが新米美術教師だった頃、ポスターカラーを使わず、色紙を貼って平面構成の制作をしました。時間短縮を狙った単なる思い付きの課題でした。するとある生徒が色紙の限られた色彩を見事に使いこなし、輝くような美しい作品をつくりだしたのです。全く予想外でした。彼はそれまで目立つような作品はつくっていなかったからです。そこで気付いたのです。その生徒は元々素晴らしい色彩感覚を持っていた。でも、色塗りが苦手で、わたしの指導も拙く、その力を引き出すことができていなかったのだと……。それがわたしの授業の原点です。どういう課題を設定し、どういう授業をすれば、子どもたちの素晴らしい才能や可能性を引き出せるのか、その事を常に考えるようになりました。小さな工夫で子どもたちの作品は大きく変わりました。わたしも嬉しかったし、子どもたちも喜んで、より一層熱心に美術に取り組んでくれました。その積み重ねで今があります。自分が思っていた以上の作品を仕上げた時、子どもたちが見せてくれるちょっと自慢気な笑顔、その顔が見たくて、今も授業に小さな工夫を加え続けています。鹿児島県鹿児島市立星峯中学校内村祥●木彫の盆から教師になりたてのころ、家庭訪問先で木彫の盆でお茶を出されたことがありました。植物をデザインし、荒い彫りだが味わいのある盆でした。この盆のことを尋ねてみると、子どもが美術の授業でつくった作品でした。子どもの作品を生活の中で使い楽しんでいる、この家庭の心の豊かさに感心させられました。以来、生活と結び付いた題材にこだわり指導してきました。葉をデザインしたコースター、自分で漉いた和紙を使ったランプシェード、アルミ缶を溶かしてつくったペーパーウエイトなど、身近に置いて永く使えるものを、材料にも配慮して制作させました。今の世の中、簡単で便利なことが幅を利かせ、安価な商品や使い捨ての商品が生活の中に浸透しています。こうしたことから、ものを大切にする気持ちが薄れてきているように感じます。このような世の中になってきているからこそ、ものと向き合い、ひとと向き合う美術の指導をとおして、豊かな心を育ててほしいと思います。ものを大切にする気持ちは、ひとを大切にする気持ちにつながります。群馬県桐生市立清流中学校教頭栗原健一●ともに学ぶ図工・美術の先生と子どもが、ともにつくりだす学びの日々。forme | 304 | 26